> 感動的な今季初優勝を遂げた70周年記念GPから中3日で、F1はすでに第6戦スペインGPのレース週末を迎えている。 シーズン開幕戦から圧倒的な速さと強さを誇ってきたメルセデスAMGの牙城が崩れ、そのままレッドブル・ホンダの逆襲が始まるのか…

 感動的な今季初優勝を遂げた70周年記念GPから中3日で、F1はすでに第6戦スペインGPのレース週末を迎えている。

 シーズン開幕戦から圧倒的な速さと強さを誇ってきたメルセデスAMGの牙城が崩れ、そのままレッドブル・ホンダの逆襲が始まるのか? 世間のそんな期待とは逆に、レッドブル・ホンダ自身は冷静に現実を見ている。



今季初優勝から中3日でスペインGPに臨むレッドブル・ホンダ

 マックス・フェルスタッペンはこう語る。

「あれはタイヤが柔らかかったからできたことで、いくつかのチームがブリスターに苦しむなか、僕らはそれがなかった。だから今週、僕らにブリスターが発生するような状況なら、大きくグリップを失うことになるし、プッシュもできない」

 レッドブルが速かったというよりは、メルセデスAMGが遅かった。それは、レッドブルと中団グループの差がほとんど変わっていないことから、自然と導き出される結論だ。

「中団グループの他チームと比較すると、僕らのパフォーマンスは少しよかったけど、ものすごくいいというわけではなかった。つまり、メルセデスAMGがとにかく遅かっただけのことだよ。ブリスター問題のせいでね」

 メルセデスAMGはリアタイヤの接地部分に激しい熱ぶくれが発生し、ゴムを失っていった。それを防ぐためにペースを抑えて走ったにもかかわらず、他の多くのチームよりも激しいブリスターに見舞われたのだ。

 金曜フリー走行よりも5〜6度高い路面温度が、リアタイヤをスライドさせてオーバーヒートさせ、ブリスターを発生させた。その理由はメルセデスAMGもしっかりと分析してきているようだ。

 例年ならば5月に行なわれるスペインGPだが、今年は8月に開催。南欧の暑さと直射日光の強さは、F1チームにとっても未知数だ。バルセロナ入りしたホンダの田辺豊治テクニカルディレクターも、その陽射しの強さには驚いているという。

「先週はいいレースができたと思っていますが、メルセデスAMGの速さの絶対値、素の速さも見えていますので、今回、サーキットが変わってどう戦っていくかが課題になると思います。バルセロナでは2月のテストで6日間走っていますが、今回はスペインの真夏の陽射しの強さを痛感しました。天気予報も今週末はずっと安定していて、暑い日が続く見込みになっています」

 暑くなれば、パワーユニットの冷却が懸念される。だが、シルバーストンでの2連戦のデータを見るかぎり、熱の問題はないとレッドブル・ホンダは断言する。

 また、一部では次戦ベルギーGPから予選モード禁止をFIAが検討していると言われている。しかし現時点では、パワーユニットマニュファクチャラーのなかで具体的な話にはなっていないという。

「噂は聞いていますけど、私はまだ聞いていません。相当昔にそんな話はあったのかもしれませんが、現状の2021年〜2026年のレギュレーションを話し合うなかで、そんな話はまったく出ていませんね」(ホンダ・田辺テクニカルディレクター)

 現状、メルセデスAMGは強力な予選モードを持っているため、通常の予選モードで0.2〜0.3秒だったレッドブル・ホンダとの差は、第2段階の予選モードで1秒にまで広げることができる。

 しかし、パワーユニットにダメージをかけながらパワーを絞り出していく予選モードが禁止されれば、その分の"寿命"をレース全体でまんべんなく使うことになる。結果、メルセデスAMGはレースモード全体で大きく底上げができることにもなるかもしれない。

 レッドブル・ホンダが予選で大きな差をつけられるのは、車体側にも問題がありそうだ。ワークスのメルセデスAMGのような強力な予選モードを使っていないカスタマーチームのレーシングポイントや、他社製パワーユニットのマシンと比べても、レッドブル・ホンダの予選パフォーマンスは低い。

 開幕からずっと言われている、予測のできない唐突なマシン挙動は改善されてきているとはいえ、完全に解決できたわけではない。マシンの限界点まで攻めてドライブする予選では、その弱点が出やすいようだ。

「僕らはまだまだ速さが足りていないし、まだまだインプルーブする必要がある。とくに予選だ。彼らが極めて強力な予選モードを持っていることは明らか。だから僕らとしては、パワーが必要なことも確かだけど、マシン側でも改良が必要だ」(フェルスタッペン)

 シルバーストンでは勝利を収めたが、メルセデスAMGとの差が縮まったり逆転したわけではない。タイヤとコンディションとコース特性が絡み合って、あのような展開になっただけのことだ。

「先週のレースがあろうとなかろうと、僕らにとっては何も変わっていない。先週はちょっと変な週末で、柔らかいタイヤが僕らにはうまく機能し、メルセデスAMGにはうまく機能しないという週末だった。

 スペインは温かいコンディションだから、今週はとても硬いコンパウンドだ。だから、レースもどうなるかはわからない。自分たちのパッケージのどこに速さがあるのか、見つけ出す必要がある」(フェルスタッペン)

 勝利とタイトル挑戦を視野に入れているからこそ、レッドブル・ホンダは目の前の結果に一喜一憂するのではなく、現実に目を向けている。