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失敗しないDeNA外国人選手獲得戦略(前編)
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ここ数年、横浜DeNAベイスターズが獲得する外国人選手の活躍が目立っている。今シーズンの陣容は、入団6年目のホセ・ロペスを筆頭に、リリーフ要員として欠かせないスペンサー・パットンとエドウィン・エスコバー、新加入の長距離砲のタイラー・オースティンと技巧派の先発投手マイケル・ピープルズ、そして2年連続ホームラン王のネフタリ・ソトの計6名。

一昨年、昨年と2年連続してセ・リーグ本塁打王に輝いたネフタリ・ソト
今シーズン、コロナ禍による過密日程の影響で外国人選手の一軍登録枠が「4→5」へ変則となったが、各選手、ケガや不調がありながらもチームに貢献しており、開幕当初、アレックス・ラミレス監督は誰をベンチ入りさせるか頭を悩ませたほどだ。
DeNAの外国人獲得戦略を担う中心人物は、チーム戦略部部長の壁谷周介氏だ。DeNA初年となる2012年よりチームに参画している壁谷氏は、外国人獲得戦略以外にも、2017年にITを活用したデータ分析を担うリサーチ&デベロップメント(R&D)グループを立ち上げ、先進的なIT・データ活用施策に挑戦している。
「外国人選手は現状の戦力を鑑み、チームにとって必要なプレーヤーを限られた予算のなかで獲得することが求められます。まず重要となるのは国際担当スカウトの存在ですね」
現在、DeNAの国際担当スカウトを務めるのは2名。広島やダイエー(現・ソフトバンク)でプレーし楽天二軍打撃コーチの経験もあるルイス・ロペス氏と、阪神の投手として3年間プレーし楽天の駐米スカウトを務めたグレッグ・ハンセル氏だ。
ロペス氏は主にマイナーリーグである3Aのインターナショナルリーグ、ハンセル氏は同じく3Aのパシフィック・コーストリーグを担当しており、全米に情報網を張っている。言うまでもなく、ともに日本の野球事情をよく知る人物だ。
「彼らはかなりの数の選手を見ていますが、我々に推薦してくる数はかなり絞られています。希望するタイプの選手をリクエストすると、まず私の方に数十名の選手のリストが送られてきます。それを編成部長の進藤達哉さんとチェックして、その後、アメリカに渡って実際のプレーを見るのですが、その頃には候補選手は10人を切っています。アメリカ滞在は2、3週間なので、視察できる選手はどうしても限られてしまいます」
実力は申し分ないのに、日本の野球にアジャストできず期待外れに終わる外国人選手は少なくない。DeNAが外国人選手を見極めるうえで重要視しているのはどの部分なのだろうか。
「基本的に技術的な部分は、進藤さん、ロペス、ハンセルが評価するのですが、野手でいえばやはり日本人選手にはない魅力を持っていること。一番わかりやすいのは『パワー』ですね。さらに技術的な部分で言えば日本の野球に対応するためには逆方向に打てなければいけない。つまり変化球に対応し、『広角に強い打球が打てること』が条件になります」
日本の野球に適応できる技術の有無はもちろんだが、そのうえで壁谷氏がとくに重視するのが、その選手の性格や人柄だ。内面性こそが日本での成否のカギになると壁谷氏は確信している。
「大事なのは『ハングリー精神』で、そこを一番に見ています。たとえば、アメリカで実績のある外国人選手は日本の野球を見下したり、お金のためだけに契約することがあります。ですので、必ず面接をして、なぜ日本でプレーをしたいのか聞くことにしていますし、選手を見極めるうえでとても重要なことだと考えています」
これらのプロセスを含め、2012年シーズンからスタートしたDeNA体制にあって、最も大成した外国人選手といえば、日本で2年連続ホームラン王に輝いたソトだろう。
ソトは2017年の秋、横須賀にあるファーム施設で入団テストを受けているのだが、当時はソトが自らDeNAに売り込んだと報道されていた。しかし、それは若干異なると壁谷氏は言う。
「横須賀のテストで最終決定したというのは事実ですが、じつは我々がソトを招いてのことだったんです。ソトは2014年からスカウトのロペスがマークしていた選手のひとりでした。2013年と2014年にMLBのシンシナティ・レッズに昇格し期待されていた選手なのですが、その後フォームを崩してしまいメジャーに定着することなくマイナーでプレーしていました。
そして3Aと2Aを行き来していた2017年にあらためてロペスがチェックした時、打撃フォームが変わっていることに気づきました。ステップの仕方を変え、変化球への対応もよく、外角のボールを逆方向にもっていけるようになっていたんです。ロペスは『これは新たな発見だし、掘り出し物だ。たぶんオレ以外はソトをマークしていない』と報告してきました」
当時の編成のトップである高田繁ゼネラルマネージャーの来季へ向けた獲得選手のリクエストは、レギュラーのホセ・ロペスと宮﨑敏郎がケガをした場合のバックアップ(且つ、うまくいけば将来の主力となり得る補強)だった。つまりファーストとサードを守れる選手ということになり、それだったらソトしかないとロペス氏は太鼓判を押した。
例年、夏場になると壁谷氏と進藤部長はアメリカへ飛び、ロペス氏とハンセル氏と合流し候補選手をチェックするのだが、この時は日程の都合上、ソトのことをあまり見ることができなかったという。
「ほかに優先すべき選手がおり、ソトは少しだけしかチェックできなかった。進藤さんも私も決め切れないというのが正直なところでした。ただ、ロペスは絶対に一軍の戦力になると。信頼している彼がここまで言うのならば間違いないと思いました」
そこで実現したのが日本での最終テストだった。
「ただ、このテストは異例でした。通常、3Aでバリバリやっている選手が日本にわざわざテストのために来ることなんてありえないことなんです。あまり期待せず代理人に提案すると、ソト本人は行きたいと。正直、驚きました。ソトとしてもメジャーの壁に当たっていたので、日本で成功したいという気持ちが大きかったんだと思います」
ソトは、テストでDeNAの現役投手からホームランを放ち、持ち前のパワーと技術力を見せるなどそのパフォーマンスは申し分のないものだった。DeNAはあらためて獲得オファーを出した。
「ただ、あくまでもバックアップの想定でしたし、決していいオファーではありませんでした。それでも来てくれるのかと本人に確認すると『イエス』だと。話していても、とにかくここで成功したいというハングリー精神を強く感じました。ロペスが太鼓判を押していたので、ある程度はやってくれるとは思っていましたが、まさか2年連続してホームラン王を獲るとは考えてはいませんでしたね」
壁谷氏はそう言うと、柔らかな笑顔を見せた。テストで来日していたとき、チームは横浜スタジアムでソフトバンクを相手に日本シリーズを戦っていた。ソトはスタンドで観戦しており、その際、横にいた壁谷氏に次のように語りかけたという。
「このスタジアムはすごくいいね。バッター有利に感じられるし、なによりも僕は青空のもとでプレーをするのが大好きなんだよ」
前向きな姿勢と、野球を愛する気持ち。
ソフトバンクとの熱戦を見守っていたDeNAファンは、このとき誰も横浜スタジアムで観戦している外国人が、翌年以降チームの柱として大活躍することなど知る由もなかった──。
(後編につづく)