今季の早大は、女子400メートル障害で圧倒的な選手層を誇る。熾烈な部内競争の中、日本学生対校選手権(全カレ)当種目への出場権を勝ち取った小山佳奈(スポ4=神奈川・橘)、関本萌香(スポ3=秋田・大館鳳鳴)、津川瑠衣(スポ1=東京・八王子学園…

 今季の早大は、女子400メートル障害で圧倒的な選手層を誇る。熾烈な部内競争の中、日本学生対校選手権(全カレ)当種目への出場権を勝ち取った小山佳奈(スポ4=神奈川・橘)、関本萌香(スポ3=秋田・大館鳳鳴)、津川瑠衣(スポ1=東京・八王子学園)の3人が、今回の対談に集った。新型コロナウイルスの影響で一時期キャンパスでの練習ができなかったが、夏季までの試合では関本・小山がセイコーゴールデングランプリで1位と3位に。また早大競技会では関本が早稲田記録を更新する56秒台に突入し、2019年インターハイ優勝の津川も自己ベスト更新となる57秒台をマークした。全カレに向けて、各自の自粛期間の状況と今季前半のレースの振り返り、さらに全カレに向けての意気込みを伺った。

※この取材は9月5日にオンラインで行われたものです。

今季前半のトレーニング


昨年の全カレ400メートル障害で3位に入った小山(写真は表彰式)

――まず、今季の練習についてお伺いしたいと思います。自粛期間の練習内容を教えてください

小山 私は実家暮らしなので、自宅の周りで練習できる範囲で行っていました。自粛が少し緩和されたら、グラウンドが近くにあるのでそこへ行って、周りの坂などで練習していました。そのためこの二人と合流したのは大体5月か6月あたりだったと思います。今は大学で練習しています。

関本 私は地元の秋田で4月から3ヶ月間ずっと練習していました。内容としては地元でも4月いっぱいぐらいは競技場が使えなかったので、山の近くで坂練習し、競技場が再開してからはそちらで練習していました。7月頃から部活に合流して練習しています。

津川 私もずっと自宅付近で、周辺の坂道や縄跳びなどで練習していました。少し落ち着いてからは同期と集まったりして練習していました。

――冬季練習や自粛期間中の練習で、特に意識して取り組んでいた点を教えてください

小山 自粛期間中は坂メインで練習していたのでなるべくスピードを出す練習をしていました。冬もなるべく長い距離を走って体力面でカバーできるよう練習を行ったり、ハードルをなるべく跳んでハードルに慣れて逆足をスムーズに切り替えられるように練習していました。

関本 自粛期間は地元の高校生や中学生と競技場で一緒に練習する機会があって、基本の体づくりや補強を沢山取り入れていました。普段大学では走り込みをメインに行っていましたが、地元での練習は大学に入ってからはなかなかやらなくなった基本の動きを振り返るいい機会となったので、それがまた自分のレベルアップにつながっているかなと思います。冬季練習に関しては去年の12月に腹部の手術をしたので正直あまり練習を積めなかったのですが、そこからコロナウイルスによる自粛期間で大会もなかったので、徐々に自分の調子を戻すことができました。そういう意味では自粛期間は自分にとってプラスの期間となったと思います。

――手術を受けたということですが、現在その影響はありますか

関本 全くないです。

津川 私は冬季はずっと高校で練習していて、ハードルからは少し距離をおいて練習していました。自粛期間は体力や筋力を落とさないためにビルドアップや坂道を使った練習を日々していました。同期と集まるようになってからは補強も沢山取り入れるようにしていました。

――同期との自主練習はどのように声を掛け合って集まっていたのでしょうか

津川 やはり自粛期間もあって一人で練習する期間が長くなりモチベーションが低下することがあったので、少しでも集まってみんなで練習することでモチベーションをアップしようと集まって練習していました

――自粛明けの練習時の感覚はいかがでしたか

小山 自粛明けにグラウンドで練習したときは、グラウンドの反発をもらいにくくなってしまっていて走りがまとまらなかったというのがすごく感じたところでした。そこからは大学1年生のときに行っていたジャンプ補強などを中心に、まずグラウンドに慣れるところから始めました。一からのスタートだったのですが、逆にその一からのスタートによって、もう何試合か走ったのですがその一つ一つに向けて結果もそこそこ出ていると感じています。自粛明け一発目のグラウンドの感触は今シーズンに向けてすごく不安を感じるものだったのですが、グラウンドに戻って練習を重ねることによって感覚が戻ってきて、そこの不安はもうなくなり徐々に試合にも慣れてきました。

