>「完勝」と言って、差し支えないだろう。 得意のサーブが猛威を振るい、相手に与えたブレークポイントはなし。エースこそ4本にとどまったが、第2セットのファーストサーブポイント獲得率は100%を叩き出した。相手を圧倒して準々決勝に駒を進めた大坂…

「完勝」と言って、差し支えないだろう。

 得意のサーブが猛威を振るい、相手に与えたブレークポイントはなし。エースこそ4本にとどまったが、第2セットのファーストサーブポイント獲得率は100%を叩き出した。



相手を圧倒して準々決勝に駒を進めた大坂なおみ

 相手のサービスゲームを破った回数は、得たチャンスの数からすれば、やや少なめ。だがそれは換言すれば、チャンスを逃しても集中力を切らさず、最後まで自身を律した証でもある。

 とくに第2セットでは、8度のブレークの機を逃したが、そのたびに「彼女はすばらしい選手だし、相手がいいサーブを打っているのだから仕方ない」と自らに言い聞かせ続けた。結果、"9度目の正直"でブレークを奪い、そのまま試合に終止符を打つ。

 試合時間、1時間12分。スコアは6−3、6−4。10日前の前哨戦でも対戦し、その時は4−6、6−2、7−5と苦戦した相手を深夜の再戦で退けて、大坂なおみがUSオープンベスト8へと駆け込んだ。

 センターコートの最後に試合が組まれた大坂にとっては、奇妙で長い一日だったろう。

 同コートの第2試合では、今季無敗のノバク・ジョコビッチ(セルビア)がゲーム間に無造作に打ったボールが線審を直撃し、失格となる事態が起きた。

 夜7時から始まったナイトセッション1試合目では、デニス・シャポバロフ(カナダ)対ダビド・ゴファン(ベルギー)が3時間30分の熱戦に及び、大坂たちがコートに入った時には、時計の針は夜11時を指していた。

 ただ、この異様な事態にも、大坂は泰然自若としていたようだ。

 ジョコビッチの試合時には「寝ていた」ため、何が起きたかリアルタイムで知ることはなかったという。アーサー・アッシュ・スタジアムのラストマッチを務めるのも、今大会早くも2度目。

「基本的には太陽の下の試合のほうが好きだけれど、アーサーアッシュで戦うUSオープンのナイトマッチはとてもスペシャル」と言う2年前の優勝者に、動揺はなかったという。

 一方、対戦相手のアネット・コンタベイト(エストニア)は、「私は遅い試合の経験があまりないから......」と明言は避けつつも、言葉の端に深夜の試合に向かう難しさをにじませた。

 立ち上がりのゲームで2度連続のダブルフォルトを犯したのは、そのような経験差から来るものだろうか。高い集中力で試合に入った大坂が、いきなりのブレークに成功した。

 理想的なスタートを切った大坂は、この時、自分に「ここからが大切だ」と言い聞かせたという。それは、10日前の対戦から得た教訓のひとつでもあった。

「あの時も最初のゲームはよかったけれど、そこから気持ちにムラッ気が出てしまった。だから今日は最初から最後まで、ポジティブにプレーし続けようと決めていた」

 その誓いを実践し、以降のゲームでも大坂は固めた拳を振り上げ、自分を鼓舞し続ける。第1セットでは、最後のゲームもリターンから攻めてブレークした。

 この「リターンから攻める」ことも、大坂が2度目の対戦で心がけた勝利へのカギである。

「前回の対戦では、彼女のセカンドサーブの時での積極性が足りなかった。だから今日はミスをしても、攻めて行こうと思っていた」

 それはリターンの時だけでなく、この日の試合のあらゆる局面で完遂した姿勢でもあった。

「前回は相手に打ち合いを支配されることが多かった。今日はたとえミスしても、ラケットをしっかり振り抜き、試合の主導権を握ろうと思っていた」

 そのような大坂のプレーに、コンタベイトは重圧を覚えていたと認める。

「彼女がどんどんプレッシャーをかけてきたので、焦って攻め急いでしまった。サーブも含め、今日はほとんどの局面でなおみのほうが上だった」

 試合後の敗者は、勝者を称える言葉しか持たない。

 終わってみれば、大坂のエラーは相手より少ない18本にとどまり、ウイナーは21本を数える。

 遅く始まった試合への適応力。そして、前回の対戦を踏まえたうえでの作戦立案と実行力。年齢では2歳下回る大坂が、2度のグランドスラム優勝の実績と貫禄を示した勝利でもあった。

 ただ、完璧に近く見える試合内容にも、当の大坂は「リターンの時、決めるべきボールでミスがあった。もっと練習し確実に修正しなくては」と、自分に厳しい。

 これまでは意図的に避けていたように見える「優勝」という言葉にも、「決勝に行き、トロフィーを手にしたい。そのために私はここにいる」と、向き合うことを恐れなかった。

 種々のプレッシャーや注視も正面から受け止めて、2年前の女王が、2度目のUSオープン戴冠にピタリと照準を定めている。