ノバク・ジョコビッチ(セルビア)の失格で男子の優勝争いが混沌としてきた。第1シードの失格は選手たちにショックを与えたはずだが、同時に、優勝のチャンスが大きく広がり、ある種の興奮状態がもたらされ…

ノバク・ジョコビッチ(セルビア)の失格で男子の優勝争いが混沌としてきた。第1シードの失格は選手たちにショックを与えたはずだが、同時に、優勝のチャンスが大きく広がり、ある種の興奮状態がもたらされたのではないか。【動画】全米オープン第7日のスーパープレー集!

第1シードが大会を去ったことで確定したトピックスがふたつある。ひとつは〈大会最終日には新しいグランドスラム王者が誕生する〉というもの。

言い尽くされてきたが、男子テニスは2006年あたりからBIG4の独占状態が続いている。この間、「四天王」以外の四大大会優勝者は、14年全豪と15年全仏、16年全米を制したスタン・ワウリンカ(スイス)と、09年全米優勝のフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)、14年全米優勝のマリン・チリッチ(クロアチア)の3人しかいない。

四大大会で新王者が誕生するのは、14年全米のチリッチ以来、22大会ぶりだ。ロジャー・フェデラー(スイス)が故障で欠場、ラファエル・ナダル(スペイン)も欧州にとどまることを選択して欠場、ジョコビッチは失格と、予期せぬ事態が重なり、男子テニスにひとつの節目が刻まれることになる。

8強入りを決めたデニス・シャポバロフ(カナダ)は「新しいグランドスラム王者が生まれるのはテニスにとって素晴らしいことだ。3人(アンディ・マレー=イギリスを除くBIG3)が常に全部勝ってしまうのは、だんだん退屈になってきたからね」と率直に胸の内を明かした。

また、ジョコビッチの敗退で〈90年代以降に生まれた選手のグランドスラム初優勝〉も確定した。

BIG4とワウリンカがあまりにも強く、また、あまりにも長く君臨したために、割を食ったのがすぐ下の世代の選手たちだった(同じ意味で、89年生まれの錦織圭らは「失われた世代」とも呼ばれる)。93年生まれのドミニク・ティーム(オーストリア)、97年生まれのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)ら将来のナンバーワン候補も、BIG4に頭を押さえ付けられてきた。

なお、80年代生まれの選手では00年全米優勝のマラト・サフィン(ロシア=80年生まれ)が、70年代生まれでは89年全仏優勝のマイケル・チャン(アメリカ=72年生まれ)が、最も早い四大大会初優勝だ。90年代生まれの選手も彼らに劣らぬ逸材ぞろいだが、層の厚さに優勝を阻まれてきた。

今年、全豪の決勝でジョコビッチに敗れ、四大大会の決勝3連敗となったティームは、悔しさを押し殺して、こう話した。

「違う時代なら、僕ももっとビッグタイトルを獲得しやすかったかもしれない。でも、3人(=BIG3)と最高のレベルで戦えるのは幸せだ。彼らがいる間に最初のグランドスラム・タイトルを取りたい」

そのティームは、7日に行われた4回戦で2000年8月生まれのフェリックス・オジェ アリアシム(カナダ)に7-6、6-1、6-1と完勝。00年代生まれのトップランナーが敗れ、いよいよ「90年代生まれ」の優勝が確定した。オジェ アリアシムの3回戦までの勝ち方を見れば、上の世代を飛び越して00年代生まれの王者が生まれる可能性もあったわけだが、世の中はそんなに甘くない。

8強入りを決めたティームは「もちろん我々全員がグランドスラム初優勝の好機を得たわけだが、基本的には事態は大きくは変わらない。少なくとも自分にとってはそうだ」と平常心を強調する。チャンス到来にも、前のめりになることもなく、優勝を意識して固くなることもなく、まず、目の前の試合に全力を尽くす、そんな戦いぶりだった。

同日のナイトセッションでは、昨年の全米で準優勝した24歳のダニール・メドベージェフ(ロシア)が、22歳のフランシス・ティアフォー(アメリカ)を6-4、6-1、6-0と圧倒した。どちらも楽しみな一戦だったが、やはり四大大会で決勝の舞台を経験したティームとメドベージェフは別格だ。

27歳のティームは「ドロー(の勝ち残り)で自分が最年長の一人だなんて、非現実的だね」と苦笑したが、やはり四大大会では経験がものを言う。第一人者の失格で、だれにも優勝のチャンス、と選手たちは色めき、沸き立ったはずだが、条件の整った選手が勝つのがものの道理だ。

ティームが「彼らがいる間に優勝したい」と話したのは、BIG3との直接対決で勝つことを念頭に置いているはずだ。その意味では、本当の悲願達成は次の機会を待たなくてはならないわけだが、彼がメドベージェフと並んで優勝カップに最も近い選手であるのは間違いない。

(秋山英宏)

※写真は左からズベレフ、ティーム、メドベージェフ、シャポバロフ

(Getty Images)