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9月12、13の両日にコーセー新横浜スケートセンターで開催されたフィギュアスケートのアイスショー「ドリームオンアイス2020」。新型コロナ感染症の影響で無観客ながら、試合形式で2日間にわたってショートプログラム(SP)とフリーを滑るこのショーは、鍵山優真(17歳)と佐藤駿(16歳)にとって、新プログラム初披露の場となった。ふたりはシニア初シーズンへ向け、意欲的な構成での演技を見せた。
9月13日、ドリームオンアイスのフリーを滑る鍵山優真
初日のSP。ふたりが挑んだのは、ともに4回転ジャンプを2本入れるプログラムだった。それをほぼノーミスで滑り切ったのは、最終滑走の鍵山だった。
冒頭の4回転サルコウからの連続ジャンプは、予定していた4回転+3回転が4回転+2回転になったが、それに慌てることなく跳び終えると、昨シーズンからプログラムに入れている4回転トーループをきれいに決めた。コンビネーションスピンの後には、大きさがあるトリプルアクセルもきっちり成功。難しい動きのステップシークエンスもこなし、2種類のスピンで演技を終えた。
「まずは、ジャンプが全部決まって『ヨッシャー!』という気持ちです。4回転は練習からすごく調子がよかったので、そのまま跳べました。他の部分も最初から最後まで練習どおりに動けた。シニア初の表舞台が試合形式のショートで緊張しましたが、いい演技ができたので、すごく自信につながりました」
こう話す鍵山にとって、この新しいプログラムは「何も怖がらずにどんどん挑戦し、経験をしていきたい」という気持ちを前面に表している。
SPについて、7月の全日本シニア強化合宿時にはコーチでもある佐藤操氏の振り付けの『テイク・ファイブ』と公表したが、その後ローリー・ニコル氏に振り付けを依頼し、チェリストのヨーヨー・マの『ボーカション』になった。シルクロードのさまざまな道を旅して戦うイメージの曲だ。
だが、その曲調は最初からアップテンポで、鍵山自身も「踊り続けている感じ」といい、体力が必要なプログラムになっている。曲調が優しくスローになってもステップシークエンスでしっかり踏むことを意識しなくてはならず、最初から最後まで休めるところがない構成だ。曲かけ練習を終えた後は荒い息づかいをしていたが、本番はしっかりやり通していた。
一方、佐藤のSPの『パイレーツ・オブ・カリビアン』も、振付師ブノワ・リショー氏の独特で複雑なつなぎがある難しいプログラムだ。今季は表現力向上も意識し、「曲かけを何度も繰り返し、特にステップの練習に力を入れてしっかり表現できるようにしている」と話す。
フリー演技時の佐藤駿
ゆっくりとした曲調の前半、佐藤は振り付けを意識した丁寧な滑り出し。しかし、グループ1番滑走の緊張感もあったのか、動きに硬さがあった。勢いに乗れず、最初の4回転トーループは両足着地になって連続ジャンプにできず、次の4回転ルッツも軸が流れて3回転にとどまった。
それでも後半のトリプルアクセルをきれいに決めてからは立て直し、ステップシークエンスを大きく見せる動きでしっかりこなすと、コンビネーションスピンで締めた。
演技後、佐藤はこう振り返った。
「ジャンプのミスはあったが、その他に関してはよかったと思います。海外の人に振り付けを頼むのもリモートで練習するのも初めてで苦労しましたけど、丁寧に教えてもらって形にできました。まだ海賊のイメージを出すまではできていないので、もっと頑張って表現できるようにしたいです」
翌日のフリーでは、鍵山は4回転2種類3本でうち1本は後半に入れ、佐藤は3種類4本という難度の高い構成に挑んだ。
この日グループ1番滑走だった鍵山は、SPと同じく当初から変更した『ロード・オブ・ザ・リング』。冒頭の4回転サルコウ+3回転トーループは余裕をもって決めたが、次の4回転トーループで転倒すると、3回転フリップを決めた後のトリプルアクセルでも転んだ。
「前半でジャンプのミスが続き、それで体力がなくなり後半はバテバテになってしまった。ジャンプのミスが多く、ジャンプのことしか考えられなくなりました」
鍵山はこう話すように、後半は全体的に焦りが見える滑りになり、4回転サルコウで転倒して最後のトリプルアクセルもシングルになるなどミスを連発。「後半に4回転とトリプルアクセルが入っているので、体力がすごく大事になると実感した。もっと体力をつけることがこれからの課題です」と、本人は反省しきりだった。
2番滑走の佐藤は、練習で苦しんでいた冒頭の4回転ルッツで転倒するスタート。続く4回転サルコウはきれいに決めたが、次の4回転トーループは着氷した後でスリップするような形になって転倒。それでも、続く4回転トーループ+3回転トーループは成功させ、4回転4本のチャレンジを終えた。
その後は、フライングシットスピンからスピードを取り戻すと、後半の連続ジャンプと単発のトリプルアクセル2本も耐えて、最後の3回転フリップからの3連続ジャンプをしっかり決めた。
佐藤のプログラムは、SPと同じくリショー氏の振り付けの『バトル・オブ・ザ・キング』。こちらも難度が高く、プログラム自体をまだこなし切れていない感じだが、「ミスはあったが、初めてにしては4回転を4本入れる構成をけっこうまとめられたと思う。これから4回転をどんどん磨いて効率を上げていきたいです」と納得の表情だった。
シニア初シーズンながら、ふたりのプログラムはそれ自体が表現を強く意識しなければいけない難しいものだ。加えてSP、フリーともに複数種類の4回転ジャンプを入れた構成は、世界をけん引するシニアのトップ選手にも引けを取らない。
これまでの日本男子では、シニアデビューシーズンで、SPとフリー同時に複数種類の4回転ジャンプに挑戦することはあまり考えられなかった。
だが、羽生結弦がサルコウとトーループ2種類を入れたフリーの構成で14年ソチ五輪と世界選手権を制してからは、世界のトップに立つためには複数種類の4回転習得が必須となり、男子はさらなる4回転時代へと一気に加速した。
鍵山と佐藤は、羽生結弦の活躍を見て育ってきた世代だからこそ、複数4回転挑戦も「当然のこと」としてとらえているのだろう。頂点に立つためには、ジャンプ自体の精度や質を上げるとともに、プログラム自体の完成度も高めていかなければならない。そのことをすでに十分承知しているふたりは、大きな意欲をもってシニア挑戦のスタートを切った。