「ここまで伸びる高校生もいるんだなと思ったよ」 智弁和歌山・小林樹斗に対するプロのスカウト評を聞くと、こういった驚嘆の声…

「ここまで伸びる高校生もいるんだなと思ったよ」

 智弁和歌山・小林樹斗に対するプロのスカウト評を聞くと、こういった驚嘆の声をよく聞く。



和歌山の独自大会で自己最速の152キロをマークした智弁和歌山・小林樹斗

 小林といえば、昨春のセンバツの準々決勝の明石商戦で2年生ながら147キロをマーク。「こんな2年生右腕がいるのか」と、その名は一気に全国に広まった。

 夏の甲子園でも初戦の米子東戦で148キロを出すなど成長をアピール。3回戦の星稜戦では、中谷仁監督は「(相手エースの)奥川(恭伸/現・ヤクルト)くんと投げ合って、何かを感じでほしい」と150キロ右腕のエース・池田陽佑(ようすけ/現・立教大)ではなく、小林をマウンドに送り出した。

 だが初回からピンチを背負い、リズムを保てないまま4回途中でマウンドを降りることになった。チームも延長14回の末、サヨナラで敗れた。

 秋からはエースとなり、大きな期待を背負っていくはずだった......。しかし、小林の状態は上がらなかった。和歌山大会で優勝、近畿大会でもベスト8に入ったが、中谷監督は「(小林)樹斗のおかげで勝てたという試合はひとつもなかった」と厳しかった。

 いったい何が原因だったのか。甲子園デビュー直後から順風満帆に来たことで、さらに上を追い求めすぎたゆえに、それが力みにつながりバランスを崩してしまった。

 冬場は"体のベースアップ"をテーマに、下半身のウエイトトレーニング、走り込みなど徹底的に鍛え込んだ。

 コロナ禍の影響で自粛を余儀なくされた春先も「冬にやってきたトレーニングをずっと続けてきた」と継続。下半身はひと回り大きくなったが、栄養のバランスを考え、食事の量を調整した結果、体重はまったく変わっていないという。

「体のベースアップができたことで、ストレートはスピードだけでなくキレも増えましたし、(トレーニングの)成果は数字に出てきていると思います」

 7月4日には明石商と練習試合が行なわれ、小林は6回から登板。昨年春のセンバツ準々決勝でサヨナラ本塁打を打たれた来田涼斗に対して、ファウルで粘られるも全球140キロ台後半のストレートで押し切り、ショートフライに打ち取った。

 今夏、和歌山の独自大会初戦の南部戦では、9回から登板し自己最速となる150キロをマーク。また、6月末に行なわれた中京大中京との練習試合で、相手エースの高橋宏斗から教わったというカットボールを短期間でマスターし、ピッチングの幅を広げた。

 そして県内最大のライバルである市和歌山との一戦では、6回からマウンドに立った。

「後半からいくと伝えられていたので、そこに向けて準備をしていました。ポイントになる打者が何人かいたので、その打者には力を入れて......4イニングのなかで力の出し入れを考えながら投げました。前回と同じく今日も7割くらいです」(小林)

 7球団10人のスカウト前で投じたストレートの最速は149キロ。アベレージでも140キロ台後半をマークした。ストレートで空振りを取るシーンは、昨年秋と比べて格段に増えた。

 

 だが9回、先頭打者に四球を与え、連打で1点を失った。最後までゼロを並べられなかったことに、中谷監督は「普段しない入り方をしていた」と指摘した。小林はこう反省の弁を述べる。

「違う球種で『こういう入り方もあるんだぞ』というところを見せたかったけど、初球のカーブがうまく入らなくて感覚的に引っかかってしまいました。カーブ以外の球種はまとめってきた感じはありましたが、もっとカーブでカウントを取れるようになれば......」

 それでも視察に訪れたスカウトは、あらためて小林の成長を確認した。

 日本ハムの林孝哉スカウトは「多少シュート回転するボールもあったけど、ここまでよくなっているとは思いませんでした」と絶賛。

 別のスカウトは「6月上旬に見た時は、正直、大学を経由してプロでもいいかと思いましたが、今日の試合を見ていてここまでストレートで押せるようになったとは驚きです。この1カ月でここまで変わるとは......高校生の成長はすごいですね」と舌を巻いた。

 昨年夏、甲子園で投げ合い、目標としている奥川を意識したフォームのように見えるが、小林の見つめる先はまた別のところにある。

「150キロは目標にしてきましたが、チームがどう勝てるかを考えながら投げることが大事。これからもその気持ちを忘れないようにしたいです」

 宿敵・市和歌山を倒し、4年連続で夏の和歌山を制した。決勝の初芝橋本戦で小林は、またしても自己最速となる152キロをマークするなど、心身とも万全の状態で8月17日の甲子園交流試合に臨む。尽誠学園(香川)との試合で、最高のピッチングを誓う。