F1の舞台で2週連続で君が代がサーキット内に響き渡った。F1にはF2、F3と2つのフォーミュラシリーズが併催されている。そのF2で9日の第5戦レース2(英シルバーストーン)で角田裕毅がシリーズ初優勝を果たし、15日の第6戦レース1(スペイ…

 F1の舞台で2週連続で君が代がサーキット内に響き渡った。F1にはF2、F3と2つのフォーミュラシリーズが併催されている。そのF2で9日の第5戦レース2(英シルバーストーン)で角田裕毅がシリーズ初優勝を果たし、15日の第6戦レース1(スペイン・カタルーニャ)でGP2時代から参戦する松下信治が今季初勝利。通算7勝目を挙げた。


F2の今季初優勝を喜ぶ松下信治(F2提供)

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 F2は日本のトップフォーミュラのスーパーフォーミュラとほぼ同じ格付けで、かつては欧州F2、国際F3000、GP2の名称で呼ばれた。同一シーズンで2人の日本人がシリーズに優勝するのは今季が初めてだ。もっとも日本人のシリーズ優勝第1号はGP2時代の2008年の小林可夢偉。わずか12年前だ。

 今年に入って松下がF2に継続参戦することを耳にして驚いた。昨年秋の時点で欧州での活動に終止符を打ち、日本のシリーズに戻るとの観測がレース関係者を中心に広がっていたからだ。

 日本では有力自動車メーカーがレーシングドライバーを養成する育成プログラムを設けている。松下もホンダの育成出身。鈴鹿サーキットのレーシングスクール「SRS―F」でスカラシップを獲得し、その後は全日本F3などのタイトルに輝き、2015年にGP2にステップアップした。

 F1デビューを果たすには運転が速いだけではダメなのはモータースポーツ業界の常識となっている。

 レース中にピットと英語でのコミュニケーションができ、マシンの善しあしやフィーリングを判断できるフィードバック能力に優れていることが肝心。さらに日本人の場合はメーカーのバックアップを受けている要素も重要。メーカーの育成資金で海外レースに参戦するチャンスがあり、武者修行しながら経験値を積むことができる。元F1選手で今も第一線で活躍するホンダ系の佐藤琢磨、トヨタ系の中嶋一貴、小林可夢偉らが好例だ。


F1スペインGPに併催された第6戦レース1の表彰台。中央が松下信治(F2提供)


 逆にメーカーの後ろ盾を失えば、思い通りな活動ができなくなる。松下もGP2で優勝こそしたものの、ランク上位争いができず、1度はホンダの指示に従い、日本のレースに復帰した。18年のことだ。ホンダ系のチームでスーパーフォーミュラに初参戦したが、F1への思いを捨てきれず、わずか1年で海外に再シフト。GP2から名称変更されたF2の世界に舞い戻った。

 モータースポーツの世界にはスーパーライセンスポイントなるF1ライセンスの発給資格に関する得点システムがあり、F2で年間ランク3位以内に入れば、資格を満たす。ところが松下は昨季2勝を挙げるもランク6位に沈んだ。ホンダの育成プログラムも弱肉強食の世界。おそらく、日本帰還を再び打診されたと思われる。

 その際には自力で海外に残留する道を選択。オランダに本拠を置くMPモータースポーツ入りを果たした。今季のF2に参戦する松下の姿をレース映像で見た。ヘルメット、レーシングスーツ、マシンに昨季まで当たり前のように貼られていた「HONDA」や育成プログラムの「HFDP」のロゴがなかった。1月にホンダが発表した今年のモータースポーツ活動計画には、育成ドライバーのメンバーから彼の名が消えており、ホンダからはフルサポートを得られていないもようだ。

 優勝後に自身のツイッターに「今年僕はここでレースが出来ているので、辛い状況だからといって諦めたら全ての人の想いが無になってしまう。それだけは絶対にしたくありませんでした」と思いの丈をつづり、「今日優勝しましたが、これを転機にしなければなりません。引き続き頑張ります」。勝ってかぶとの緒を締めた。

 ランキングは12位。ホンダの育成組では後輩にあたる角田がランク4位と奮闘し、後塵(こうじん)を拝しているが、今後の奮闘次第ではチャンピオン争いに加わる可能性はある。10月で27歳。F1は若年化が進んでおり、今年がラストチャンスだ。

 戦国武将の織田信長を理想像にするなど、周りに流されないストイックさを備えているのも持ち味の一つ。崖っぷちドライバーの「火事場のばか力」に大いに期待したい。

[文・写真/中日スポーツ・鶴田真也]

トーチュウF1エクスプレス(http://f1express.cnc.ne.jp/)


※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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