「欧州サッカーに地殻変動。今季CLを総括」はこちら>> ユベントスのベンチはその主を変えた。最後までユベンティーノの反感…

「欧州サッカーに地殻変動。今季CLを総括」はこちら>>

 ユベントスのベンチはその主を変えた。最後までユベンティーノの反感をぬぐい去れなかったマウリツィオ・サッリから、最愛のヒーロー、麗しきサッカーの象徴であるアンドレア・ピルロへ。これで誰もが満足、幸せになるはずだ。

 しかしひとつだけ大きな疑問がある。それは"経験不足"。ピルロは確かに誰もが認める偉大な選手だった。しかし監督の経験は小指の先ほどもない。いうならば免許取りたての青年に、いきなりF1レースでフェラーリのマシンを運転させるようなものだ。

 ユベントスの番記者時代、私はほぼ毎日、ピルロと顔を突き合わせていた。だからアンドレアのことはよく知っている。その経験から言うと、大失敗する可能性よりも成功する確率の方がかなり高いと思う。



ユベントスの監督に就任したアンドレア・ピルロ photo by Reuters/AFLO

 ピルロは決して口数は多くはないが、口を開く時には価値のあることしか言わない人間だ。「マエストロ」と呼ばれていた選手時代からチーム内のリーダーであり、ロッカールームで自分の意見を述べる時には誰にも邪魔させない。監督になった今もその静けさは変わりないだろう。声を荒げることはまずない。しかし視線のひとつ、仕草のひとつで彼は自分の意思を通じさせることができる。

 もうひとつピルロの大きなアドバンテージは、アンドレア・アニエッリ会長が直々に彼を監督の座に望んだということだ。だからその地位は、しっかりすぎるほど安定している。チームは彼を心底信頼し、すべての面において彼をバックアップするだろう。こうした信頼はサッリの時には一度も見られなかった。

 ピルロはユベントスのみならず、イタリアの揺るぎないスター選手だった。2013年、コンフェデレーションズカップで代表を引退した時は、サッカーの殿堂マラカナ・スタジアムの観客が総立ちとなり、彼に惜しみない拍手を送った。

 ひとつだけ注意しなければいけないのは、監督となった今、ピルロは自分のプレーを忘れる必要があると言うことだ。絹のような柔らかいボールタッチ、30メートルあっても正確無比なパス、上昇した後に、最後の瞬間に急降下しGKは動くこともできないFK......。それらを彼は自分の選手に教えることはできない。

 それらはすべてピルロだからこそできたものだ。他の誰も真似することはできない。自らが生まれながらに持っていた才能を、選手たちに要求することはできない。やはり天性の才能を持っていたミシェル・プラティニは、監督を試み、失敗した時のことをふり返り後にこう言っている。

「私にとってごく基本的なことを、なぜ選手たちがミスするのか、私にはわからなかった」

 ただ、ピルロはその点も恵まれているだろう。彼が率いるチームは、そんじょそこらのチームではない。ユベントスには彼に匹敵する多くの天才がそろっている。

 ピルロはカルロ・アンチェロッティやマルチェロ・リッピなど、多くの名将と呼ばれる監督のもとでプレーし、その指導をつぶさに見てきた。今はその教えを思い出す時だろう。

 気心が知れたかつてのチームメイトも残っている。ジャン・ルイジ・ブッフォンは新シーズンが最後の年になるかもしれないが、彼の存在は大きな助けとなるだろうし、その他のベテランDF陣も彼を助けることだろう。不安といえば、誰からも何一つ文句が出ないことぐらいだ。

 現在の最大の注目は、ピルロのユベントスがどんなサッカーをするのか。そして誰が残り、誰が出ていくのか、だ。

 ピルロは完璧主義者ではない。サッリは3バックでプレーすることを異端だと考えている節があったが、ピルロは違う。様々な状況で戦い抜いてきた経験を持つ彼はもっと柔軟だ。

 ユベントスには多くの信頼できるCBがいる(マタイス・デ・リフト、レオナルド・ボヌッチ、ジョルジョ・キエッリーニ、メリフ・デミラル、ダニエレ・ルガーニ)。中盤を5人にしてクリスティアーノ・ロナウドとパウロ・ディバラのコンビを援護させることも考えているだろう。

 そのディバラだが、モンスター級のオファーがあれば、ユベントスは売る気だと噂されている。しかしピルロは何があっても彼を放出しないでくれとアニエッリに進言していると思う。ピルロは以前からディバラの足を非常に高く評価している。まさかここにきて手放すことを考えはしないだろう。

 一方、サミ・ケディラ、ゴンサロ・イグアインは出ていく方向で、ブレーズ・マチュイディはインテル・マイアミ(MLS)への移籍が決定した。アーロン・ラムジー、ダニーロ、アレックス・サンドロ、故障の多いドウグラス・コスタ、そして期待外れだったフェデリコ・ベルナルデスキも放出可能選手のリストにある。

 この1月に獲得し、新シーズンからユベントスでプレーする20歳のスウェーデン代表デヤン・クルゼフスキはいい買い物だったと思う。元バルセロナのアルトゥールの獲得は、良かったのか悪かったのか意見が分かれるところだろう。ユベントスはこの夏にもうひとり、強力なCFを獲得したいと考えている。

 いずれにせよピルロ・ユベントスの中心はロナウドになる。ピルロはロナウドにいいフィーリングを持っている。そしてこの監督と中心選手との良好な関係が、チームにポジティブな化学反応を起こすだろう。

 8月24日、新生ピルロ・ユベントスが本格的に始動した。例年とは異なり、他の土地でサマーキャンプをするのではなく、トリノにあるユベントスのトレーニングセンターで新シーズンに向けての準備をすることになっている。初日は選手のPCR検査と小さなグループに分かれての練習、そして新スタッフと選手の顔合わせ兼ねた初のミーティングが行なわれた。

 新スタッフの中には、かつてユベントスで活躍したクロアチアのイゴール・トゥドールの顔もあり、練習場の入り口に詰めかけていたサポーターを喜ばせた。ピルロは練習場にキエッリーニとともに現れ、早くも昨シーズンにはなかった監督と選手の一体感を期待させた。