本気で日本一を狙う仙台育英にとっては、厳しい現実を突きつけられた夏だった。 夏の宮城独自大会は「オール3年生」の布陣で…

 本気で日本一を狙う仙台育英にとっては、厳しい現実を突きつけられた夏だった。

 夏の宮城独自大会は「オール3年生」の布陣で臨み、苦戦を強いられながらも優勝。続く東北大会では下級生もベンチに入れて戦い、一関学院(岩手)、ノースアジア大明桜(秋田)と強敵を下しながら、決勝戦で聖光学院(福島)に0対8と大敗した。

 中2日で臨んだ2020年甲子園交流試合では、倉敷商(岡山)に終盤引き離され、1対6と完敗。今大会は日本一を争うトーナメント戦ではないとはいえ、仙台育英にとっては大きな課題の残る敗戦になった。

 そんなチームにあって、希望の光も差し込んだ。それは伊藤樹(たつき)、笹倉世凪(せな)という、新チームで大看板になりうる2年生が成長を見せたことだ。



倉敷商戦で140キロ超えを連発した仙台育英の2年生投手・伊藤樹

 倉敷商戦で1対6とリードが広がった7回裏から打者3人に投げた伊藤は、ストレート中心の投球で最速146キロを計測。2奪三振を奪った。

「これまで丁寧なスタイルでやってきたんですけど、昨年秋から『ストレートをスケールアップしよう』と須江(航)先生から言われていて。真っすぐが強くならないと......と思ってやってきました」

 打撃のいい笹倉は5番・ファーストとして3打数1安打を記録し、8回裏には無死一、三塁の場面で登板して無失点に抑えている。

「1年の時はフォームを気にして小さく投げていたんですけど、ある程度はコントロールできるようになって、もっとダイナミックに体を使おうと意識していました」

 ふたりは仙台育英の系列校である秀光中等教育学校出身。もとは須江監督が2018年1月に仙台育英監督に就任するまで監督を務め、2014年には全国中学校野球大会(全中)で優勝を果たしている強豪である。

 伊藤と笹倉は中学時代にダブルエースとして名を馳せ、2018年夏の全中で準優勝を飾っている。完成度が高く、総合力で勝負する伊藤と、左腕からの剛球を武器にする笹倉。中学軟式野球部に140キロを超える速球を投げる投手が複数いることは、前代未聞といってよかった。

 仙台育英に入学後はともに1年夏から甲子園マウンドに立ち、昨夏の全国ベスト8進出を経験している。だが、須江監督はその時点でふたりの逸材を慎重に育成することを明言していた。

 須江監督は『ウサギとカメ』をふたりに見立てて、こう語っていたことがある。

「笹倉がカメで、伊藤はウサギです。笹倉は完成度の高い投手ではないので、目先の結果を追わせる時と追わせない時をしっかりと分けたい。将来は160キロを投げるような、菊池雄星投手(マリナーズ)を追える可能性がありますから、スケールを小さくしたくないんです。

 伊藤は逆に、今のような器用さだけで終わらせてはいけない。奥川恭伸くん(星稜→ヤクルト)がモデルになってくるでしょう。ふたりとも大きく育てるということは同じです」

 今夏、大きな成長を見せたのは伊藤だった。甲子園で投じた23球のうち、変化球はわずか2球だけ。ストレートはすべて140キロを超えた。荒々しく投げる姿は、それまで変化球を器用に操っていた伊藤の新たな一面を世に知らしめた。

 昨秋に結果を残せず、コンディション不良のため明治神宮大会ではベンチ入りメンバーから外れたこともあった。伊藤は「悔しかったのが一番」と当時を振り返る。

「ちゃんと投げられるようになってから、冬場に遠投を重点的にやって、あとはいつもやっている柔軟性を高めるトレーニング、春になってウエイトトレーニングもやって少しずつステップアップしていきました」

 今夏は短いイニングでの登板だったためストレートで押す投球スタイルになったが、先発投手としてゲームメイクする際には変化球も織り交ぜていくという。須江監督の言う、「器用さだけ」ではない姿が今後は見られそうだ。

 一方の笹倉は、球速が最速149キロに達したとはいえ、まだまだ自身の求めるレベルには遠く及ばないと考えているようだ。なにしろ、笹倉の当面の目標は「投打で世代を代表する選手になること」だからだ。

「ピッチングではまだキレが出ていないし、球速も世代を代表するものではありません。これからは完成度を求めていきたいです。バッティングは勝負どころで打てていないので、相手にとっては簡単に抑えられない、やっかいなバッターになりたいです」

 ふたりの進化は仙台育英が追求するスローガン「日本一からの招待」のカギを握っている。それと同時に、2021年のドラフト戦線にも大きな影響を与えるに違いない。

 今夏はすでに風間球打(ノースアジア大明桜)、小園健太(市和歌山)、関戸康介、松浦慶斗(ともに大阪桐蔭)、達孝太(天理)といった2年生投手の台頭が伝えられている。

 また、2年前の全中決勝で伊藤、笹倉を破って全国制覇し、互いに強くライバル視し合っている森木大智(高知)も密かに爪を研いでいる。

 伊藤は強力なライバルたちの存在を意識しつつ、「回転数とか、ボールの質は負けるわけにはいきません」と対抗心をむき出しにした。

 伊藤と笹倉にとっての高校野球生活は残り1年。己の力を高め、数々の強敵をねじ伏せたその先に、「日本一からの招待」が待っている。