恒例の人気企画となった、山本昌氏(元・中日)による高校生投手アナライズ。50歳まで現役投手として投げ続けた球界のレジェ…

 恒例の人気企画となった、山本昌氏(元・中日)による高校生投手アナライズ。50歳まで現役投手として投げ続けた球界のレジェンドの眼鏡にかなう逸材はいたのか? 今回は2020年甲子園高校野球交流試合で躍動した4投手、各地の独自大会で光を放った5投手のピッチングを分析。山本昌氏は「自分が監督なら1位指名したい」と、意外な投手の名前を挙げた。



プロ志望届を出せばドラフト1位確実と言われている中京大中京・高橋宏斗

高橋宏斗(中京大中京/183センチ・79キロ/右投右打)

ひと目見て、素晴らしいピッチャーだとわかります。とくに腕の振りの強さには圧倒されますし、ボールの走りがすばらしい。ここまでボールが走るピッチャーは久しぶりに見ました。ストレートはプロでもすぐに通用するのではないでしょうか。大学進学かプロかで進路を悩んでいるようですが、プロ志望届を出せば1位指名は堅いでしょう。上の世界で活躍するためのポイントは、タテの角度をつけて投げるタイプではないので、緩い変化球を投げられるか。また、フィニッシュで体が一塁側に向く傾向があるので、本塁方向に真っすぐ向けられるか。いずれにしても、ぜひプロで見たいピッチャーです。



1年夏から甲子園のマウンドに立つなど経験豊富な明石商・中森俊介

中森俊介(明石商/181センチ・79キロ/右投左打)

彼も進学かプロか進路を迷っているそうですが、下級生の頃からいいピッチャーだなと気にして見ていました。非常にまとまりがあって、コントロールがつきやすそうなフォームをしています。私はピッチャーが投球する際に使う空間の幅のことを「ライン」と表現しますが、中森くんはラインが真っすぐにストライクゾーンに向いています。たとえプロの狭いストライクゾーンでも、コントロールには苦労しないでしょう。ダルビッシュ有投手(カブス)や田中将大投手(ヤンキース)のようにピッチングに強弱をつけられるのもポイントです。今後はもっと体重移動がスムーズになって、捕手に近い位置でリリースできるようになれば面白いですね。より伸びのある球が投げられるようになるでしょう。



和歌山の独自大会で自己最速の152キロをマークした智弁和歌山・小林樹斗

小林樹斗(智弁和歌山/182センチ・86キロ/右投右打)

高橋くん、中森くんと同様に進路に迷っているようですが、素材はすばらしいものがあります。何より体が強そうで、現段階でも150キロ前後のスピードがあるのは魅力です。そしてフォームや体は粗削りなのに、これだけのボールが投げられるところに末恐ろしさを感じます。現時点ではボールは暴れるし、試合をまとめる能力に関しては課題もあります。また、プロで活躍するには強打者をビックリさせるような変化球をひとつ覚えたいところです。でも、素材のよさには驚きました。プロで洗練されてくれば、大きく進化できるピッチャーでしょう。



将来性を高く評価するスカウトも多い大分商・川瀬堅斗

川瀬堅斗(大分商/185センチ・82キロ/右投右打)

まず、どっしりとした下半身、体つきのよさが目につきます。フォームを見ると、大先輩の森下暢仁投手(広島)を相当尊敬していることが伝わってきますね。上体を反らせて手が真上から出てくるような投げ方で、相当に研究しているのでしょう。原則的に、ピッチャーはカカト側に体重がかかるとバランスが崩れるのでよくないと私は思うのですが、本人が投げやすくボールに力が伝わっているなら問題ありません。惜しいのは、森下投手よりも左肩の開きが早いように感じること。ここで我慢できるようになれば、タテの大きなカーブの曲がりはもっとよくなるはずです。



山本昌氏が絶賛した福岡大大濠の山下舜平大

山下舜平大(福岡大大濠/188センチ・93キロ/右投右打)

