サッカースターの技術・戦術解剖第24回 エドゥアルド・カマビンガ<弱点のない天才> 10代で傑出した才能を示す選手は「天…

サッカースターの技術・戦術解剖
第24回 エドゥアルド・カマビンガ

<弱点のない天才>

 10代で傑出した才能を示す選手は「天才」と呼ばれる。まして16歳にしてプロデビューし、リーグの月間MVPに選出されるなら、何と呼ぶべきだろう。



フランスのレンヌで活躍する17歳のカマビンガ

 エドゥアルド・カマビンガはまさにそれなのだが、こうした早熟の天才がその後も順調なキャリアを送るとはかぎらないものだ。ただ、カマビンガの場合はあまり心配はいらない気がする。

 もちろん、この先に深刻なケガに見舞われるかもしれないし、何が起こるかわからないのが人生だが、その手の不運がなければ順調に成長していくだろう。

 これまでもフランスは、多くの「天才」が現れては消えていった。クレールフォンテーヌ国立養成所の出身で、いまだに最大の才能だったと言われているニコラ・アネルカは、その天賦の才を思えば期待外れだったと言っていい。

 ハテム・ベン・アルファ、ペギー・リュインドゥラ、サミル・ナスリ、ヨアン・グルキュフ......このリストは長くなりそうだが、トップレベルで能力を発揮した時期もあるだけ、彼らは成功例なのだろう。彼らの陰には日の目を見なかった何人もの「天才」たちが埋もれているに違いない。

 10代の天才が、20代、30代でも天才でありつづけるのは、実はそう簡単ではない。サッカーは才能がすべてではないからだ。

 才能は、その選手がどこまで行けるかの「可能性」を表しているにすぎない。

 ドリブルで3人を手玉にとる才能、浮き球をボレーでポストに命中させる才能、ほかの選手には想像もつかないパスコースを見出す才能......こうした才能が図抜けていれば、その世代で天才と呼ばれる。

 それがプロのレベルでも通用すれば、リーグで活躍できる。チャンピオンズリーグ(CL)決勝やワールドカップでも武器になるのなら、世界の頂点まで行ける「可能性」がある。

 ただ、それは「可能性」にすぎない。才能が発揮されるのは、90分間でせいぜい2、3分にすぎないからだ。残りの85分以上は持ち前の才能とは違う仕事が要求される。それが少なくとも所属するリーグならリーグの平均レベルにはないと、出場することすら難しくなるのだ。

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 たとえば守備ができなければ、確実にそこは狙われる。「天才」をプレーさせることで得られるプラスより、マイナスのほうが大きければ出場機会は与えられない。弱点を克服できない「天才」はその時点で消えることになる。

 しかし、カマビンガに心配がないのは、弱点らしい弱点がないからだ。

<ポグバとカンテをひとりで兼ねる>

 アンゴラで生まれ、2歳の時にコンゴ民主共和国出身の両親と共にフランスへ移住した。そのためフランス、アンゴラ、コンゴ民主共和国の3つの国籍を持っている。6人兄弟は全員、柔道をしていたが、このままでは家が壊れそうだったのでサッカーを勧められたのだそうだ。

 レンヌのスカウトの目に止まったカマビンガは、16歳でBチームに昇格し、2018-19シーズンの終盤にはトップデビューを果たしている。翌シーズンにはレギュラーに定着、36試合に出場した。この時点で、レアル・マドリードやアーセナルなどが獲得に動いていた。

 2020-21シーズン、第2節モンペリエ戦では77分に印象的なゴールを決め、2-1の勝利に貢献した。左サイドをするするとドリブルで持ち上がり、右へ左へステップを踏んでDFをなすすべなく後退させたあと、スッと利き足側の左へ外してGKの届かないところへシュートを流し込んだ。相手DFはゴール近くに持ち込まれるまで何もできなかった。

 182cm、68kgのMF。左利きでドリブルが滑らか。キックの精度もよく、正確なサイドチェンジやクロスボールを繰り出す。ただ、これらはカマビンガの才能の一部にすぎない。

 16歳にして、5大リーグでトップクラスのタックル成功数を記録している。ボール奪取能力が抜群なのだ。まだほっそりした体型だが、センスで奪っている。この先、パワーやスピードがついてくれば、エンゴロ・カンテ(チェルシー)のようなボール奪取のスペシャリストになるだろう。

 ドリブラーでパスセンスに優れ、さらに天性の守備能力。16歳で活躍できたのは、この万能性ゆえだ。17歳になった今季、背番号は18番から10番に。堂々の中心選手である。

 レンヌのスポーツ・ディレクター、フロリアン・モーリスは「人の話を非常によく聞く」と言っている。カマビンガには学ぶ姿勢があり、だから成長を止めることはないと確信しているようだ。

 モーリスは、かつて天才ストライカーと騒がれ、フランス代表に上り詰めた。しかし、エースの座を用意されて移籍したパリ・サンジェルマンでは期待に応えられず、マルセイユ、セルタを渡り歩いたが、初期のリヨンほどの輝きはなく、消えた天才のひとりと言っていいかもしれない。それだけに、モーリスの太鼓判は説得力がある。

 レンヌはフランスにおける才能の産地の1つだ。ウスマン・デンベレ(バルセロナ)、ペトル・チェフ(元チェルシーなど)、アサモア・ギャン(元サンダーランドなど)などを送り出してきた。カマビンガも遠からずそのリストに加えられるだろうが、今はビッグクラブへの移籍よりも出場機会と経験を積むことを優先している。

 昨季リーグ3位、今季のCLに出場するクラブにとってもカマビンガは欠かせない選手。今後の活躍次第では、移籍金が跳ね上がるかもしれないから慌てて放出する理由もない。

 攻撃でも守備でもスペシャルなカマビンガは、ポール・ポグバ(マンチェスター・U)とカンテをひとりで兼ねるような選手であり、新しいタイプのフランス産の神童である。