ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)率いるラグビー日本代表は、11月12日、敵地トビリシのミヘイル メスキスタジアムで洗礼を浴びていた。

 SOの田村優がゴールキックを蹴る際は、必ずスタンドからブーイングが飛ぶ。新顔の多い顔ぶれで反復練習をし始めたばかりのスクラムは、相手の強力な押し込みに煽られる。

 スクラムやラインアウトモールで圧倒され、前半24分にはLOの梶川喬介が10分間の一時退場処分を受け、その直後にはラインアウトモールから失点。前半を終えた頃は、8-12とビハインドを背負っていた。

 もっとも指揮官は、信じていたという。

「質のいいボールを出せれば勝てる。我々はこの試合に向けた準備と対策を練ってきた」

 流れをつかんだのは後半からだ。まずは今秋から代表入りのWTB、レメキ ロマノ ラヴァが気を吐く。

 4分。自陣ゴール前左でマイボールスクラムを押し込まれ、逆側へ展開される。やや乱れたパスが飛んだ先にいたのが、レメキだった。細やかなステップを交えてタックラーを御し、ぐんぐん加速する。一本道を駆け上がる。ジョージア代表ファンが埋まった観客席からため息さえも漏れないなか、トライラインを割った。13-12。勝ち越した。

「マノはセブンズの頃からずっと心強くて…」

 この日ベンチスタートだった福岡堅樹は、強気に前進するレメキをこう捉えていた。2人は今夏のリオデジャネイロ五輪で、男子7人制日本代表としてともにプレー。その魅力を皮膚感覚で知る。

「ボールを持てば、必ず何かをしてくれる。状況を打破してくれる。きつい時に頼りになる」

 福岡がカーン・ヘスケスとの交代でグラウンドに出たのは、11分。チームはその直前に、ジョージア代表NO8のベカ・ビツァーゼのトライなどで13-19と勝ち越されていた。インゴールで円陣を組むところへ、背番号23をつけた福岡が加わる。

「流れを変えようと意識していました。強みのスピードを活かして、ラン、キックチェイスを…。相手のFWもばてていたようなので」

 筑波大の4年だった昨秋、ワールドカップイングランド大会に出場。当時のエディー・ジョーンズHCに「チーターより速い」と称えられた加速力を活かし、最終コーナーを回る仲間に活力を与えたい…。すべきことは明確だった。

 さっそく、自陣中盤でギアを入れる。FBの松島幸太朗のハイパントを追いかけ、捕球する相手にプレッシャーをかけにゆく。道中、別な相手とぶつかりバランスを崩す。転倒。その間に攻め込まれ、17分、FBのメラブ・クビリカシビリにペナルティゴールを許す。

「体勢を崩して…。あそこは反省です」

 13-22とリードを広げられてしまったが、福岡は、引きずらなかった。

 19分。チームがグラウンド中盤右でラインアウトを確保すると、一気に左へ展開する。SHの田中史朗から最初に球を受け取ったのは、右のWTBに入っていたレメキ。SOの田村はその後ろで余裕を持ってパスを放ち、NO8ながら左中間に立っていたアマナキ・レレイ・マフィらを経由させ、左タッチライン際の福岡がバトンを渡す。

 背番号23、前傾姿勢で突っ込む。守備網を突っ切る。

 福岡の勢いある走りで敵陣10メートル線あたりまで進むと、日本代表は一転、ボールを右へ振り戻す。まずはFW陣が身体を当て、次はさらにFWの軸であるHOの堀江翔太主将が球を持つ。

 タックラーをぎりぎりまで引きつけながら、右の深い位置へパスを放つ。身体を当てるFWでありながら、ボールを動かすBKのような技巧的なプレー。アクセントをつける。

 この堀江のパスは田村が受け取り、田村がさらに右へパスをすると、インサイドCTBの立川理道主将(堀江と共同主将を務める)が受け取る。目の前にいた防御が前に出たと見るや、その背後へキックを転がす。

 そこへ反応したのが、右端にいたレメキだった。無人のスペースを駆け抜け、この日自身2本目となるトライを決めた。20-22。2点差に迫り、立川主将もこう実感した。

「自分たちの形でボールが動き出せば、相手の守備がついてこられなくなった」

 23分。右から左、左から右へとフェーズを重ねる。堀江主将が、19分の時と同じような好パスを敵陣22メートル線付近中央で繰り出す。受け手の田村が凸凹になった相手守備網の裏へ抜け出し、左中間へ駆ける。

 パスを出した先に、福岡がいた。

 持ち場の左タッチライン際で快足を飛ばす。目の前の防御を突き破る。25-22。再逆転に成功したのだった。

「(守備の)裏へ優さんが顔を出したところへ…。(ボールをもらう前から)外が空きやすくなるのは見えていて、それは中の選手に伝えていました」

 日本代表は、ジョージア代表の肉弾戦での激しさを把握したうえで自軍のテンポある攻めに自信を持っていた。トニー・ブラウン アタックコーチのプランニングのもと、グラウンドを横に4分割して選手を配列。いずれかの空いたスペースを効果的に攻略するよう志している。

 HOの堀江は、「個人個人でミーティングはして、それぞれの課題をクリアしていると思う」。本格始動から約1週間の準備で臨んだアルゼンチン代表戦(11月5日/東京・秩父宮ラグビー場/●20-54)を受け、さらなる意思統一を目指していた。指揮官が「この試合に向けた準備と対策を練ってきた」と話すのも、自然な流れだった。

 結局この日は、28-22で勝利。苦しみながら、現体制下の初白星をもぎ取った。立川主将は、「堅樹はいいインパクトを示してくれた。流れのなかで凄くいい働きをしてくれた」と安堵の表情だった。

 この後も欧州遠征を続けるチームは、19日にはカーディフ・プリンシパリティスタジアム(ミレニアムスタジアム)に乗り込み、欧州6強のウェールズ代表に挑む。五輪組の1人であるレメキは、試合終了間際に怪我をして病院へ直行した。状況は明るいばかりではないが、もう1人の五輪組である福岡は「全体的には、流れを変えられたと思います」と静かに手応えを語る。業務の遂行力を極限まで高め、難敵に迫りたい。
(文:向 風見也)