若い選手が育ってこないというのが"定説"みたいになっていた巨人だが、近年ファームから、とくに若い投手の台頭が続いている…
若い選手が育ってこないというのが"定説"みたいになっていた巨人だが、近年ファームから、とくに若い投手の台頭が続いている。
今やリリーフエースの地位を築きつつある中川皓太を筆頭に、同じくリリーフの大江竜聖、さらには菅野智之に次ぐ勝ち星を挙げてローテーションの一角を担う戸郷翔征......。そこに今度は、その戸郷と同期入団の2年目・直江大輔だ。

8月23日の広島戦でプロ初先発・初登板を果たした巨人2年目の直江大輔
8月23日の広島戦でプロ初先発を飾り、4イニングを投げて3安打、5奪三振、1失点の好投を見せた。
気負いすぎることもなく、スピードをほしがるわけでもなく、用心深く、丁寧に、それでいて若者らしいエネルギーは存分に発散していた。
とんでもなく速いボールがあるわけではない。それでも140キロ前後のストレートを両サイドに散らし、右打者へのスライダーはきっちり外に、フォークはキャッチャーが構えたミットよりもさらに低く投げ込んでいく。
ピッチングの本質は松商学園(長野)での高校時代とまったく変わっていないが、たくましさが加わり、顔つきもプロの投手になっていた。
直江のピッチングを初めて見たのは、松商学園2年の夏の甲子園で、2イニングほどリリーフで投げた時だった。第一印象は「品のあるピッチャーだな」と。高校生に「品」なんて似つかわしくないかもしれないが、その言葉しか浮かばなかった。
長い手足を必要なだけ動かし、丹念に狙ったコースに投げ進めていく。雄叫びを上げたり、ガッツポースをしたり......そうしたパフォーマンスは一切なく、求められた仕事を淡々とこなしていく。そんなフラットなテンションは、ある意味、高校生離れしていた。
以来、直江の成長が気になり、何度も見に行った。そのたびに「いいピッチャーだなぁ」と思ったが、こちらの要求も高くなり、だんだんと物足りなさを感じるようになっていった。
ストレートも変化球も、70%以上の確率で捕手の構えたミットに投げ込める。こんな高精度なコントロールを持つ高校生なんて、そうはいない。
5回なら1失点、7回なら2失点、完投すれば3失点......大崩れすることなく、いつも涼しい顔で試合をつくっていく。チームを指揮する者にとって、これほどありがたい投手はいない。
そんな直江のベストピッチングではないかという試合を見ている。2018年の5月末、練習試合で松本にやってきた作新学院との一戦だ。
この試合、立ち上がりから直江のピッチングは冴えに冴えた。打者の手元でキュッと曲がるスライダーと、PL学園時代の前田健太(現ツインズ)のようなタテ割れのカーブ、それにスッと沈むボールはフォークなのか、チェンジアップなのか......。ストレートは140キロ前後だが、変化球を巧みに操り"緩急"で勝負する。とにかくバリエーションが豊富で、実戦力の高い作新学院打線を完全に翻弄していた。
この作新学院との試合前日、直江に少し話を聞いていた。
「うーん、やっぱりピッチャーは緩急でタイミングを外すのが仕事だと思うので......」
ここまで話すのに、結構な時間を要した。「うかつに笑顔など見せないぞ」という面構えに、いかにも投手らしい気難しさが漂っていた。
「150キロとか、やっぱりかっこいいですし、憧れた時期もあったんですけど、自分のピッチングを崩しちゃって......ピッチャーはバッターの顔色を見ながら、コンビネーションを使って考えながら投げるのが面白い。スピードは、コツコツと練習を積んで、体ができてくれば自然と速くなると思うんです」
打者にフルスイングさせず、野手のポジションをしっかり確認してから投球に入る"作法"のよさ、一塁けん制のスピードとタイミングのすばらしさ。投手として必要なものはすべて持っていた。
作新学院との試合、ネット裏には複数のスカウトが直江のピッチングに注目していた。5回が終わったところで、多くのスカウトが席を立つなか、ある球団のスカウトだけは試合終了まで背中をピンと伸ばしたまま、直江のピッチングに目を凝らしていた。
巨人の木佐貫洋スカウトだった。それを見た時「いい人に見てもらっているな」と思った。長い手足をしならせて、きれいなオーバーハンドから丹念に低めを突く根気強いピッチング。木佐貫スカウトの現役時代のピッチングが、そのまま直江に重なった。
木佐貫スカウトなら、"150キロ"も"魔球"もないけど、直江の才能をありのまま球団に推してくれるだろう。その時は巨人に入るなど予想もしなかったが、いまにして思えば、それも立派な"縁"だったのかもしれない。
そして高校最後の夏。「投げないかも」と思いつつ、足を運んだ岡谷南高校戦。松商学園が負けるわけがないと決めつけていた試合は、"岡谷南有利"のまま進んでいく。
2対4と2点ビハインドの4回、無死一、二塁となったところで直江がマウンドに上がる。7球のピッチング練習。その時から、いつもの直江ではなかった。ピッチングに"怒り"がこもっていた。
猛烈な腕の振りから放たれたストレートは140キロ台を超え、試合終盤には145キロまで達していた。
ポーカーフェイスで投げることも大事なことだが、これからもっと伸びていかなくてはいけない高校生だ。なりふり構わず勝負に身を投じる直江のピッチングを何度も見てきて、そんな"狂気"を内面に秘めていてほしいと思っていたところ、最後の夏にようやく直江の"牙"を見たような気がした。
あれから丸2年が経ったプロ初先発のマウンド。やはり、露骨な闘争心を見せたりはしない。しかし、自分の持ち球に自信を込めて投げ込む本物の"攻めのピッチング"。あの高校最後の夏に見た"牙"は失われてはいなかった。
直江が松商学園のエースとして投げまくっていた頃、ネット裏からひっそりと視線を注いでいた木佐貫スカウトは、いまは巨人の二軍投手コーチを務めている。直江の入団の道をつくってから、木佐貫スカウトも投手コーチとしてファームのグラウンドに立っていた。自分を見出してくれた人からピッチングを教わり、そして一軍に導かれる。
そんなめぐり合いもあり、直江は順調に成長を遂げた。はたして、プロ2度目のマウンドで今度はどんなピッチングを見せてくれるのか。若武者が躍動すれば、巨人の連覇はさらに加速していくだろう。