11月5日に行われたジェシー・バルガスとのWBO世界ウェルター級タイトルマッチを制し、再びフィリピンの英雄がボクシング界の中心に戻ってきた。リング上で勝ち名乗りを受けたあと、マニー・パッキャオは何度か「everybody(誰でも)」と繰り返…
11月5日に行われたジェシー・バルガスとのWBO世界ウェルター級タイトルマッチを制し、再びフィリピンの英雄がボクシング界の中心に戻ってきた。リング上で勝ち名乗りを受けたあと、マニー・パッキャオは何度か「everybody(誰でも)」と繰り返した。
■「ボクシングこそが私の情熱」
4月9日のティモシー・ブラッドリー戦を最後に引退。フィリピンに戻り上院議員として多忙な生活を送っていたパッキャオだが、ボクシングへの情熱は衰えていなかった。議員活動の妨げにならない範囲でリングに復帰できるよう、プロモーターのボブ・アラム氏もフィリピンに渡りサポートして復帰戦が実現した。
「ボクシングでのジャーニーを続けるために戻ってきた。すべてを理解できたからだ。ボクシングを懐かしいと感じていた。いまも僕はボクシングに愛されているし、僕はボクシングを愛している。続けることを決めたのはボクシングこそが私の情熱だからだ」
ジェシー・バルガス戦の記者会見に登壇したマニー・パッキャオ(c) Getty Images
聖地ラスベガスのリングに戻ることを決めたパッキャオ。だが37歳となり、数カ月間とはいえボクシングから離れていた彼の復帰には、数々の懸念もあった。10歳下の現役王者を相手に果たして引退前のようなファイトが見せられるのか。
「ボクシングは私の情熱であり、まだやれると信じている。まだボクシングでやるべきことを終えてはいない。力を証明して上院議員当選後の最初の試合で歴史を作りたいと思っている。感触は良い。自分が年をとったとかスピードが衰えたとは感じていない。まだ速さがあると感じられる。自分の心や頭にはハングリーさがあるとも感じられる」
その言葉をパッキャオはリング上で証明した。
マニー・パッキャオ対ジェシー・バルガス(c) Getty Images
■全盛期のどう猛さはないが洗練されたスタイル
復帰戦ということもありパッキャオは慎重だった。立ち上がりから体格で勝るバルガスのパンチを警戒。相手を見ながら的確に拳を当てていく。第2ラウンドにはバルガスの左ジャブを外し、左のショートでダウンも奪ってみせた。
以前からパッキャオとの対戦を熱望していたと話すバルガスは試合前、「パッキャオを倒して自分の時代を作りたい」と意気込んでいたが、その力みからか立ち上がり少し身体が硬くなっていた。
「あのダウンは驚きました。でも、あれで目が覚めたところもあります。フラッシュダウンだったのでダメージはありませんでした。ああいう風に倒れることもあるんです」と試合後に話したバルガス。確かに身体的なダメージはなかったが、これ以後リードブローは出しづらくなる。
マニー・パッキャオ対ジェシー・バルガス(c) Getty Images
パンチを繰り出した数では大きく上回るバルガスだが、有効打の的中率では終始パッキャオがリードし続けた。パッキャオは全盛期のようなノックアウトを狙うボクシング、相手を左ストレート一発でロープまで弾き飛ばすような強打はないものの、バルガスのタイミングを外し的確に自分のパンチを当てていった。
それでも試合を見ている最中は落ち着かなかった。これが久しぶりの復帰戦、37歳という年齢、試合前の会見やリング上で並んだときに見られた体格差。それらが後半のスタミナ勝負に不安材料としてのし掛かる。
果たしてパッキャオは第6ラウンドにペースが落ちる。ここからバルガスの時間が始まるのかと予感させる3分間だった。しかし、パッキャオは第7ラウンドの立ち上がりから攻勢を仕掛け、心配が杞憂だったことを示すように第8ラウンド以降も主導権は渡さない。
2009年11月のミゲール・コット戦以来、7年ぶりのKO勝利とはならなかったものの、終わってみれば3-0の見事な判定勝ちだった。
マニー・パッキャオが判定勝ち(c) Getty Images
■復帰2戦目の相手はメイウェザーかクロフォードか
この日の観客席には無敗で引退した元世界5階級王者のフロイド・メイウェザー、現WBC・WBO世界スーパーライト級統一王者のテレンス・クロフォードが姿を現した。メイウェザーとは2015年5月に『世紀の一戦』と言われたビッグマッチを戦っている。クロフォードは復帰戦の対戦候補に名前が挙がっていた。
当然のように試合後のインタビューでは、彼らとの対戦を前提にした質問があった。
---:チャンピオンが会場に来ています。クロフォードです。引退したメイウェザーも来ています。あなたが考える次の相手は誰ですか?
「分かりません。人々が望む試合をしたいですね。ここで誰かを選ぶということはしません」
---:人々の望みを叶えたいと言いますが、あなたの意見は?
「誰でも!誰でも良いですよ。147ポンドなら」
---:誰でも?(クロフォードのいる)140ポンドに落とすということはありませんか?
「それも問題ではありません。私はできますよ」
『世紀の一戦』となったマニー・パッキャオ対フロイド・メイウェザー(c) Getty Images
■陣営はメイウェザー戦を希望か
リング上で次の対戦相手を指名することはしなかったパッキャオ。だが、トレーナーのフレディ・ローチ氏は、メイウェザーとの再戦を望んでいると試合後に話した。
「今日の会場ではメイウェザーに会わなかったが、ここ数カ月で何度か私のジムに来てくれていた。礼儀正しく感じの良い態度だった。パッキャオとの再戦を考えてくれると嬉しいが、今後を見守る必要がある」
以前から「パッキャオもメイウェザー戦の結果には納得しておらず、再戦させたい」と話してきたローチ氏。自分がプロモートする選手の試合以外では、滅多に観戦に来ないメイウェザーが会場に訪れたのは再戦の前触れかと注目されている。
ボクシングファンのなかには、若く勢いのあるクロフォードとレジェンドのマッチアップを期待する声も多いが、やはり興行的な面を考えるとまだクロフォードはボクシングファン以外への知名度や人気が足りない。パッキャオの引退試合でも対戦相手の候補にリストアップされながら、テレビ局側が難色を示したのは結局その点だった。
復帰戦でパッキャオを再び完封し、無敗レコードを50戦に乗せるのはメイウェザーにとっても魅力的なプランだ。果たしてメイウェザーはリングサイドから、いまのパッキャオをどう見ただろう。
「おいおい。パッキャオやるじゃないか」と感心したか、それとも「これなら復帰戦はボロい商売だな」と感じたか。リングを降りてなお動向が注目される。
ジェシー・バルガス戦の記者会見に登壇したマニー・パッキャオ(2016年9月8日)(c) Getty Images
マニー・パッキャオ対ジェシー・バルガス(2016年11月4日)(c) Getty Images
マニー・パッキャオが復帰戦で世界タイトル奪取(2016年11月4日)(c) Getty Images
マニー・パッキャオが復帰戦で世界タイトル奪取(2016年11月4日)(c) Getty Images
マニー・パッキャオ対ジェシー・バルガス(2016年11月4日)(c) Getty Images
マニー・パッキャオ対フロイド・メイウェザー(2016年5月2日)(c) Getty Images