サッカー名将列伝第12回 ハンス=ディーター・フリック革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせ…
サッカー名将列伝
第12回 ハンス=ディーター・フリック
革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回は、先のチャンピオンズリーグで優勝したバイエルンのハンス=ディーター・フリック。シーズン途中の就任ながら、チームを今季三冠に導いた。苦境にあえいでいたチームを、どのように再生させたのか。その戦術にスポットを当てる。
サイド攻撃はドイツの伝統だが、レバンドフスキとミュラーのいるバイエルンは、誰が監督になろうが必ずそこへ帰結する。ジョゼップ・グアルディオラ、ルイス・ファン・ハール、ユップ・ハインケスでも、結局その点は大差なかった。
快足ウイングは、アメリカンフットボールのワイドレシーバーのようにマークを外し、そこへ主にチアゴ、アラバからロングパスが送られる。アリエン・ロッベン、フランク・リベリーからバトンを受け継いだウイングは崩しの主役であり、バイエルンが相手の守備を崩す場面はサイドしかないとも言える。
<弱者の戦法を極めて最強に>
サイドへのロングパスによる攻め込みという点で、バイエルンとリバプールは同じで、EL優勝のセビージャも同じだった。ロングパスまでのつくり方に若干の違いがあるだけだ。
バイエルンがサイドからしか攻めないのは、選手の特徴にも合っているが、むしろ戦略的な理由が大きいだろう。中央でボールを失わないのと同時に、攻撃が守備時のハイプレスへの準備になっている。
ウイングへのロングパスがメインの攻め込みルートなので、後方からウイングへパスが出た時点で、全選手がボールの後方にいる。少なくともこの瞬間に攻め残りしている選手はゼロだ。
サイドから攻めているので、そこで相手ボールになってもそのままウイングがプレッシャーをかけられる。そして中央エリアへのつなぎに対しては、ミュラー、ゴレツカ、レバンドフスキの、ゴール前でクロスを待っていた3人が素早く戻って守備に入る。
この中央エリアでのプレスの強さは、サイド攻撃と並ぶバイエルンのはっきりした特徴だ。自分たちはこのエリアでボールを失うことを徹底的に回避する一方、相手からこのエリアでボールを奪ってショートカウンターへつなげようとしている。
つまり、中央エリアは攻撃ではまったく使わないぐらい無視しているが、守備では最重要エリアになっている。ゴール前でクロスに飛び込んでいく屈強な3人は、守備でもそのパワーを活用する。
バイエルンの戦術の根底には合理性と用心深さがある。ある意味、弱者の発想なのだが、それをあのレベルで極めると、とんでもない強者になりうるわけだ。まあ、これはこじつけにすぎないが、暫定監督から名監督のひとりに飛躍したフリック監督とどこか重なる気もする。
ハンス=ディーター・フリック
Hans-Dieter Flick/1965年2月24日生まれ。ドイツのハイデルベルク出身。選手時代はバイエルンやケルンでプレーしたあと、地元のヴィクトリア・バンメンタールで選手兼監督として、指導者をスタート。3部時代のホッフェンハイムも率いた。その後レッドブル・ザルツブルクで1年、ドイツ代表で8年アシストタントコーチを務め、14年からはドイツサッカー連盟のスポーツディレクターに就任。19年バイエルンのアシスタントコーチで現場復帰すると、11月からは監督としてチームを率いることになり、チームを今季三冠に導いた