――関本選手はいかがですか

関本 私は7月4日の早大競技会の直前に(所沢に)戻ってきたので、自分の調子を確かめるという点でその競技会がポイントになっていました。地元でも競技場で練習はしていたので、グラウンドの反発のもらい方などはまだ大丈夫だったのですが、こちらに戻ってきて一番心配だったのが気候で。所沢は秋田と違って気温も湿度もすごく高かったので最初苦労したのですが、練習していく中ですぐに慣れてどんどん走れるようになっていったので、意外と自粛明けはスムーズにいったかなと思います。

――津川選手はいかがですか

津川 自粛期間中も最後のほうは競技場が開いてきたので、そちらでも練習していました。なので大学に戻ったときの練習の感覚としては、自粛前と比べて何かが低下したとかはあまりなかったのですが、大学という環境で練習していくことに慣れていなかったので、そこの面に関しては不安もありました。ですが今はその不安もなくなってしっかり練習できていると思います。

ここまでの手ごたえ


昨年の全カレ400メートル障害で優勝を果たした関本

――ここからは共通種目である400メートル障害についてお伺いしたいと思います。まず今季のレースについて、小山選手は早大競技会や8月のセイコーゴールデングランプリ3位(58秒14)という結果ですが、試合結果についてどう評価しますか

小山 1回目の早大競技会は関本と同じような感じで今年の感覚を確かめるという試合だったのですが、その次の日にぎっくり腰をしてしまい、その腰の影響がここ2ヶ月間続いていて。そのままセイコーゴールデングランプリにも臨んだのですが、やはりまだ腰は結構長くかかってしまいそうな感じがして。ハードルでも負担がかかっているのですがもうあと2ヶ月で引退なので、腰はもう仕方ないと思って、思い切って今は試合一つ一つを行っています。また練習でもなるべく腰に負担をかけないようにとか、これ以上けがをしないようにと意識しています。試合のタイムについても、この間のゴールデングランプリは腰の影響であまり長い距離を積めていなかったのですが、しっかりと最後の切り替えまでつなげられたのはいい収穫だったなと感じていて、今後の試合にもつなげていけたらいいなと思っています。

――最近の調子や、課題点があれば合わせてお願いします

小山 最近の調子はやはり腰の影響でなかなかスタブロ(スターティングブロック)から1台目というのができなかったので、少しそこに不安を抱いています。課題点は、前半のスピードが出ていないのがセイコーゴールデングランプリの分析からも分かったので、前半からしっかりスピードに乗って走って後半までつなげるというのを今は課題としてます。あとは切り替えの部分でいかにタイムを短縮できるかという部分にも着目しています。

――次に関本選手にお伺いしたいと思います。7月26日の早大競技会では早大記録を更新する56秒台(56秒96)、またセイコーゴールデングランプリ優勝など勢いがあるように感じます。まず早大競技会の調子はいかがでしたか

関本 7月4日の早大競技会では58秒20で、その後2、3週間くらい練習を積んで2回目の競技会に臨めたので、1回目よりはいいタイムが出るだろうというふうには自信があったのですが、56秒台を出せるまでの調子にもっていけているとは感じていなくて。走ってみたら出て、自分でもそこはびっくりしました。去年に比べても後半の方がリズムに乗って上手く走れるようになり、その点で今シーズンは記録が伸びたのかなと思います。ゴールデングランプリは、2回目の早大競技会の後の練習で少し前ももを痛めてしまい、そこからあまり練習せずに臨んだのですが、それでもトップレベルの選手の中で勝ち切れたのは自信にはなっています。ただ体力面ではまだ心配が残っています。

――前ももの痛みはまだあるのでしょうか

関本 ゴールデングランプリの後に少し良くなっていたのですが、また最近ちょっとずつ違和感が出てきてしまっていて。今も痛い状況なので、全カレに向けてはここから課題点を修正するために練習をすることはせず、まず足を治すことを第一に考えていきたいと思います。

