AFCチャンピオンズリーグとの日程重複のため、8月26日に繰り上げ開催されたJ1第29節。コンサドーレ札幌は横浜F・マ…
AFCチャンピオンズリーグとの日程重複のため、8月26日に繰り上げ開催されたJ1第29節。コンサドーレ札幌は横浜F・マリノスとアウェーで対戦し、1−4と完敗した。
わずか1カ月前、両者は札幌のホームで第7節の試合を戦っていた。そのときのスコアは、札幌の3−1。ハイプレスを仕掛け、横浜FMのミスを誘った結果の勝利だったが、"二匹目のドジョウ"とはいかなかったわけだ。札幌のミハイロ・ペトロヴィッチ監督が語る。
「前回の札幌ドームのような戦いをしたかったが、選手の動きが重く、運動量と球際で上回られ、前半に(0−2と)失点を重ねてしまった。(前の試合同様)マンツーマンで前からプレッシャーをかけていく狙いはあったが、競り合いに負け、相手についていけなかった」

横浜F・マリノスに完敗したコンサドーレ札幌だったが...
この試合、札幌の先発メンバーに、FW登録の選手はひとりもいなかった。ひとりのGKと3人のDF、残る7人はすべてMFである。フォーメーションはいつもどおりの3−4−2−「1」ではあったが、「1」にはボランチを主戦場とするMF荒野拓馬が入っていた。そこには、DFラインからパスをつないでくる横浜FMに対抗しようとの意図がうかがえた。
ところが、札幌は高い位置から横浜FMの攻撃を制限することができず、次々に自陣ペナルティーエリア付近までボールを運ばれてしまう。結果、荒野はボランチ位置まで後退させられることも多く、札幌のフォーメーションは実質、3−5−2−0、あるいは4−4−2−0へと変化させられていた。
結果的に横浜FMがチャンスを生かし切れなかったため、2失点でハーフタイムを迎えることができたのは幸いとも言えるが、「前半がすべて」(ペトロヴィッチ監督)だったのは確かだろう。
札幌はハーフタイムにブラジル人FWふたりを投入し、2トップにするなど反撃を試みたものの、試合終了直前にどうにか1点を返したのみ。「前がかりになれば、カウンターを受けるリスクがある」とペトロヴィッチ監督が語ったように、先に3、4点目を失って万事休した。
「後半は狙いが出せて、ある程度満足できるが、敗戦は痛い」
指揮官は悔しそうに、そう語った。
策士、策に溺れる、と言ったところだろうか。率直に言って、札幌の完敗である。このところ、リーグ戦では3連敗を含む5戦未勝利(4敗1分け)と、苦しい試合が続いている。
しかしながら、一方的だったスコアとは別に、札幌には興味をそそられる点が多かったのも、また事実である。
攻撃力に優れた横浜FMに対し、引いて守りを固めれば、失点の危険性は下げられるだろう。だが同時に、得点できる可能性も下げてしまう。ならば、高い位置から相手の攻撃を制御し、得点する可能性を高めよう。そんな前向きな姿勢が、札幌から感じ取れたからだ。
とりわけ興味深かったのは、札幌がボールを奪ったあとの攻撃の進め方である。
相手の動きに合わせ、人を捕まえてプレスをかけようとすれば、当然ピッチ上のフォーメーションはバラバラになる。ボールを奪ったとき、例えば、3−4−2−「1」の「1」が一番前にいるとは限らない。
だからこそ、札幌は意図的に縦のポジションチェンジを頻繁に用いた。ボールを奪った瞬間、自分が今いるポジションの役割をそのまま務める、とでも言おうか。
例えば、1トップの荒野が相手ボランチについて下がっていれば、2列目のMFチャナティップが前線でクサビのパスを引き出す。あるいは、ボランチのMF宮澤裕樹がDFラインまで下がっていれば、リベロのDF田中駿汰がボランチ位置に出てパスをさばく、といった具合だ。
ただ単に相手の攻撃を止めることだけを考えるのではなく、奪ったボールをどう攻撃につなげるか。その点においても、発想が斬新だった。
もちろん、完敗を喫した以上、札幌の策が成功したとは言い難い。
本来、2列目で前を向けば、得点に直結するパスを出せるチャナティップも、後ろ向きでボールを受けることが多く、簡単にボールを失うことも多かった。また、前線で深みを作ることができなかったため、中盤でのボールの動きが小さくなり、札幌本来のサイドを使って幅を作る攻撃は影を潜めた。
前半の1トップから、後半はボランチに回った荒野が「(前回の対戦では)取ったボールをコンビネーションでつなぐことができたが、今回はイージーなミスでロストすることが多かった。前への意識だけではなく、もう少しボールを触りながら(じっくりと)前へ行ってもよかった」と話しているとおりだ。
それでも、甲羅に閉じこもった亀のごとく、ただただ耐えるだけの守備戦術を採るよりも、姿勢はずっと前向きだった。
限られた戦力の特性を踏まえ、誰をどう組み合わせれば、何ができるか。MF深井一希、駒井善成、荒野、宮澤、田中と、ボランチをこなすタイプの選手を先発に5人もそろえていたのは、彼らが流動的にポジションチェンジしながらでも、その時々の役割をこなせる自在性を備えていたからだろう。結果的に玉砕したとはいえ、彼らの挑戦は果敢だった。
今夏、エースストライカーのFW鈴木武蔵を海外移籍で失いながらも、手持ちの駒をやりくりして「ゼロトップ」で挑んだ札幌。その一方で、3人すべて今季途中に移籍加入したFWで「3トップ」を組んだ横浜FM。あまりに対照的な両者の対戦は、少々策を講じたところで埋めがたい地力の差を見せつけられた試合、とも言えるが、札幌の奇抜な試みは実に興味深く、見応えがあった。
だから、ミシャのサッカーは面白い。少々勝てない試合が続いたとして、安易に目を離すわけにはいかないのである。