◆前編:田澤純一が語るいきなりメジャーの12年間田澤純一が語ったMLB時代と今後 後編 ルートインBCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズに所属する田澤純一は、「いろいろな人のおかげで今がある」という感謝を胸に、日本で迎えた2020年シーズンを過…

◆前編:田澤純一が語るいきなりメジャーの12年間

田澤純一が語ったMLB時代と今後 後編

 ルートインBCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズに所属する田澤純一は、「いろいろな人のおかげで今がある」という感謝を胸に、日本で迎えた2020年シーズンを過ごしている。今年6月で34歳になった田澤を支えているのは、「もっといい投手になりたい」という向上心だ。


8月8日にBCリーグ初勝利を飾った田澤

 photo by Shiratori Junichi

「才能を持っていて羨ましい」という大谷翔平のチームメートとして、ロサンゼルス・エンゼルスで過ごした2018年夏。キャンプ地のアリゾナで、トレーニングをしている時に受けた動作解析が自らのピッチングと向き合う転機になったという。

「動きを細かく見てもらいました。まだまだ自分がよくなっていくという感覚があって新鮮でしたね。年齢を重ねても、当たり前の動きができていないことがあるんですよ。例えば、ダッシュをしてから止まる時に足のぐらつきを少なくするとか。今は、徐々にいろいろな動きができるようになっていく実感があります。

 高校時代は『やらされている』感覚でトレーニングをしたこともありましたが、今は『こうすればできる』というのがわかる。自分が向上していく感覚があるからこそ、野球を続けられています」

 現在は筑波大学の研究室に通って動作解析を続けながら、理想の動きを追い求め続けている。

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響に伴い、開幕の目処すらも立たない状況が続いた今シーズンのメジャーリーグ。今年の3月にシンシナティ・レッズを解雇された田澤は、それ以降、所属チームがない状態が続いていた。

「アメリカでは外出禁止措置が取られて、練習ができませんでした。なので3月に練習場所のある日本に帰国して、シーズンに向けた体作りをしていたんです。新しいチームと契約できるかはわからない状況でしたが、目標を立て、自分を信じてやるだけでしたね。チームが決まらない時には、上原(浩治)さんが連絡をくれたりしました。あらためて、いろいろな人との出会いに恵まれ、ここまでやってこられたことを感じた期間でした」

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 7月1日には今シーズンのマイナーリーグ中止も発表され、「海外でプレーすることを考えていた」という田澤はさらに苦しい状況に追い込まれた。「田澤ルール」によってNPB球団との契約も制限されていたため、限られた選択肢のなかからチーム探しを強いられることになった。

 そんな田澤の元に届いたのは、埼玉武蔵ヒートベアーズを率いる角晃多監督からの熱烈オファーだった。

「球団と契約する前は、金額の交渉といったシビアな話をすることが多いんですけど、角監督からは、『本当に一緒にプレーしたい』という伝言を毎日もらっていました。その熱が決め手になりましたね。このチームを選んでよかったと思います」

 7月13日に入団記者会見を行なった田澤は、同31日の栃木ゴールデンブレーブス戦で6回から初登板。2三振を含む3者凡退で無失点に抑えて格の違いを見せつけると、8月8日の神奈川フューチャードリームス戦でBCリーグ初勝利をマーク。ここまでリリーフとして10試合に登板し、2勝2ホールドを挙げている。

 メジャーリーグであらゆる経験をしてきた田澤の存在は、若い選手が多いチームにとって大きな刺激になっているだろう。

 日本の独立リーグは、移動距離の長さやプレー環境が「厳しい」と言われることも多い。"ハンバーガーリーグ"とも表現されるアメリカのマイナーリーグでプレーした田澤は、どのように感じているのだろうか。

「少なくとも僕がいた時のマイナーリーグでは、ハンバーガーはそんなに食べなかったですよ(笑)。きちんと野菜中心のメニューでした。球団から栄養管理についての講義を受けたこともありましたし、徐々にマイナーリーグの環境もよくなっていると思います。

 確かに10時間くらいバスで移動することもありましたけど、移動先では3連戦の試合が組まれている。一方で今シーズンのBCリーグでは、埼玉武蔵と神奈川の試合が年間20試合組まれていますが、埼玉と神奈川を連日移動するのも大変なこと。どちらかだけが大変というわけではないと思いますよ」



練習前に取材に応じた田澤

 田澤の入団会見で、角監督は「次のステップに進むための場がBCリーグ 」と語った。田澤本人は「今年は契約してもらったヒートベアーズの一員として、シーズンの最後までプレーする。その後については、さまざまな方と相談しながら決めていきたい」と、来年以降についての言及は避けた。しかし9月7日には、田澤が日本球界でプレーする際のハードルになっていた「田澤ルール」の撤廃が決まるなど、追い風が吹いている。

「ルールの撤廃を決めていただいたこと本当に嬉しく思っています。ご尽力いただいた皆様に感謝いたします。今後、自分を必要としてくれる球団があったら、NPBの舞台でもプレーできたらと思っています。そのためにも今は、ヒートベアーズで精一杯投げたい」

 そうコメントを発表した田澤は、「残りの野球人生は短いと思う一方で、まだまだ自分のなかで、野球がうまくなっていく感覚がある」とも語った。今後は、10月26日に行なわれるドラフト会議が近づくにつれて、注目度が高まっていくだろう。モデルチェンジを重ねながら進化を続けていく田澤に、どんな未来が待っているのか。