――レース中の感覚として、自粛期間の影響は何か感じましたか

関本 自粛期間はハードルを沢山跳ぶというより走り込みをメインにしていたので、ハードルの練習がなく、去年までできていた前半のいい流れが今年はちょっと前半部分で落ち幅が大きくなってしまうことがあり、修正が必要だなとは感じています。ですが400メートルを通して最後までしっかり走れるようになったので、そういうところで自粛期間の効果は出ているのかなと感じます。

――最近の調子と、課題点があれば合わせてお願いします

関本 足に違和感がずっとあるので、あまりいい調子にはもっていけていませんが、ここから休んで疲労を回復して全カレまでに足の痛みを治せたらいいなと思っています。

――津川選手は早大競技会や東京選手権に出場し、8月には400メートル障害で自己ベストを更新(57秒85)しています。自粛期間や大学入学と様々な環境の変化がありましたが、レースへの影響はありましたか

津川 あまり影響はなかったのですが、大学に入ってから400メートル障害という種目に対して、高校のときより考えることが多くなりました。どうやったら速くなれるかとかハードルの技術面など色々な面で学べることが多くなって。そういうことを学んた中で自分の走りとマッチしたときにいい記録が出たのではないかと思います。

――早大競技会で57秒台の自己ベストが出た理由はどこにあると考えますか

津川 やっぱりモチベーションがそこに向けて上がっていったというのもあるのですが、気候が良かったことも関係していると思います。前半の入りが速くなりすぎず自分の中でしっかりいつもより抑えることができて、そのまま後半にもっていけたのがすごく良かったかなと思います。

――最近の調子と、課題点があれば合わせてお願いします

津川 最近の調子はあまり良くないです。少し前に長い距離を走ったのですが、そこからあまり疲労が抜けていない状態で練習を重ねているのでそれが原因だと思ってはいます。なのでこの後のオフで治療院に行って、しっかりケアして回復できたらなと思います。課題点はいくつかあるのですが、もう少しで全カレもあるので焦らずにしっかり調整していきたいなと思います。

――課題というのは具体的にどんな部分ですか

津川 私の課題点は400メートルでも400メートル障害でも前半のスピードが出ないことなので、そこを修正できればと思います。

――東京選手権では400メートルにも出場(55秒57)されていますが、その手応えはいかがですか

津川 自分の思っていた以上のタイムが出たので、初戦としてはいいタイムだったのかなと思います。

全カレに向けて


昨年の全国高校総体400メートル障害優勝の津川

――全カレに向けて、今季のチーム状況をお伺いしたいと思います。まず小山選手は最上級生となりましたが、何か心境の変化は生まれましたか

 特に最上級生だからといって変わりはないのですが、下の子たちが積極的に聞いてくることが多くなってきたので、コミュニケーションをしっかり取りながら行うことができているかなと思います。結構1年生も入学後に自己ベストが多発しているので、この環境がいいのかなとも思っていて。あとはやはり一人一人の自己ベストのレベルも高いので、練習中でもライバル精神をもって行えているのが、この環境のいいところなのかなと感じています。

――力のある新入生が多数入部しましたが、障害ブロックとして、また個人として何か変化は生じましたか

小山 特に(マイナスの)変化はないかなと思っていて、逆にすごくいい方向へとつながっていっているのかなと感じています。私の代の400メートル障害は一人ですが、3年生は3人いて結構多い人数でできているので、全然マイナスな部分はなくて、むしろ本当にプラスに進んでいるのかなと感じています。

関本 私は1年生が入学したことで結構変化がありました。障害ブロックの人数が増えているので、普段の練習から、走りもそうですしハードルを跳ぶときもいつも一緒に練習しているので刺激になっています。みんな自分の走りだけではなくお互いの走りも見ながら練習するので、すごく勉強になることが多いなと思っています。私は入学してから今までずっと小山さんにすごくお世話になっていて、もう3年間ずっとアドバイスしていただいたりとか毎日面倒を見てもらっていたので、小山さんにやってもらって良かったなと思うことを自分が後輩にもしてあげたいなと考えています。後輩のためにもなればいいなと思って、走りを見てアドバイスをすることも結構あるのですが、後輩のためになればいいなと思いながらそれがまた自分自身の勉強にもなっていて、いい刺激をもらえているなと思います。

