「NBAバズ動画解剖」―プレーオフにSNS上で話題を呼んだ動画を渡邉拓馬が分析 米プロバスケットボール(NBA)はプレーオフに突入し、連日、トップ選手たちが世界最高峰のワザで競演している。「THE ANSWER」はプレーオフ期間中の特別企画…

「NBAバズ動画解剖」―プレーオフにSNS上で話題を呼んだ動画を渡邉拓馬が分析

 米プロバスケットボール(NBA)はプレーオフに突入し、連日、トップ選手たちが世界最高峰のワザで競演している。「THE ANSWER」はプレーオフ期間中の特別企画「NBAバズ動画解剖」を始動。プレーオフ期間中に飛び出し、SNS上で“バズったプレー”を元日本代表・渡邉拓馬氏が独自の視点で解説する。第3回はNBA公式ツイッターが8月24日に複数投稿し、最大で再生回数232万回を突破した「残り0.8秒で放った決勝ブザービーター」だ。

【バズ動画はこんなプレー】西地区1回戦のマーベリックス―クリッパーズ第4戦、最終クォーター(Q)残り3.7秒。132-133と1点を追うマーベリックスのオフェンス。左サイドから再開され、パスを受け取ったのはルカ・ドンチッチ。3ポイントラインから後方3メートルの位置だったが、マークについた相手を小刻みなフェイントで翻弄。そして、最後は残り0.8秒、フェイドアウェーで放った3ポイントを沈め、決勝ブザービーターとなった。

 NBAファンを熱狂させたドラマチックな結末。その裏で渡邉氏が見たバズポイントとは――。
 
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 残り1秒を切り、焦ってもおかしくない状況でドンチッチがこの冷静に決め切るということが凄いこと。ですが、一番のポイントはシュートを打つまでの駆け引きにあったと思います。

 1点差で残り3.7秒。まず、サイドラインからボールが入る時、マーベリックスとしてはドンチッチに渡そうというのが狙いにあった。ただ、この時点でマッチアップしていたのが、ディフェンスに定評のあるレナード。彼との1on1を避けたいという思惑がマーベリックスにもある。そこでドンチッチからマークをずらすスクリーンを狙いに行きました。

 クリッパーズにしてみれば、ドンチッチにはレナードがついてほしい。ただ、スクリーンがあるとコミュニケーションミスでオープンにさせてしまうこともある。なので、スクリーンがあった場合は全員がスイッチして、相手が切り替わってもいいから誰もノーマークにしない守備をします。ミスマッチにはさせたくないですが、時間が少ない時はシュートを打たせない守備をするのがセオリーです。

 マーベリックスはもちろん、それを分かっていて、ドンチッチにレナード以外をマッチアップさせる狙いをもってプレーに入りました。狙い通りにスクリーンでマッチアップしたのが、ガードのジャクソン。クイックネスはジャクソンの方があるけど、サイズはドンチッチに分がある。高さのミスマッチを生かし、ジャンプシュートを狙う状況を作りました。

 ただ、まだ難しかったのが、ボールをもらったのがゴールから遠い位置ということ。もらった時のスピードを殺して一度正対してしまうと、スピードのアドバンテージはディフェンスにいく。もしかしたら上手く攻められない可能性もあった。ドンチッチが上手かったのはここからです。

 もらった瞬間にドリブルに出て体勢を崩させた。そこから、クロスオーバーとレッグスルーで、逆→逆に2度振って、ボールをもらった時点の位置のズレを最後まで活用し、優位な状態をキープ。ボールをもらってから一瞬も動きを止めておらず、真正面にディフェンスが来られていない。そして、最後にステップバックで高さを生かし、シュートを選択しました。

 時間がない状況でとても冷静です。自分にガードの選手がついてミスマッチになったことも把握し、もらった瞬間に相手の体勢が崩れたことも把握している。ボールを保持して考える時間がなかったこともありますが、この一瞬でそのいくつかを同時に実行していること。試合をしながらジャクソンがどういう選手が知っていて、レナードからスイッチさせる時も、この選手がつくと予測していたと思います。

 そう考えると、シュートを決めたことも素晴らしいですが、それまでの過程のセンスがさすが。このプレーには日本のバスケキッズたちも学べる点が多くあると思います。日本人からするとサイズは大きいですが、使ったスキルはクロスオーバーとレッグスルーとステップバックだけ。あとはボールをもらった時にディフェンスの状況をしっかりと見ているということ。そういう細かな積み重ねがこういうプレーにつながります。

 ラストワンプレーで意識してほしいのは、とにかくシュートで終わること。ミスで終わるのではなく、シュートを打たないと得点につながらない。なので、シュートを打てるスキルを身につけることと、ディフェンスの状況を見られるようにすること。

 バスケの場合、ラストワンプレーで4秒あったら長い方で、シュートまで十分に持っていける。なので、冷静に秒数を判断して、焦らないことも必要。ただ単に「5、4、3……」と数字だけをカウントダウンしたら焦るけど、バスケなら4秒あればオールコートでも攻められる。そういう意味では、このドンチッチは当然バスケをよく知っているし、こういう経験に慣れていることも感じるプレーでした。

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 プレー再開からシュートを打つまで、2.9秒間の駆け引きで決めた劇的ブザービーター。この日のプレーオフの話題をさらい、NBA公式YouTubeのベストプレーで1位に選出された。マーベリックスは2勝4敗でプレーオフ1回戦で敗退したものの、ドンチッチの一撃は多くのファンの脳裏に刻まれた。(THE ANSWER編集部)