ゴールというものは、入らないときはまったく入らないが、得てして1点入ってしまえば次々に入る。かつて本田圭佑が口にした「…
ゴールというものは、入らないときはまったく入らないが、得てして1点入ってしまえば次々に入る。かつて本田圭佑が口にした「ケチャップ、ドバドバ」のたとえ話ではないが、なるほど固まって出にくくなっても、一回出てしまえば、そのあとはドバドバ出るケチャップみたいなものかもしれない。
言い換えれば、すべては「最初の1点」。それさえクリアしてしまえば、あとはそれまでの苦労がウソのように点が取れるのだが、とにもかくにも、最初の1点が難しい。
川崎フロンターレの20歳、FW宮代大聖もそうだった。
今季初の公式戦となった2月16日、ルヴァンカップ・グループリーグ第1節の清水エスパルス戦。この試合に先発出場した宮代は、開始から1分と経たずに、いきなり決定機に遭遇した。
ゴール前へフリーで走り込んだ宮代の足元へ、左サイドからMF大島僚太が送った正確なクロスがドンピシャのタイミングで入る。余裕を持って右足を合わせる宮代。早くも先制ゴールか――。誰もがそう思った次の瞬間、ボレーシュートは無情にもゴール右に外れた。
「(試合の)しょっぱなすぎて......」
試合後、苦笑いとともに逸機を振り返った宮代だったが、試合全体を通してみれば、プレーの出来は悪くなかった。「積極性や(ゴール前での)迫力が自分のよさ。そこは出していきたい」との言葉どおり、果敢にゴールへ向かう姿勢が目についた。
この先、彼がゴールを決めるまでに、きっとそれほどの時間はかからないだろう。そんなことを想像させるに十分なものだった。
ところが、宮代のケチャップは思った以上にしっかりと、カチカチに詰まっていた。
宮代はその後、この清水戦も含め、J1とルヴァンカップを合わせて12試合に出場。そのうち4試合は先発出場したが、なかなかゴールには至らなかった。
今季川崎は1試合平均でおよそ3点を叩き出す攻撃力を武器に、J1首位を独走。宮代がいつゴールを決めても不思議はない状況だったはずだが、登録メンバー中最年少のFWは、勢いづくチームの波に乗り損ねていた。
昨季はレノファ山口への期限付き移籍を経験し、「覚悟を持って帰ってきた」という20歳にとって、少なからずフラストレーションの溜まる日々だったに違いない。
はたして、ようやく「最初の1点」が生まれたのは、今季初戦から半年以上が経過した9月2日。同じルヴァンカップの準々決勝のことだった。
川崎はヴィッセル神戸を相手に5-0と大量リードを奪い、試合終盤を迎えていた。
すると後半35分、川崎の鬼木達監督はFW小林悠に代え、宮代を投入。試合時間は残りわずかだったが、それでも最後まで貪欲に相手ゴールへと向かい続けた背番号20は後半42分、待望のゴールを叩き込んだ。
すでに勝負は決していた。試合の大勢には影響のないゴールではあった。それでも、左からのクロスを流れるようにトラップからシュートへとつなげた、記念すべき川崎での初ゴールは、力強く、鮮やかだった。
最初の1点をクリアしてしまえば、次の1点は早かった。わずか1週間後の9月9日、今度はJ1初ゴールである。
J1第15節、相手は奇しくも、再び神戸。1-2と1点ビハインドの後半21分に投入された宮代は、後半38分にFWレアンドロ・ダミアンのPKで追いついた直後の後半40分、大仕事をやってのける。
宮代は自ら前線で相手と競り合い、足を伸ばしてボールを引っ掛けると、そのこぼれ球を拾ったMF脇坂泰斗のドリブルと並走。宮代が語る。
「自分もフリーだったので、(パスを)出してくれたら『絶対決める』って強い気持ちを持っていたので、必死で呼んだ」
脇坂には宮代を囮に使う手もあっただろう。自らがシュートを打つタイミングはあったはずだ。しかし、その一方で、後輩に早くゴールを取らせてやりたいという気持ちもあった、のかもしれない。
脇坂は相手DFをたっぷりと引きつけると、右後方から走り込む宮代の目の前に、柔らかなパスを転がした。
宮代がうれしそうに、ゴールシーンを振り返る。
「ヤスくん(脇坂)がうまく抜け出して、最後は優しいパスをくれたので、流し込むだけだった。走り続けてよかった」
落ち着いて蹴り込まれた記念のJ1初ゴールは同時に、チームに貴重な勝利をもたらす値千金の決勝点。そしてまた、ジュニア時代からフロンターレ育ちの宮代にとって「ここで決めるのが小さい頃からの夢だった」というホーム、等々力陸上競技場での初ゴールでもあった。

J1リーグ初ゴールを決めた宮代大聖
「点を取るところに関しては、彼は人と違うものを持ってる」
鬼木監督がそう語るように、宮代の優れた得点能力はすでに世界の舞台、すなわちU-17、U-20の両ワールドカップでも証明されている。
大会前の調子や期待感とは無関係に、本番に強い選手とそうでない選手がいるが、少なくともふたつのワールドカップで見る宮代は、明らかに前者だった。この2大会の両方でゴールを決めている日本人選手は過去、中田英寿、高原直泰、宮代の3人だけ。両方で複数ゴールとなると、宮代ただひとりの記録である。
それを考えれば、J1デビューを果たした今季、初ゴールにここまで時間がかかったことは意外でもあったが、裏を返せば、いよいよここからが「ケチャップ、ドバドバ」の始まりなのだろう。
指揮官が語る。
「彼は自信を持つことが大事だったが、そういう姿がトレーニングのなかから見えた。(ゴールしたルヴァンカップのあとに)前回、(J1第14節)横浜F・マリノス戦でメンバー外になったが、その後も彼をしっかり見ているなかで、いいプレーが続いていた。これはイケるだろうというのはあった」
今季J1で川崎の選手がゴールを決めるのは、宮代で14人目。ひとり1点ずつとしても、J1下位チームの総得点数に匹敵するゴール数になってしまうのだから、恐るべき得点力である。
圧倒的な強さで首位を快走する川崎でまたひとり、20歳のストライカーが目を覚ました。