斉藤和巳くん(元ソフトバンク)を彷彿とさせる、上背のある投手らしい体型をしているのが第一印象です。上から角度をつけて投げられて、タテの大きなカーブを投げられるのがポイントです。今どき高校生でこれだけ本格的なカーブを投げられるピッチャーは珍しいですし、プロでも武器になるでしょう。体重移動をする際に下半身が突っ立ちぎみでボールが抜けることや、低めに伸びてこないのは課題ですが、体が未完成ですから仕方ありません。体ができてきて、ストライクゾーンに体が入っていくような投げ方になってくれば面白いでしょう。カーブをしっかり投げられるピッチャーはチェンジアップ系の球種も覚えやすいので、プロで覚えてもらいたいですね。



最速148キロのストレートとキレ味鋭い変化球で三振の山を築く静岡商・高田琢登

高田琢登(静岡商/178センチ・77キロ/左投左打)

ボールにキレがあり、曲がりの大きなカーブを投げられる左ピッチャーらしい投手だと感じました。コントロールもまとまっていますし、腕を強く振れるのもいい。ストレートと変化球で腕の振りが変わらないのもいいですね。タテのカーブを投げられるということは、腕が高い位置から出ている証拠。これからも生かしてもらいたいですね。惜しいのは、せっかく高い位置からリリースできるのに、早い段階で軸足(左足)のヒザを自ら折って体重移動に入ること。高い位置から体重移動できたほうが、もっと角度がついていい球がいくはずです。粗削りではありますが、貴重なサウスポーですから欲しがる球団は多いでしょうね。



長身から投げ下ろすストレートが魅力の横浜高・松本隆之介

松本隆之介(横浜/188センチ・85キロ/左投左打)

昨年は及川雅貴投手(阪神)をプロに送り出している横浜ですが、名門だけあっていい左ピッチャーが続くなと感じます。松本くんの場合は上背があって、上から角度をつけて投げられるので楽しみですね。背が高くて線が細い分、まだ体の弱さが目につきますが、これから鍛えていけば本格化していくはずです。今はフォームがバラついてコントロールに難がありますが、体さえまとまってくればゲームメーク能力も高まっていくでしょう。未完成でも、これだけ速いボールを投げられる素材のよさを評価したいですね。



中学時代から評判の投手だった苫小牧中央の根本悠楓

根本悠楓(苫小牧中央/173センチ・78キロ/左投左打)

堀瑞輝投手(日本ハム)の高校時代にも「プロでも早い段階で活躍できそう」とお伝えしましたが、根本くんにも近いものを感じます。決して強豪とは言えないチームのピッチャーだそうですが、ラインがしっかりしていてストライクゾーンに投げ切る力があります。腕の振りがコンパクトなスリークォーターで、ボールのスピン量が多いのが特徴。打者は球速以上のスピードを感じるはずです。ボールが全体的にカットぎみの変化をしているのは少し引っかかりますが、左肩をもう少し前で振れるようになるといいですね。チェンジアップ系の球種もより投げやすくなるはずです。



最速150キロのストレートを武器に千葉の独自大会を制した木更津総合・篠木健太郎

篠木健太郎(木更津総合/176センチ・72キロ/右投左打)

私の母校であり、臨時コーチを務める日大藤沢(神奈川)の練習試合で対戦したことがあり、篠木くんのピッチングも見たことがありました。非常に球速があり、ボールが走っていた印象があります。背丈はさほど高くなく、体をくの字に折るので角度が出るタイプではありませんが、球持ちのいい腕の振りがすばらしいです。ストレートとスライダーのキレがよく、コントロールもいいので、あとは上で通用するタテの変化球を習得できるか。まずは大学に進学するそうですが、タテの変化球が成功のカギになるでしょうね。

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 もし私がNPB球団の監督で、ドラフト1位指名できる権限があったら、福岡大大濠の山下くんにいきたいですね。すぐに一軍戦力にと期待できるわけではありませんが、素材として楽しみです。何より、あのカーブは小手先では投げられませんから、彼にとって大きなアドバンテージになるでしょう。

 いいカーブを投げるという意味では、静岡商の高田くんも魅力的です。許されるなら、山下くん、高田くんをダブル獲りしたいところですね(笑)。とはいえ、今年は大学生にも好投手が多いと聞きますし、今度は大学生、社会人などのピッチャーもチェックしてみたいですね。