リオ五輪平泳ぎ200m金メダリストが「オンラインエール授業」で“夢授業” 競泳のリオデジャネイロ五輪女子200メートル平泳ぎ金メダリストの金藤理絵さんが8月から配信されている「オンラインエール授業」に登場した。「インハイ.tv」と全国高体連…

リオ五輪平泳ぎ200m金メダリストが「オンラインエール授業」で“夢授業”

 競泳のリオデジャネイロ五輪女子200メートル平泳ぎ金メダリストの金藤理絵さんが8月から配信されている「オンラインエール授業」に登場した。「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する企画で、インターハイ中止という経験から前を向く全国の水泳部の選手、指導者を対象に授業を行い、成長を変える「意識」の大切さを説いた。

 金藤さんが登場した「オンラインエール授業」はインターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。ボクシングの村田諒太、バドミントンの福島由紀と廣田彩花、バレーボールの大山加奈さん、サッカーの仲川輝人、佐々木則夫さんら現役、OBのアスリートが各部活の選手、指導者を対象に講師を務めてきた。

「インターハイ中止という話を聞いて、私が高校生だったらどうしていただろう……と戸惑いました。もし(金メダルを獲得した)リオ五輪が中止だったらと思うと怖くて。誰も経験したことがないことなので、この機会を大切にして思いを聞いて、どう頑張っていったらいいかを一緒に考えたいと思います」

 第19回となる授業に登場した金藤さんは冒頭で挨拶し、インターハイを含め、春から次々と大会が中止となっている高校生と寄り添う気持ちを示した。

 最初に語ったのは、広島の三次高時代の3年間。「地元が田舎すぎて、ちゃんと泳げる環境がなかったんです。夏は市営プールで、(コースの)半分は一般用。冬は公共施設で、ひどい時は20人で1コースを使っていたくらいです」と笑って振り返る。

 そんな環境でインターハイ優勝を経験し、卒業後は東海大2年生の時に08年北京五輪に出場。7位入賞した。以降は怪我もあり、12年ロンドン五輪は逃したが、16年リオ五輪で金メダルを獲得。28歳で引退するまで、日本競泳界のトップ選手として活躍した。

 輝かしいキャリアの原点になったのが、高校時代にあったという。

「時間も限られた環境だったので、水泳以外の時間も陸上部の参加させてもらったりして、限られた時間で泳ぎが速くなるにはどうしたらいいかを考えていた」と金藤さん。目標にしていたのは「何位になりたいというより、自分のベストを出したい」という意識。「結果よりも努力に重点を置いていた」といい、水泳人生の飛躍につなげた。

 続いて行われた質疑応答のコーナーでは、積極的に参加者から質問が挙がった。「平泳ぎのキックのコツ」「おすすめの陸上トレーニング」「足首のストレッチ方法」など選手が今、抱えている技術の悩みを打ち明ける。金藤さんは一つ一つに「それ、分かります」「私も苦手でした」などと共感しながら丁寧に答えていった。

 印象的だったのは、メンタルにまつわる質問だ。金メダリストの成長の礎となったのは“意識力”だった。

練習の質を高める「意識」の持ち方「言われて、ただ10本こなすのか…」

「タイムのベストが出ない時のモチベーションの保ち方」については「上手くいかない時は自分の粗探しになっていたと反省していたことがあります」と共感。不調な時は、課題ばかりに目が行きがちだったという。

「その中で頑張って1つでもいいから、いいことを探すようにしました。つけている日誌も『これができなかった』で終わらないで『これはできなかったけど、これだけはできた』と。できたことを大切にして、少しでもポジティブでいられるように考えていました」と体験談を明かした。

「長い練習の日の意識も持ち方」については、大学時代に1日で30キロ、1週間で150キロを泳いだという過酷な経験を伝えた。「当時は1日8時間、水の中にいて『早く終わって』と思っていました」と笑うが、その中で意識したのは「1つでもいいので、気を付けることを考える」だ。

「この練習はキャッチを意識しよう、大きく泳いでみよう、テンポを上げてみようって、全部を同じ目標でやろうとするのではなく、目標を1本ずつ変えていくといいのかなと思います」と練習の質を高める意識の持ち方を説いた。

 加えて「この練習をやるだけで強くなれる。プラス、自分が意識してこの練習をやることができたら、もっと強くなれる。“強くなれるポイント”が貯まっていくと考えるといいのかな」と独自の考え方を語った。

「自分がメニューをどうこなすか。(コーチに)言われて、ただ10本こなすのか。自分で1本1本工夫して意味のある10本にするのか。『浮き上がりを頑張るので見ていてください』と、自分が見てもらいたいことを先生に言ってフィードバックしてもらうこともいいと思います」とアドバイスした。

 経験を伝えるだけでなく、対話も心がけた。「大会が中止になり、自分が目指すべき目標を見失いそうになっている」という悩みを打ち明けた3年生に対しては「誰かと話すことで、気持ちの整理をしていくこと。実際にやってみよう」と言った。

「高校生活の目標は何だった?」「水泳の目標は?」「水泳はこれから続けたい気持ちはある?」と問いかけ、高校生の思いを引き出した。率直な心境を正しく理解した上で「そうしたら、次に(自分がどう行動すべきかを)紙に書いてみるといい」と実践的な方法で助言した。

「目標は大きい方がいいのか、達成できそうな(現実的な)ものがいいか」という質問には「大きな目標は高く。大きな目標を達成するための小さな目標は現実的なものがいい」と説いた。

「高校生活なら高3のインターハイに出場、その一歩前に県予選と、上から下に逆算してやっていく。下から上に目標を設定していくと、最後のつじつまが合わなくなるから。上から目標をどんどん下に小さくしていくことが大切だと思います」と長い競技人生で培った目標設定についても惜しげもなく伝えた。

高校生に贈ったエール「できないことではなく、何ができるかを考えて」

 どれも具体的な回答ばかり。共通していたのは「意識」の持ち方で成長は変わるということ。参加者は画面の下に視線を落とし、熱心にペンを走らせていた1時間の授業は、あっという間に過ぎた。

 代表して挨拶した高校生は「大会がなくなり、モチベーションもなくなったけど、アドバイスをもらい、みんなモチベーションが上がったと思う。技術面でも細かくアドバイスもらい、明日からの練習に生きると思います」と感謝した。

 優しいまなざしで見守っていた金藤さんも、最後に「明日へのエール」として高校生にメッセージを送った。

「今は泳げる状態になっていると思うけど、泳げない時に陸上トレーニングとか映像を見たりとか、いろんなことをやってきたと思います。そうやって、やってきたことを泳ぐ時に思い出してくれたら。陸上と水中が別ではなく、つながっていると考えて、泳げない時期に頑張ったことが発揮されるようにしてほしいです。

 どんどんいろんな大会がなくなって、テンションが落ちると思うけど、なくなってしまったことはしょうがない。『本当はインターハイがあったのに』と悔しい思いもわかるけど、できないことではなく、今の状態で自分に何ができるかを考えて一日一日の練習を頑張ってほしい。皆さんのこれからの活躍を応援しています」

 インターハイとなったが、高校生たちは今、それぞれが新たな目標に向かい、走り始めている。そんな若いスイマーに五輪金メダリストが寄り添い、伝えた言葉の一つ一つは、かけがえのない財産になった。

■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。授業は「インハイ.tv」で配信され、誰でも視聴できる。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)