中学時代には陸上短距離種目でサニブラウンを破り日本一になった コロナ禍で春のリーグ戦が軒並み中止となった大学野球。10月26日に迫ったドラフト会議、最後のアピールの場である秋のリーグ戦に向け、各地のドラフト候補たちも練習の日々を送っている。…

中学時代には陸上短距離種目でサニブラウンを破り日本一になった

 コロナ禍で春のリーグ戦が軒並み中止となった大学野球。10月26日に迫ったドラフト会議、最後のアピールの場である秋のリーグ戦に向け、各地のドラフト候補たちも練習の日々を送っている。

 かつて短距離であのサニブラウン・アブデル・ハキームを破り、「日本一速い中学生」と呼ばれた五十幡亮汰外野手。100メートルのベストは10秒79、一塁駆け抜けは3秒5を誇る。それでも、そんな稀代の俊足とは裏腹に、高校時代は決して盗塁が得意ではなかった。

「やっぱりスタートが全然違う。いいスタートさえ切れれば成功するんですが、何度も失敗して自分で苦手意識をもってしまっていた。意識が変わったのは大学3年になってから。赤星さん、イチローさん、鈴木尚広さん、福地寿樹さん、片岡治大さん、本多雄一さん、山田哲人さん…。とにかく盗塁がうまい選手の映像を片っ端から見て、重心のかけ方、スタートの一歩目を勉強しました」

 面白いことに、数多くの盗塁の名手もスタートの形はそれぞれバラバラだという。数あるサンプルの中から今は日本ハムの西川遥輝外野手を参考に、自分の形を物にしたという。昨秋はリーグ9盗塁を記録。ようやく自慢の脚力を野球に生かせるようになってきた。

秋のリーグ戦では、首位打者と2桁盗塁を目標

「陸上では瞬発力を最大にするため、スタートの瞬間に体が伸びあがってしまうんですが、それだと帰塁ができない。盗塁は体が構えているところから体が引っ張られるような感覚でスタートを切ると皆さんおっしゃっていた。ボールを持っているのは投手ですが、投手のペースだけにはならないように、逆に自分のペースに投手を引き込めるようなリードなどを心がけている」

 自分の武器と向き合い、ようやく見えたプロ入りの可能性。車好きなこともある為、念願のプロ入りが叶った際には「車を購入してみようかな」と笑うが、そこにも五十幡なりの理由がある。小学校3年のときに母が病気で他界。男手一つで育ててくれた父は、中学時代に膨大な時間をシニアの練習への送迎に割いてくれたという。

「中学時代は埼玉北部の実家から都内のシニアの練習に通っていたんですが、専用のグラウンドがなく埼玉から千葉や東京の球場まで毎週送り迎えしてもらっていた。せっかくの土日なのに、父は4時起きの時もあり、1年間の走行距離は4万キロを超えてた。高校3年のときに免許を取ってから車に興味を持ったんですが、同時にそこで父の苦労がわかった。父には今までの感謝の気持ちを込めて、何かをプレゼントしたいですね。これからは逆に自分が父をサポートしていけるように」

 来る秋のリーグ戦では、首位打者と2桁盗塁を目標に掲げた五十幡。かつて日本一の足を誇った韋駄天は、プロの舞台へ加速を続ける。(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)