日本時間の8月16日(日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスのUFC APEXで『UFC252』が無観客試合として開催される。 (写真左より)スティーペ・ミオシッチ、ダニエル・コーミエ/Getty Imagesメインイベントは、スティー…

 日本時間の8月16日(日)、アメリカ・ネバダ州ラスベガスのUFC APEXで『UFC252』が無観客試合として開催される。


(写真左より)スティーペ・ミオシッチ、ダニエル・コーミエ/Getty Images

メインイベントは、スティーペ・ミオシッチvsダニエル・コーミエのヘビー級タイトルマッチ。両者はこれまで2度タイトルを懸けて戦い1勝1敗。

今回が決着戦となる注目の一戦の見どころを「世界のTK」髙阪剛に語ってもらった。

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対戦1回目(UFC226)/Getty Images


——王者ミオシッチvs挑戦者コーミエのヘビー級タイトル戦は、1年ぶりの再戦となります。ミオシッチにとっては、3試合連続でコーミエ戦です。
「これはやりにくいでしょうね。お互いに手の内がわかった上で、勝つための戦略を練らなければならないわけですから。今回、あらためてミオシッチvsコーミエの1試合目と2試合目を観てみましたが、この2試合は『未知の部分』があったからこその展開になっている。例えば1試合目の時、コーミエは序盤、ミオシッチの打撃を過剰に警戒していたように見えたんです」

――ミオシッチはそれまで、マーク・ハント、ファブリシオ・ヴェウドゥム、アリスター・オーフレイム、ジュニオール・ドス・サントスといった、そうそうたるヘビー級の猛者をKOしています。
「だからコーミエは『打撃を食らうのは嫌だ』という意識が先行して、体を横に向けて顔を背けるようなシーンが何回かあったんです。でも、何度かクリーンヒットではないパンチを受けてから、『そこまで恐れるほどじゃない』と感じたんじゃないかと思うんです。これは超一流であるコーミエレベルでの話ですが」

——これまで戦ってきた相手と比べて、飛び抜けてパンチが強いわけじゃないぞ、と。
「それをコーミエが感じて、思い切って前に出てクリンチが組めてからアッパーを入れたら、ミオシッチが少し嫌がったので。そこからペースを握りだしたんです。そもそもコーミエって顔面が打たれ強いので、ミオシッチの方からすると、『これだけ打撃でプレッシャーをかけているのに、なんでこいつは怯まないんだ?』という感じだったと思うんです。そしてクリンチを対処しているとき、至近距離の右フックをもらってしまいKOされてしまった」

――コーミエが王座奪取したのが1試合目でした。
「そして再戦となる2試合目は、コーミエが最初から打撃を恐れずミオシッチの顔面を狙いにいって。チャンスがあったらテイクダウンを狙いにいくという展開で正直、余裕がありましたよね。ところが3ラウンドに一回、ミオシッチの前蹴りが入ってコーミエの動きが一瞬止まったんです。そこから今度はミオシッチの方が、『コーミエは顔面は怖がらないけど、腹に穴があるんじゃないか?』と、悟ったんじゃないかな。そこからボディを執拗に攻撃して、4ラウンド目はほぼボディ狙いで。そこから打撃で畳み掛けましたね」

——逆転TKO勝で王座奪回しました。
「なので2試合を並べてみると、どちらも最初に劣勢だったほうが、試合中に活路を見出して逆転勝ちしているんです。これなんか、手の内が完全にわかっていないからこその試合展開だったと思うんです」


対戦2回目(UFC241)/Getty Images

――今回は、お互い手の内がしっかりとわかった上での3試合目になると。
「だからこの3試合目はお互いやりづらいと思うんです。コーミエからしたらボディブローのディフェンスはしっかりと準備してくるでしょうけど、ミオシッチもそれを見越しているから、そのままボディ狙いでくるとは考えにくい。また、相手の攻撃に対処するというやり方だと、どうしても後手後手に回ることになりますから」

――となると、先の先を読むというか。また新たな戦略を考えなければならないわけですね。
「そういうことです。だからコーミエ側からすると、抜群のレスリング力を持っていながら、1回目も2回目もそこまでタックルを混ぜてくることはなかったし、グラウンドコントロールに徹することはやっていないので。前半は寝かせたり、ケージレスリングで体力を削っておいて、後半、打撃勝負を仕掛けるということも考えられます」

——コーミエ自身も「今回はテイクダウン地獄を味わわせる」と言っています。
「テイクダウンまでいかなくても、ケージに押し付けてのコントロールも容易でしょうからね。ケージに押さえつけられているだけでも体力は奪われているので、そこもミオシッチは気をつけながら試合をしなきゃいけない。だからコーミエの攻撃にミオシッチがどう対応するか、という展開になると思うんです。普通、挑戦者が王者への攻略法を練るものですけど、この二人に関しては、王者の方が対策に時間をかける必要がある」

——たしかにコーミエにとって、ミオシッチのような長身のストライカー(193cm)は、今までライトヘビー級時代も含めて何度も戦っていますが、ミオシッチにとってはコーミエのような体の小さいトップレスラー(180cm)との対戦というのは、コーミエだけです。
「だからコーミエ相手の時だけ、練習内容も試合の組み立ても変えなきゃいけない。またパンチの使い方がコーミエは独特なんです。基本、ジャブと右ストレートですが、微妙な距離設定なんですよ。普通、こんな身長が低い選手は、ここにパンチは届かないだろうっていうところにも届いてしまう。だから、コーミエのパンチが届く距離を、いかに外して自分の打撃を入れることができるかが、ミオシッチとしてはひとつポイントだと思います」


Getty Images

――また、コーミエはクリンチもうまいです。
「ただ、ミオシッチも2回目の試合のとき、コーミエが前に出て組もうとしてきたところを、サイドステップで体を入れ替えるシーンがあったんです。前からその動きをやっていたのですが、組みに来る相手に至近距離でそれができたというのは、ミオシッチにとっても収穫だったかもしれない。1試合目の時は、組みにきたコーミエを前に押し返すか、後ろに下がるかしかやってなかったんですが、『横にずらすと相手がこんな簡単にいなすことができるんだ』という感覚がつかめていたら、あの『いなし』の技術は、ひとつのキモになるかもしれない」

——そこで組ませずに、コーミエにペースをにぎらせなかったら、ミオシッチがKOする可能性も高まるという。
「そうですね。組もうとしたところをいなされると、絶対に対応が遅れるんですよ。そういう時に打撃をもらったりするものなので。だからスタンドの攻防も、単純に打撃だけでなく、そういった組みも交えた探り合いという、高い次元での攻防が見られるんじゃないかと思います」

――ヘビー級だけれども、大味ではなく細かい技術も駆使した試合になるだろうと。
「そうです。ですから、今回はヘビー級の迫力はもちろんですが、細かい技術の攻防までじっくりと観てほしいですね」

 ラスベガス 最重量ヘビー級注目の一戦、ミオシッチvsコーミエ 3度目の激突。8/16(日)午前11:00にWOWOWで生中継される。

[取材/文・堀江ガンツ]


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