プロ20年目を迎えた今シーズン、読売ジャイアンツの中島宏之が再び輝きを取り戻している。 全試合出場とはいかないが、レギ…
プロ20年目を迎えた今シーズン、読売ジャイアンツの中島宏之が再び輝きを取り戻している。
全試合出場とはいかないが、レギュラー格としてここまで(9月10日現在)58試合に出場して打率.280、5本塁打、20打点。とくに8月は月間で.362の打率をマークし、同14日の中日戦(東京ドーム)ではプロ通算200号本塁打も達成した。

今年8月にプロ通算200本塁打を放った巨人・中島宏之
今年7月、中島は38歳になった。球界では間違いなく大ベテランの部類に入る。しかし、今シーズンの中島はとても若々しい。体がスリムになり、それに伴って動きも俊敏だ。
なにより、自身の体を思いどおりに操れているように映る。もともとショートを守ってゴールデングラブ賞を3度獲得したように、手先が器用な選手だ。ハンドリングがいいからこそ、バッティングの際にボールをうまくつかまえることができるし、一塁の守備でも華麗なグラブさばきを披露できる。
「オフシーズンから体をつくり直したというか、いろんな角度から刺激を入れるなどしてアプローチをしました。オープン戦や練習試合もいい感じでやれて、開幕は遅れましたがその間も継続して体を動かしていたんで、元気ですよ(笑)」
屈託ない笑顔はトレードマークだ。「中島」より「ナカジ」というニックネームの方が似合う。原辰徳監督もその愛称で呼ぶ。
ナカジは今シーズンを迎えるにあたり、体に刺激を入れてきたと言った。先述したように今年は体のラインが明らかに変わった。これまでは熱心にウエイトトレーニングに励んできたが、そのあたりの変化を感じる。
「体は大きくしなくていいかなと考えました。やっぱり動かなアカンから。それなりにウエイトもやりましたけど、野球の動きをメインに考えました。それにオフの間はこっそり走っていました(笑)。もちろん、若い頃と同じような速さでは走れないけど。走る、バットを振る、投げる、ウエイト......毎日、その日その日で自分の決めたものを全力でやると決めています。そうやって体に覚え込ませるというのをオフからやってきました」
走るにしても、単純に量をこなすわけではなく、バランスを整えるのか、それとも短距離を中心に目一杯ダッシュを繰り返すのか、その日の体調やいま必要なことを照らし合わせながら取り組んでいる。
若い頃から天才肌に映る彼だが、じつは繊細な男だ。だからこそ、昨年の大不振では心をズタズタに引き裂かれたのではないかと、ずっと気になっていた。
「誤解してほしくないのですが、苦しいと思ったことはなかったんですよね。去年の今頃はファームにいて、若い選手らと一緒にやっていました。彼らがどうやったらうまくなるのかともがいているのと同じように、僕もああでもない、こうでもないと考えながらやっていました。毎日『うまくなりたい』『こうすればうまくなるんじゃないか』と。
そして『よし、やったろう』という気持ちになる。それを楽しむと言ったら語弊があるけど、僕はずっと前を向いていました。とにかく、まだうまくなりたいっていうのが強いから。打つのも、守るのも、走るのも。もしかしたら、まだ走るのが速くなるんちゃうかなって、自分に期待していますからね」
巨人移籍初年度の昨年は、43試合出場でわずか8安打、打率.148、1本塁打、5打点と惨憺たる成績だった。昨オフの契約更改では、1億5000万円から野手史上最大の87%ダウンとなる年俸2000万円の提示にも黙って頷くしかなかった。
昨年のプレーを振り返るなかで、どこか小手先になっていたことにも気づいた。
「自分のなかでは目一杯の力を振り絞ってやっているつもりでも、うまいこと体を操れないことで、自分が培ってきた技術でカバーをしてやろうとしていた。それが逆効果で、ピッチャーに向かっていけずに受け身になってしまったのかなと思います」
そこで、特徴的ともいえる打撃フォームにもメスを入れた。高く構えた位置から今年は随分と下げている。
「アメリカで自主トレをした時に、どこで構えて、どのようにバットを出したら効率的に力が伝わるのかを、映像を見ながら自分の考えと照らし合わせて分析しました。結局、高く構えていた時でも、打つ前には低いところに持っていっていたんですよね」
シンプルに動く。昨年は苦労していたストレートに、今年はしっかり対応できている。さらに石井琢朗打撃コーチが数多くの種類のティー打撃練習を提案してくれて、あらゆるボールやコースへしっかりバットを出せるようになった。
「オープン戦の頃は引っ張ることを意識していました。だけどある日の練習で、ティーを打っていて思い出したんです。昔はこんな感じでバットを出して、これくらいの角度でボールに入れていたなと。そうしたらあそこに飛ぶなって。試合でやってみても、その感覚が出せた。自分の持っていたポイントや角度を思い出したんです。だからシーズンが始まってからは、広角にヒットが出ている。若い頃は、外だけじゃなくインコースでも『こう打てばライトに打てる』という自分のなかでの感覚がありましたから」
まるで若手のように必死のアピールを繰り返して、ナカジは自分の居場所を勝ちとった。
成績についてはボンヤリとしか把握していない。それは昔から変わらない。
「目の前の打席をどう戦うか。だから、数字って見ないんですよね。やっぱり全部打ちたいですし、何らかの形でチームに貢献したいと思っています。でも、うまくいかない時もある。アカンなと思ったら、また考えればいいんです。そして、数字を見るのはシーズンが終わった時かな」
セ・リーグ2連覇はもちろん、2012年以来の日本一へ。勝負強く、頼りがいのあるナカジの力が必要な場面は何度も訪れるはずだ。