サッカースターの技術・戦術解剖第21回 ロメル・ルカク<体格を生かしたプレーと足元のテクニック> 育成段階で体の大きな選…

サッカースターの技術・戦術解剖
第21回 ロメル・ルカク

<体格を生かしたプレーと足元のテクニック>

 育成段階で体の大きな選手は伸びないとの説がある。体の小さな子は技術を身につけプレーの幅を広げていくが、大きな子はほかの子との体格差で簡単にプレーできてしまうために、技術が伸びないというのが理由のようだ。



190cmの体格と足元のテクニックで、トップクラスに成長してきているロメル・ルカク

 実際のところはいちがいには言えないと思う。ティエリ・アンリ(フランス)は12歳の時点で同世代のチームメートより頭2つぐらい身長が高かったが、問題なく大成している。我々はどうも、子どものころに小さくて体格も貧弱だったが、長じてスーパースターになったという物語ばかり聞かされすぎているのではないか。

 ボールが地面にあるかぎり、サッカーで小さな選手は不利ではない。敏捷性に優れていることが多い分、むしろ有利かもしれない。しかし一方で、大きな選手に向いているプレーもある。

 インテルのベルギー代表、ロメル・ルカクは、大きな選手に何ができるかを示す好例だ。

 190cm、104kg。半身で背後の相手を抑え込んでのポストプレーが圧巻だ。押しても引いてもびくともしない。半身でパスを受け、横に一歩進んでしまえばほぼ勝負ありだ。相手DFはルカクの強靱な腕と幅のある体が間にあるので、足がボールに届かないのだ。ルカクは反転し、DFから遠いほうの足でシュートやパスを繰り出す。

 空中戦も強力。そもそも背が高いので最高打点が相手より高い。DFはジャンプ力で上回らないかぎり勝つのは難しい。しかも、最高打点でボールをとらえるためのポジショニングをしたくても、ルカクの大きな体が邪魔になる。

 ゴール前の場所の取り合いで発生するフィジカルコンタクトで、ルカクは圧倒的に有利だ。体をぶつけにいっても、ぶつけたほうが倒れてしまうし、先にいい場所を占めても軽い接触だけで押し出されてしまう。

 ただ、ルカクはフィジカルだけでスターになれたわけではない。小さな選手が得意とするような技術も身につけている。しかも、あの体格で足が速い。

 若いころのルカクは、空中戦やポストプレーよりもスピードスターだった。ロングボールを追って抜け出した時が最強で、スピードがあるうえに競りかけたほうのDFがコンタクトで負けて、バランスを崩してしまうことがほとんどだった。

 ドリブルする時のルカクは姿勢が低い。得意はシザースで、滑らかで速い。シュート体勢になってから細かいステップでタイミングを計ってから打つ、DFの足の間を抜くシュートも十八番だ。

 育成過程で大きな選手は大成しないという説は、けっこう流布されているのか、体の大きさを生かせていない選手も少なくない。小さな選手が得意とするようなテクニックを身につけようと努力した結果、たしかに体格に似合わない技術を持っているが、体格という武器をほとんど生かせていないケースである。

 ルカクは子どものころから飛び抜けて大きかった。試合になると、対戦相手の親から年齢詐称を疑われることも毎回だったそうだ。そして子どものころから体格差を生かしたプレーをしていた。細かいテクニックのうまさが最初からあったのか、どこかの段階で身につけたのかはわからないが、大きな選手特有のプレーは子どものころからやっていたようだ。

<6歳でプロになると決意>

 ルカクがプロになると決意したのは、6歳だったそうだ。

 ある日、母親が牛乳を水で薄めて飲ませているのを知った。それぐらい貧しかった。電気が来なくなり、夜は真っ暗闇になった。楽しみだったチャンピオンズリーグ(CL)もテレビで見られなくなった。貧しさから抜け出すにはプロになって金を稼ぐしかない、そう決めたのが6歳だった。

 日本で言えば小学1年生だ。そんな子どもが「アンデルレヒトでプロになって貧困から抜け出す」と決意した。体格は図抜けて大きい。体の大きな子は、ともすれば同年代の自分より小さくて華奢な友だちに合わせてしまうものだが、ルカクはまったく容赦がなかったという。

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 小学生のなかに中学生か高校生がプレーしている図を想像してみてほしい。しかも、その年長者が何の加減もなく体をぶつけ、腕でつきとばしているような光景は、一種異様だったに違いない。

「俺が失敗することを願っている人が常にいる。だが、そんなことは俺には関係ない。前に進むだけだ」(ルカク)

 このコメントはプロになってからのものだが、子どものころからそれは同じだったのではないか。子ども時代から試合のたびに相手チームの親から国籍を問われたり、体格の違いにクレームをつけられたりしていた。

 がむしゃらにプレーする大きな少年は白い目で見られていただろう。だが、6歳でプロになると決意したルカクには、知ったことではないわけだ。ひたすら前へ進むしかないのは、当時からそうだったはずだ。

 ルカクの原動力は「怒り」である。

 貧しさへの怒り、CLが見られなくなった怒り、周囲の無理解、人種差別への怒り。シュートを決め、結果を出して、のし上がる。そのためには体格差も存分に利用するし、足りないテクニックがあれば練習する。怒りが原動力だから手加減はない。

 ただ、ルカクにはストライカーにありがちな自己中心的なプレーがあまりない。パスすべき時にはするし、守備もしっかりやる。味方のためにオトリになるようなプレーも厭わない。怒りが原動力の上昇志向とは矛盾しているようにも思えるが、ルカクのプレーはサッカーセンスのよさを感じさせるのだ。

 6歳の時点でプロになると決めているが、「プロ」の前に「サッカー」があった。何かほかの分野でプロになろうとしたわけではない。CLがテレビで見られなくなったのも怒りの一つだったというから、サッカーが大好きな少年だったわけだ。

 指導者もよかったのかもしれないが、サッカーで成功するには冷静でいること、自分勝手ではうまくいかないことを知っていたのだと思う。