リオデジャネイロ五輪を終え、「何か見えてくるかなと期待したけど、終わってみて何も変わっていない」と淡々と大迫傑は語った。「今までやってきたことを出せるか出せないか。終わったらここが足りなかったねとトレーニングすることの繰り返し。ネガティブで…
リオデジャネイロ五輪を終え、「何か見えてくるかなと期待したけど、終わってみて何も変わっていない」と淡々と大迫傑は語った。
「今までやってきたことを出せるか出せないか。終わったらここが足りなかったねとトレーニングすることの繰り返し。ネガティブでもなくポジティブでもなく…」
大迫は陸上男子1万mに出場した。入賞を目指したが、結果は17位だった。男子5000mは決勝に進めず、予選敗退の28位に沈んだ。
「このままではダメだという自覚というか、改めて頑張ろうというモチベーションになりました」と振り返り、次の目標に来年の世界選手権を掲げる。リオデジャネイロ五輪後に休息し、今は短めのジョグから少しずつ距離を伸ばすトレーニングをする。
リオデジャネイロ五輪陸上男子5000mを走る大迫傑(中央) (c) Getty Images
■米国のナイキ・オレゴン・プロジェクトで活動
佐久長聖高校(長野)、早稲田大学で駅伝を経験。卒業後は日清食品グループに入社して実業団レースやアジア大会を走った。転機が訪れたのは2015年3月だ。プロ転向を決意し、大学時代から短期練習に加わっていたスポーツブランドのナイキが米国オレゴン州に拠点を置くナイキ・オレゴン・プロジェクトに参加した。
家族とともに海を渡り、モハメド・ファラーなど超一流選手とともに日々トレーニングに明け暮れた。大迫にとって、日本との一番の違いは環境だ。
「良くも悪くも自分のために走れる。人のことは考えないでいいので、より自分の目標に集中できる環境だなと思います。(ファラーなど)常に自分よりも上の存在がいるので、目標として設定しやすい。今の自分のいる位置がどのくらいかわかりやすいので、頑張れる」
ナイキ・オレゴン・プロジェクトにはリオデジャネイロ五輪で男子1万m、5000mの2種目で五輪連覇を達成したファラー、男子マラソンで銅メダルを獲得したゲーレン・ラップなどトップアスリートが顔をそろえている。大迫は唯一のアジア人選手だ。
米国の生活で食事も変わったが「そんなに苦労はない」と笑う。理由は、食べるものや味付けがシンプルだから。合宿のときは全部自分で作るが、3日間鶏肉を食べることもあるという。日本食はたまに恋しくなる。そんなときは焼肉に手が伸びる。
異国での競技活動を支えているのは家族の存在も大きい。
「僕らの場合、競技以外の時間をどうリラックスして過ごすのかが重要だと思っているので、いい意味で気を散らせる。一緒にどこか行って楽しんで、競技にとってプラスになります」
大迫傑
合宿などで家を離れると「娘にも忘れられちゃうので」と電話やビデオ通話を使って言葉を交わすことは忘れない。愛娘とは公園で遊んだり、買い物に行くことで大迫も疲れを癒す。
また、なるべく本を読むように心がけており、メンタルを鍛えることにもつながっている。
「マンガでもなんでもいいんですけど、活字に触れないと頭がフリーズしちゃう。日本語を忘れかけるというか、コミュニケーションが取れなくなる(笑)」
■2020年東京五輪に向けて
東京五輪まで4年を切った。大迫は「すぐやってくると思う」と見据える。だが、課題も多い。
「前回のロンドンからもすぐだった。もっと早く来るんじゃないかな。スピードもそうですし、スタミナ系の部分も強化したい。筋力のウエイト的な部分もそうなので、コレってひとつはないですけど、まんべんなくさらに強化していかなくては、という感じ」
リオデジャネイロ五輪陸上男子5000mの様子 (c) Getty Images
国際大会経験が豊富なこともあり、五輪といえども特別な感じはしなかった。ほかの国際大会との違いを、「盛り上がってくれる人が多くなる」と答えた。
「意外となかにいると、どれだけ盛り上がっているかわからない。だから普通の大会にしか見えないんですけど、ただ(五輪に)行く前にいろんな人に声をかけてもらって、割と外側、応援してくれる人たちの盛り上がり方が違うというところが一番かな。中身は走ってるメンバーもそんなに変わらないので、世界陸上とかと違う感じではないです」
大迫にとって走る魅力とは何だろう。「なんで走っている?」とストレートな質問を投げてみた。
「いまは仕事だから。それが普通だから…。一番最初はなんとなく。自転車とかあってもたまにパンクするじゃないですか。それが面倒くさいので友だちと遊びに行くときも友だちは自転車で、ぼくだけ走って行くみたいな(笑)。生活のなかの一部になっていった」
小学校時代は野球をやっていた。チームで走らされることが多く、そこから自然と長距離を走るようになっていく。中学で本格的に陸上の世界に足を踏み入れ、佐久長聖高校で頭角を現した。
11月24日には大迫がカラーデザインをしたランニングシューズ「ナイキ エア ズーム ストラクチャー 20 iD 大迫傑モデル」がリリースされる。
ナイキ エア ズーム ストラクチャー 20 iD 大迫傑モデル
大迫モデルには「原点にかえる」という意味を込めて、日の丸の赤をベースに佐久長聖高校時代のユニフォームカラーであるオレンジの差し色でデザインされている。自分の好きな色のシューズで走れることはモチベーションアップにもつながるという。
「目の前の1シーズン1シーズンを確実にこなしていくことが大事です」
東京五輪に向けて、原点を振りかえりながら、大迫傑はこれからもゴールに向かって突き進んでいく。
●大迫傑(おおさこ すぐる)
陸上長距離種目選手。1991年5月23日生まれ、東京都出身。ナイキ・オレゴン・プロジェクト所属。2012年世界ユニバーシアード選手権1万m優勝。5000m日本記録保持者。
取材協力:ナイキジャパン
大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)撮影:五味渕秀行
リオデジャネイロ五輪陸上男子5000mを走る大迫傑 参考画像(2016年8月17日)(c) Getty Images
リオデジャネイロ五輪陸上男子5000mの様子 参考画像(2016年8月17日)(c) Getty Images
ナイキ エア ズーム ストラクチャー 20 iD 大迫傑モデル