――今季の障害ブロックの状況はいかがですか

小山 全カレの(出場)枠が3枠しかないということもあって、やはり一人一人がチームメイトでありつつもライバルではあります。狙う試合でタイムを狙うという面で結構ばちばちする面もあるのですが、今回その枠から外れてしまった選手たちもどこかで絶対この悔しさを挽回できると思います。そういうライバルがこんなに身近にいるのも早稲田の400メートル障害くらいなのではないかと思うので、こういう環境だからこそ一人一人が高い目標に向かって練習に励むことができているので、すごくいいのかなと私自身は感じています。

――津川選手にお伺いしますが、早稲田での競技続行を決めたのはいつ頃ですか

津川 高校生のときに初めて早稲田に体験に来たのが3年の4月だったので、そのときからずっと意識しながら練習や大会には取り組んでいました。

――早稲田を選んだ理由を教えてください

津川 やはり先輩方が活躍している姿に憧れを抱いたことと、ハードルの先生がいらっしゃるのがすごく大きかったです。

――大学と高校の大きな違いはどんな点ですか

津川 高校ではデータやタイムを見ながらの練習というのはしていなくて、ただ映像を見て自分の感覚と組み合わせて改善点を探したりしていて、自分の感覚だけで動いていました。大学ではOBの方々からデータをいただいたりとか、自分の課題点がデータとして明確に見えるようになったので、そこから改善点を探せるというのが変わった点かなと思います。

――実際に先輩方や、高校時代から全国トップレベルで闘う同期もいると思いますが、このハイレベルな環境で練習する中で感じたこと、得たことはありますか

津川 やはりこれほど高いレベルで練習できる環境というのは早稲田しかないので、日々恵まれているなと感じますしとても感謝しています。同期も一緒に入ってきて頑張れる環境でもあるし、ハードルの一歩一歩に対して先輩方が明確にアドバイスしてくださるので、その面でもすごくありがたくて成長できるなと思います。

――大学で初めての試合はいかがでしたか

津川 普段からあまり緊張しないタイプで、緊張はしなかったのですが、高校時代練習していなかった逆足というものを大学から取り入れるようになり、そこに対する不安はありました。

――今シーズンの目標をお伺いしたいと思います。400メートル障害とマイルリレーについて、チーム目標があればお願いします。

小山 400メートル障害はまずはワンツースリーをするというふうに思っていて、マイルリレーは全カレでは優勝と、早稲田新記録の更新を目指しています。そしてそこから日本選手権リレーにもつなげていけたらと思っています。

――400メートル障害のタイムの目標はありますか

小山 56秒台を出していきたいなと思っています。

――関本選手の個人としての目標を教えてください

関本 個人としては今シーズン一度自己ベストを更新しているので、また自己ベストを更新してまずは安定して56秒台を出せる選手を目指していきたいなと思っています。

――津川選手はいかがですか

津川 やはり今までのレースを見ていくとレースに安定感がないので、全カレでは安定したレースをして決勝に残ってしっかりタイムを残せるようにしたいです。

――他大学でライバルとなる選手やチームはいますか

小山 400メートル障害では、セイコーゴールデングランプリ2位のイブラヒム愛紗選手(札幌国際大)がマークする選手かなと思っています。マイルリレーは、昨年の全カレにおいて大阪成蹊大学が今在学中の選手だけで優勝しているのと、あとは今シーズン400メートルの1年生が結構入学した青山学院大学がマークするチームかなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 布村果暖 写真 岡部稜、斉藤俊幸)

◆小山佳奈(こやま・かな)

1998(平10)年12月16日生まれ。169センチ。神奈川・橘高校出身。スポーツ科学部4年。自己ベスト400メートル54秒57、400メートル障害57秒45

◆関本萌香(せきもと・もえか)

2000(平12)年2月23日生まれ。166センチ。秋田・大館鳳鳴高校出身。スポーツ科学部3年。自己ベスト400メートル障害56秒96(早大記録)

◆津川瑠衣(つがわ・るい)

2001(平13)年11月24日生まれ。162センチ。東京・八王子学園八王子高校出身。スポーツ科学部1年。自己ベスト400メートル55秒16、400メートル障害57秒85