東の横綱・東海大相模(神奈川)と西の横綱・大阪桐蔭による頂上決戦。まさに千秋楽といった雰囲気に包まれた、2020年甲子…

 東の横綱・東海大相模(神奈川)と西の横綱・大阪桐蔭による頂上決戦。まさに千秋楽といった雰囲気に包まれた、2020年甲子園交流試合最終日。全国の高校野球ファンが心待ちにした好カードは期待どおりの接戦になり、8回裏に勝ち越した大阪桐蔭が4対2で東海大相模を破った。

 ヒーローになったのは、背番号14をつけ、途中出場ながら決勝の2点タイムリーを放ったキャプテン・薮井駿之裕(やぶい・しゅんのすけ)だった。そして、名勝負を演出した陰の立役者を挙げるなら、藤江星河(せいが)、吉安遼哉(りょうや)のバッテリーだろう。



攻守でチームの勝利に貢献した大阪桐蔭・吉安遼哉

 大阪桐蔭は7日前、大阪独自大会の準決勝で履正社に3対9と完敗。とくに先発した藤江は3回1/3を投げて10安打を浴び、7失点でノックアウトされている。藤江がマウンドを降りた時点で大勢は決していた。

 この履正社戦から立て直し、東海大相模をわずか3安打に封じたバッテリーの功績は大きかった。

 履正社戦の敗戦に強い責任を感じていたのは捕手の吉安である。

「バッテリーが逃げて、弱気になってしまった」

 試合後、吉安は藤江と話し合うだけでなく、バックを守るレギュラー野手、さらにはスタンドで見ていたベンチ外の選手の声も聞いて、自身の反省を深めていった。

「甘く入るのをビビって、外の変化球から入ろうとした球がボールになって、カウントを悪くしたところで甘い球を狙われてしまった」

 独自大会直前の最後の練習試合で腰をひねった吉安は、この履正社戦が久しぶりの公式戦だった。東海大相模との交流試合は高校最後の試合になる。「とにかく楽しもう」と心に決めた。

 東海大相模は1番の鵜沼魁斗(うぬま・かいと)から山村崇嘉(たかよし)、加藤響(ひびき)、西川僚祐(りょうすけ)とドラフト候補がズラリと並ぶ全国屈指の強打線である。だが、吉安は「かわすと後半にしんどくなるから、インコースをガンガン攻めていこう」と藤江と話し合った。

 誰ひとりとして気を抜けない打線ではあるが、とくに警戒したのは1番の鵜沼だった。吉安は「彼が打ったら乗るので」と明かす。

 立ち上がりから鵜沼に強烈なサードライナーを浴び、冷や汗をかいたものの、藤江は快調な滑り出しを見せた。インコースのストレートだけでなく、緩い変化球を低めに集めて東海大相模を幻惑する。

 この配球は、東海大相模と対戦している昨夏の甲子園での近江(滋賀)や昨秋の関東大会での健大高崎(群馬)の映像を見て、参考にしたという。吉安は「どちらも藤江と同じ左ピッチャーなので、参考になりました」と語る。

 打っては先制のタイムリーヒットを含め、3安打で藤江を援護した。

 2対2の8回表からは、最速150キロの逸材2年生左腕・松浦慶斗をリード。履正社を3回無失点に抑えて勢いに乗る松浦に対しては、吉安は「真っすぐで押せるピッチャーなので、あとは力が入って球が浮かないように低めに集めることを意識づけました」とストレート中心に配球した。

 8回裏には、キャプテンの薮井がレフト線に放ったヒットを受けて、吉安は二塁から生還して4点目のホームを踏んだ。

「あいつ(薮井)が頑張ってきたのを見てきたので、うれしかったです」

 そんな吉安も、決して順風満帆な高校野球生活を送ってきたわけではなかった。1年時は同期捕手の清水大晟(たいせい)が期待されていた。

 大阪桐蔭では甲子園出場時に、次世代を担う有望選手がボールボーイを務める慣習がある。根尾昂(中日)、藤原恭大(ロッテ)らを擁して春夏連覇を遂げた1年時は、清水がボールボーイを務め、吉安はアルプススタンドで応援していた。

 吉安は当時を「1年の時はキャッチャーとして全然力がありませんでした」と振り返る。

 打者として評価を高め、2年春からメンバー入り。2年夏は一塁手として主軸を担った。だが、吉安の頭には「またキャッチャーをやりたい」という強い思いが残っていた。

 志願して捕手に戻った吉安は、今まで以上に捕手としての技能を磨こうと努力した。当時を吉安は振り返る。

「ピッチャーとのコミュニケーションをとくに力を入れるようにしました。もっと話してピッチャーのことを理解しないと、リードはできませんから」

 昨秋は大阪府大会で吉安が正捕手となり優勝。近畿大会は、大会前に負傷した吉安に代わり清水がマスクをかぶり準優勝。全国ナンバーワンの層の厚さを見せつけ、センバツ切符を手にした。

 レギュラーポジションを争う清水とは、投手陣について常に語り合うようになっていた。「この投手を生かすにはどうすべきか」「どうリードしたほうが投手はやりやすいか」......。ブルペンでともに改善策を話し合っているうちに、いつしか同じ捕手としての連帯感が生まれていた。吉安は「ライバルというより、一緒に戦ってきた仲間ですね」と胸を張る。

 甲子園では藤江、松浦を好リードしてチームを勝利に導いた。だが、手柄を独り占めするつもりはない。吉安は強い口調で言った。

「藤江と松浦をどうやってリードすれば勝てるかを一緒に考えてきたので、清水がいなかったらこの試合はないと思っています」

 今後は大学に進み、4年後のプロ入りを目指すという。念のため、「大学でも捕手を続けますか?」と確認すると、吉安は強くうなずいた。

「もちろん、捕手として勝負します」

 大一番をくぐり抜けた捕手は、また一段とたくましさを増していた。