サッカー名将列伝第15回 ビセンテ・デル・ボスケ革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた…
サッカー名将列伝
第15回 ビセンテ・デル・ボスケ
革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回は、スペインのビセンテ・デル・ボスケ。"銀河系"と呼ばれた2000年代頭のレアル・マドリードや、スペイン代表の2010年南アフリカW杯優勝時の監督として知られている。いい選手が揃っていたから勝てたとも言われるが、はたしてそうだったのか。あれだけのスター軍団が「長持ち」した背景に、この監督の存在がある。
あの陣容で戦術的なチームなどつくりようがないし、それをやっても意味がなかった。高級マグロを煮て食うようなものだからだ。デル・ボスケのあと、ペレス会長が連れてきたたぶん戦術的なはずの監督5人が指揮を執った3年間は、惨憺たる結果に終わっている。
次々に投下されるスーパースターを全部使って勝つことが、デル・ボスケに与えられた使命だった。ロナウド、ラウール、フィーゴ、ジダンにロベルト・カルロスも加えた5人に、プラスひとりかふたりが攻撃していくのだから、どうしたって攻撃過多になる。
スターアタッカー全員を常に守らせるのは無理としても、ひとりやふたりは守備を手伝ってもらわないと、守備崩壊は必至だ。スターたちの背後でクロード・マケレレ(フランス)、イバン・エルゲラ(スペイン)が汗をかいていても、それではとうてい間に合わない。
だから、デル・ボスケはいつもぎりぎりのバランスを見ていた。スーパースターの誰かが適宜に「マケレレ」になっているかどうか。ただ、仮に全員守備をさぼったところで、デル・ボスケには実際のところどうすることもできない。沈没していく船と共にあるだけだ。けれども、デル・ボスケはレアル・マドリードの良心で、いずれ沈没していくだろう豪華船の船長としての威厳は備えていた。
デル・ボスケを失望させてはいけない。それは銀河系の終わりを意味する。現在、ジダン監督を本気で怒らせてはいけないのと同じである。
<偉大な凡人。静かな賢者>
スペイン代表でもデル・ボスケ監督の立場はレアルの時と大差ない。バルセロナのメンバーを中心としたスターたちをまとめ、気持ちよくプレーさせ、しかし決して越えてはならない一線は、身を挺して守る役割だ。
デル・ボスケはいつも淡々としていた。スター軍団を率いて勝ちまくっている時も奢りは微塵も見られず、黙々と仕事をこなしていた。ある意味、名将としてのカリスマ性がまったくない監督だった。
偉大な凡人、デル・ボスケがレアルを退任したのは、おそらく会長に意見をしたせいではないかと思う。デイビッド・ベッカム(イングランド)を獲得し、マケレレを放出した時に、もう無理だと言ったのではないか。
「デル・ボスケは疲れている」
これもペレス会長のデル・ボスケ退任時のコメントだが、疲れていると言えば、ずっと疲れているように見える監督だったのだ。静かな賢者の価値は失ってから気づくのかもしれない。
ビセンテ・デル・ボスケ
Vicente Del Bosque/1950年12月23日生まれ。スペイン・サラマンカ出身。1970年代から80年代前半にかけて、レアル・マドリードのMF、DFとしてプレーしリーグ優勝5回。スペイン代表でもプレーした。引退後はレアル・マドリードの育成組織の指導にあたる。99年からは4年間トップチームの監督を務め、「銀河系」と呼ばれたスター軍団を2度のリーグ優勝、2度のCL優勝に導いた。その後08年からはスペイン代表監督に就任。10年南アフリカW杯優勝、12年ユーロ優勝を勝ち取った