高校野球芸人が語る「野球漫画」前編後編:登場人物ベストナイン&ベストヒロイン>> これまで数々の名作が世に生み出されてきた野球漫画。8月10日に「甲子園交流試合」が開幕して高校野球熱が高まるなか、「高校野球芸人」として知られるトータルテンボ…

高校野球芸人が語る「野球漫画」前編

後編:登場人物ベストナイン&ベストヒロイン>>

 これまで数々の名作が世に生み出されてきた野球漫画。8月10日に「甲子園交流試合」が開幕して高校野球熱が高まるなか、「高校野球芸人」として知られるトータルテンボス・藤田憲右とかみじょうたけしが「野球漫画ベスト5」をセレクト。その魅力について語り合った!




野球漫画について語り尽くした、トータルテンンボス藤田氏(左)とかみじょう氏(右)

【かみじょうたけしの野球漫画ベスト5】

1位 バトルスタディーズ(なきぼくろ)
2位 大甲子園(水島新司)
3位 ドカベン(水島新司)
4位 タッチ(あだち充)
5位 名門!第三野球部(むつ利之)

かみじょう 『名門!第三野球部』は単行本を買ってました。僕は野球がへたくそやったので、この漫画の雑草魂は響きましたね。名門野球部の三軍の落ちこぼれが「クビや」言われて、最後に一軍と試合をやって勝ったら一軍......というストーリーで始まるんですけど。

藤田 檜あすなろ(主人公)でしょ。

かみじょう そうです、そうです! 体は小さいんですけど、「弾丸ボール」を投げるんですよね。市立西宮高から山本拓実くん(中日)が出てきた時、第三野球部を思い出しました(笑)。

藤田 普通に考えれば、そんなやつ三軍にいるはずないだろって選手ばかりなんだよね。

かみじょう 住職の息子で怒ると力を発揮する斉藤輪大とか、「テニス打法」の田村達郎とか(笑)。

藤田 4位の『タッチ』は俺も小学生の頃から読んでいたよ。

かみじょう 野球漫画なのか恋愛漫画なのか......という議論になりますよね。

藤田 あだち先生の作品は『タッチ』も『H2』も紛れもなく金字塔なんだけど、個人的にはもう少し野球の描写が読みたいかな......と(笑)。

かみじょう 『タッチ』はキャラ立ちしているのはピッチャーの上杉兄弟(兄・達也、弟・和也)とキャッチャーの松平孝太郎と、ライバルの新田明男と西村勇くらいですよね。チームメイトもみんな影が薄くて。覚えてるのはショートの中嶋(信吾)くらいかな。

藤田 野球部をやめようとしたやつか(笑)。

かみじょう 柏葉英二郎が監督になって、練習が厳しくなったからですね。あの監督がなんなら一番キャラ立ちしてました。白い背広にガラシャツって、開星の野々村直通監督かと(笑)。

藤田 『タッチ』はアニメもやっていたから女子も見ていたよね。(ヒロインの浅倉南が人気で)テレビで「みなみちゃんを探せ」という企画もやっていて、「みなみちゃん」といえばマネージャーというイメージが定着した。

かみじょう 北陽高校が甲子園に出た時(2007年春)に上杉達也くんっていましたよね。

藤田 いたいた! でもピッチャーじゃなくてライトなんだよね。

かみじょう そうなんです。それで、北陽には女子マネージャーもいたんですけど、「私は『みなみ』って名前じゃないんです。ごめんなさい」と謝っていて、当たり前やろと(笑)。かわいそうでしたね。

藤田 『ドカベン』と『大甲子園』は水島新司先生の名作だね。実は、『大甲子園』は俺もベスト5に入れてるんだ。

かみじょう ほんまですか! 『大甲子園』は小学生のときから集めていたので、めちゃくちゃ思い入れがあるんです。

藤田 俺も最近読み返したんだよ。今読んでみると、意外と明訓高校って合宿所があって、それなりに練習環境が整っていたんだなと思うんだよね。

かみじょう 新潟明訓より充実してるかもしれないですね(笑)。

藤田 あと今にして思えば、『大甲子園』は結局、のちの「松坂世代」の未来予想図だったのかなって。

かみじょう 松坂世代ですか?

藤田 明訓高校が神奈川のライバルたちを倒して、甲子園には(打倒・明訓で)水島漫画のキャラ立ちした高校が集結してきて。まさに、松坂世代の1998年のようだなと。決勝の相手が京都というのも一致してるしね。

かみじょう 京都の紫義塾ですね。名前は明徳義塾(高知)みたい。個人的には室戸学習塾の犬飼知三郎が好きですね。超対角線投法。僕は広島新庄から小気味いいサウスポーが出てくるたびに、犬飼知三郎を思い出すんです(笑)。

藤田 俺は『大甲子園』の2回戦で対戦する、りんご園農業の星王光が思い出深いな。

かみじょう あぁ、はいはい。(親指と人差し指で小さな輪を作り、まぶたの前に当てる仕草をして)これでしょう? よくやりましたわ。

藤田 そうそう。これで里中智(明訓高校エース)の投げる球種を見破って、りんごの品種を叫んで球種を味方に伝えるんだよね。

かみじょう 『ドカベン』といえば、白新高校の不知火守は帽子のつばを切っていたじゃないですか。僕もあれを少年野球のときにマネして、監督にめっちゃ怒られたんです。

藤田 やったやった。俺もやったよ。リアルにやると、きれいに割れないんだよね。つばの中のプラスチックが出てきて、ボロボロになる。

かみじょう そうなんです。ハサミで切って、布が広がるのをテープで補修して......とやっていくと、意外と新品なのにボロボロ感が出て。いい感じに不知火みたいになったと思ったのに怒られました(笑)。

藤田 不知火もきっと、切ったところを縫ってると思うんだよね。

かみじょう そして1位は、『バトルスタディーズ』を選ばせてもらいました。

藤田 おぉ〜、俺もベスト5に入れてるよ!

