シリーズ「リーガに挑んだ日本人」はこちら>> 8月7日、レアル・マドリードはマンチェスター・シティとチャンピオンズリーグ(CL)ベスト8をかけて激突する。第1戦はホームで1-2と敗れているだけに、アウェーでの第2戦はあとがない。厳しい戦いに…

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 8月7日、レアル・マドリードはマンチェスター・シティとチャンピオンズリーグ(CL)ベスト8をかけて激突する。第1戦はホームで1-2と敗れているだけに、アウェーでの第2戦はあとがない。厳しい戦いになるはずだ。

 ところが、ジネディーヌ・ジダン監督率いるレアル・マドリードは、不気味なまでの落ち着きを漂わせている。欧州3連覇を成し遂げたチームの余裕なのだろうか。

「レアル・マドリード戦は何が起こるかわからない。できることすべてをやり尽くして挑む」

 シティのジョゼップ・グアルディオラ監督は強く警戒してそう言う。ジダン・マドリードの正体とは――。



リーガ優勝で求心力を高めているジネディーヌ・ジダン監督(レアル・マドリード)

「このチームに入団以来、ジダン監督は、いつだって自分をサポートしてくれてきた」

 レアル・マドリードで1年目のシーズンを過ごしたブラジル代表FWロドリゴ・ゴエスは言う。抜擢された試合でいきなり得点を記録。今シーズンのラッキーボーイとなっている。

「ベンチだった時も、ピッチに立たせてもらった時も、メンバー外だった時だって、いつもジダン監督に信頼されているのを感じていた。だからこそ、確信をもってサッカーに取り組める。なんて言えばいいか、選手の間でもジダンはとても尊敬されている。(勝ち進んだCLなどの)ファイナルをすべて勝ち取っているのも、頷けるよ」

 ロドリゴの証言は、ジダン・マドリードの本質を表していると言えるだろう。

 今シーズン、レアル・マドリードはバルセロナとのし烈なレースを制し、リーガ王者を奪還している。

 決定打になったのは、コロナ禍によるリーグ戦中断を経て再開後の10連勝だろう。中断前は首位に立っていたバルサを、力づくで逆転。豊富な戦力を生かした総力戦で、徹底的にプレー効率を極めた。堅く守りを固めつつ、個人技やセットプレー、カウンターなどで得点を重ねている。プレー内容そのものは平凡で、さして見るべきものはなかったが、要所で力の差を見せつけた。

 ジダンは勝つために、一時は自分に反旗を翻したハメス・ロドリゲスや、反抗的な態度が目立ったガレス・ベイル(スペイン語が話せず、誰ともコミュニケーションが取れないと非難された)も、連戦の中で先発させている。

 一方で、ロドリゴやマルコス・アセンシオらを適切なタイミングで抜擢し、慧眼ぶりも証明。健全な競争を促し、選手たちからの求心力を自然と高めた。

「2019年3月に(ジダンととともにレアル・マドリードに)戻ってきたが、思った以上に難しい状況だった」

 ジダンの副官と言えるアシスタントコーチを務めるダビド・ベットーニは言う。単純に主力は高齢化し、クリスティアーノ・ロナウドの抜けた穴も大きかった。

「成功の要因は、ジズー(ジダンの愛称)が選手との関係を良好にできることが大きいだろう。メソッドがあるわけではない。自然な人間性によるものだろうが、選手の力を引き出すことができる。ジズーは自分の感情を完璧にコントロールできるんだよ。リスペクトし、リスペクトされるという関係性を生み出せるんだ」

 ジダンは選手たちを信頼し、その力を引き出した。その点、シティ戦でキーマンになりそうなのは、"リーグ戦MVP"カリム・ベンゼマだろう。

「技術的には優れているが、レアル・マドリードにふさわしいゴールゲッターではない」

 2017-18シーズンは、リーガ5得点に終わったこともあって、ベンゼマに対しては批判が渦巻いた。だが、ジダンは当時から外野の声を意に介さなかった。そのプレーセンスを一貫して高く評価。ロドリゴが言うように、厚い信頼を与えてきたのだ

 クリスティアーノ・ロナウドが抜けたチームで、ベンゼマはストライカーとしても仕事をするようになった。ロナウドがいた時は黒子に徹し、アシスト役に徹してゴール数は限られていた。しかし今シーズンは、前線のプレーメーカーとしてだけではなく、21ゴールを量産。リオネル・メッシと最後まで得点王を争い、優勝に貢献したのだ。

「レアル・マドリードは最高のチームさ。ジダンが信用してくれることで、最高の選手たちが力を出し切れるんだ」

 ベンゼマは言う。その理屈だと、戦いの趨勢を決するのは、ひとりの選手ではなく指揮官ジダンとも言える。

――レアル・マドリードの"スペシャルワン"(特別な人)だと感じますか?

 記者から飛んだ質問に、ジダンは静かにこう答えている。

「そんなことは感じない。私はこのクラブにいられることに幸運を感じている。ある日突然、それは終わってしまうかもしかない。だからこそ、1日1日を大事にしている」

 その泰然とした姿勢が、さらに選手の士気を高めるのだろう。小賢しい策は用いない。不動の流儀が、選手の変幻を生み出すのだ。

 ジダン・マドリードの2019-20シーズンはまだ終わっていない。シティを叩き潰し、4度目の欧州王者となる。その野望に向かって、ひたひたと突き進むのみだ。