「全米オープン」(アメリカ・ニューヨーク/8月31日~9月13日/ハードコート)の会場に、観客の姿は見られない。そこで今年は観客のためではなく、選手や選手のサポートチームのために広大な大会会場…

「全米オープン」(アメリカ・ニューヨーク/8月31日~9月13日/ハードコート)の会場に、観客の姿は見られない。そこで今年は観客のためではなく、選手や選手のサポートチームのために広大な大会会場を活用している。会場内にはミニゴルフ場、屋外飲食スペース、屋外運動エリアなどが用意されたが、もっともユニークなのは、センターコートであるアーサー・アッシュ・スタジアムの67室のスイートルームを、選手用ラウンジに改造したことだろう。米経済誌Forbesが伝えた。【実際の動画】ズべレフも特別登場!選手用スペースの紹介

「自分だけのスペースをどうやって作るか考えあぐねて、RV車を持ち込む検討をしている選手もいましたが、スイートルームを見た途端こっちのほうが断然良いと言っていました。多くの選手が、鍵付きの自分のスイートルームを楽しんでいますよ」とUSTA(全米テニス協会)の最高執行責任者であるDanny Zausner氏は語る。

USTAは、全部で80室あるスイートルームのうち67室で、不要な家具などを取り除き、選手用のスペースとした。各部屋には清掃しやすい家具を設置し、毎晩殺菌を行っているほか、冷蔵庫には飲み物を常備、コーヒーマシンが置かれ、マッサージ用の台も備え付けられている。

選手は、ランキングに応じてスイートルームをあてがわれる。まず、男子と女子のシード各32人が部屋をもらえ、その中で敗退する選手がいれば、次にランキングの高い選手が「序列順」にスイートルームを獲得できる。

この企画はすでに功を奏しているようで、選手たちがSNSでスイートルームの様子を投稿したり、下のコートで行われる練習を部屋から見学したりしている。さらにスタジアムの一部を開放し、選手がスタジアム内を移動して観客席で試合を見たり、外の空気を楽しんだりもできるようだ。ルイ・アームストロング・スタジアムでも同様に、選手たちのために空間が開放されている。

選手のために改造されたのはアーサー・アッシュ・スタジアムだけではない。医療チームの指示を受け、選手たちのためにコート外のスペースをできるだけ提供できるようにしたという。サウスプラザでは広い日陰エリアを作り、選手たちが休めるようにした。さらにテニスやサッカーを映すスクリーン、傘付きの座席、着替えスペースやミニゴルフ、ビリヤード、ミニテニスコートでのサッカーなどのちょっとした遊びも用意した。

隣接するベンツの展示センターは屋外運動エリアに改造され、上階のレストランは屋外カフェへと変身した。スタジアム2階にあるカフェも改造され、ソーシャルディスタンスを保つようテーブル数を約半分にした選手用食事スペースとなった。アッシュプロムナードには、サウスプラザを見下ろせるよう椅子が250個並べられている。

選手用のホテルであるロングアイランド・マリオットホテルでも同様の変更がされている。駐車場にテントを用意し、運動エリアを提供。大きなスクリーンには映画が映され、夜にはフードトラックを利用できる。

会場内の2つのカフェや選手用食事スペース、そしてスイートルームまで、全てのテーブルにはQRコードが付いていて、携帯を使ってメニューから注文し、テーブルや部屋まで料理を運んでもらえる。

「ATP1000ウェスタン&サザン・オープン」では、グランドスタンドをメインのショーコートとして使用した。「全米オープン」では今までどおりにコートを使用するが、グランドスタンドは使用しない。グランドスタンドは屋根のない最大のスタジアムであるため、選手たちが広すぎると感じてしまうことを懸念している。アーサー・アッシュ・スタジアムとルイ・アームストロング・スタジアムの座席には、毎日違うテーマでニューヨークや「全米オープン」に関するメッセージが掲げられる予定だ。

選手たちがいつもと違う「全米オープン」を体験しているように、家で観戦するファンたちも違いを感じるだろう。放送局も新しいことを試してみるようだ。「スタジアムに2万4千人の観客がいたらできないような、親密さを見せることが最大のポイントです」とZausner氏は言う。

「コート上の音をもっと拾えるようにしています。テレビの前のファンの方たちは、今まで体験したことがないような“全米オープン”を見ることができるでしょう」

放送局とIBMの支援により、スタジアム内の音をどのように拾えるか調査し、建物のきしむ音や外を走る電車の音など、家で観戦するファンにユニークな体験を提供できるような放送を目指している。

何しろ、スイートルームから見ている観客は、大会に出場しているランキング上位の選手だけなのだから。

(テニスデイリー編集部)

※「全米オープン」アーサー・アッシュ・スタジアムの様子

(Photo by Al Bello/Getty Images)