かみじょう 作者のなきぼくろ先生がPL学園出身で、バリバリの甲子園球児というのは有名ですよね。PLの寮生活は厳しすぎて相当ブラックだとOBの方は口をそろえるんですけど、この作品はアメリカンに仕上げて面白く読めるようになっています(笑)。

藤田 俺にとってはPL学園って憧れを通り越して、もはや神様みたいな存在で。「どんなものを食べて、どんなものを見て生活してるんだろう?」という興味があるんだよね。だから『バトルスタディーズ』で(作中の架空の高校である)DL学園の寮生活が描かれているのは、面白くてしょうがなかった。

かみじょう 厳しい3年間を過ごしたなきぼくろ先生にしか書けない、刺さる言葉が随所に出てくるのもいいんですよ。「根っこが腐らへんように、前に前に進むんや」(17巻より)とか。野球だけじゃなくて、生きにくい社会で生き抜くための言葉が書かれている漫画だと思います。

藤田 序盤は寮生活の話が楽しすぎて、試合の描写はそんなに重要視されてないのかなと思ったんだけど、10巻を超えたくらいから試合がどんどん面白くなってきて。「この漫画は試合展開の面白さもあるのか!」と。次が楽しみでしょうがない。

かみじょう とくに面白いのが18巻から19巻あたりですよね。僕も単行本で読んでるんで、次の展開が楽しみです!

【トータルテンボス藤田憲右の野球漫画ベスト5】

1位 ラストイニング(原作・神尾龍、監修・加藤潔、作画・中原裕)
2位 ダイヤのA(寺嶋裕二)
3位 バトルスタディーズ(なきぼくろ)
4位 大甲子園(水島新司)
5位 DODOICHI(ドドイチ/一の瀬遊)

かみじょう すみません、『ドドイチ』って聞いたことがないんですけど、ほんまにあります? 小学校の時とかに自分で描いてません?(笑)

藤田 実在する漫画だよ! 確かにあまり広くは知られていない作品だし、全4巻で終わりなんだけど。なんで好きかというと、すげぇリアルなんだよ。主人公の大城圭一が中学硬式で活躍した1年生ピッチャーで、高校のモデルはどうやら東海大系列の付属高校。甲子園も何回か出ている名門に特待生で県外から入って、1年生でいきなり3年生と一緒にやって、嫌がらせもすげぇされて。甲子園に行って、上のほうまで勝ち進む。

かみじょう それを全4巻でやるんですか(笑)。スピーディーですね!

藤田 最後は主人公が肩を壊して終わるんだよ。

かみじょう ものすごいバッドエンド!

藤田 「めちゃくちゃリアルじゃん、なにこの漫画!」って、すげぇ衝撃を受けた記憶があるんだよ。俺はリアル路線が好きなんだよね。スポ根とかチームみんなで頑張ろうという作品が多い中で、残酷な漫画というか。俺の中では名作として評価が高いんだよ。

かみじょう 高校野球漫画は「最後は報われる」という作品が多いですもんね。僕も調べてみよ。

藤田 『大甲子園』と『バトルスタディーズ』はさっき語ったから割愛して、2位の『ダイヤのA』について。

かみじょう 少年漫画ですけど、どちらかというとリアル系ですよね?

藤田 そうだね。特待生のこととか、野球留学生の気持ちとか描かれているし。今までの野球漫画って、弱い高校を強くしていくのがセオリーだったじゃない? 『ダイヤのA』はそうじゃなくて、主人公(沢村栄純)が特待生として強豪校に入っていくのが面白いなと。脇を固めるキャラクターもいいから、その設定が生きてくるんだろうけど。ライバルの存在もあって、すごくいい漫画だと思います。ウチの子どもたちも夢中で読んでいるし。

かみじょう 漫画でルールを覚える子も多いですよね。最近、球児のお父さんから「『ドカベン』様々ですわ」と言われて。たとえ50年前の作品でも、今の子どもに響くわけですから。

藤田 子どもに野球を教えている時も助かるよ。例えば「力を抜いてピュッと投げる」という感覚を教えようとしたら、「沢村栄純がやってたやつだ!」とわかってもらえる。漫画は偉大だよ。

かみじょう 最後に1位の作品にいきましょうか。『ラストイニング』ですね。

藤田 リアル路線好きとしては外せない、めちゃくちゃリアルな作品だね。中原裕先生の漫画は全部好きで『ぶっちぎり』という初期の作品から読んでる。ただ、『ぶっちぎり』は野球をやりながら暴走族をやるという、とんでもない設定なんだけど(笑)。

かみじょう そんな漫画を書いていた人が、リアル路線にいったんですね。

藤田 『ラストイニング』は、野球賭博をやるハンデ師に弟子入りしてノウハウを全部教えてもらった主人公(鳩ケ谷圭輔)が、高校野球の監督になって甲子園を目指す話。その設定も面白いし、内容もめちゃくちゃ細かくて面白い。高校球児が読んでも教則本として参考になるんじゃないかな。

かみじょう また野球漫画が読みたくなってきましたわ(笑)。

(後編につづく)