試合時間を知らせる場内時計は、後半が始まって50分36秒が経過したことを示していた。11月6日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた関東大学対抗戦Aの明大×慶大は、互いのチームが死力を尽くした接戦となった。 ラストプレーはペナルティートライ。川…

 試合時間を知らせる場内時計は、後半が始まって50分36秒が経過したことを示していた。11月6日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた関東大学対抗戦Aの明大×慶大は、互いのチームが死力を尽くした接戦となった。
 ラストプレーはペナルティートライ。川尻竜太郎レフリーは、慶大の自陣ゴール前でのディフェンスが故意のオフサイドで、それがなければ紫紺のジャージーがトライラインを越えたと判断した。土壇場で29-29と追いついた明大は、途中からピッチに立った森田澄がコンバージョンを決めて31-29と逆転勝利を得た。

 前半は22-0と慶大が大きくリードした。
 黒黄のジャージーはキックオフ直後から、準備してきたプレーを実行し、前へ出る気持ちを攻守で露わにした。前半8分、明大陣22㍍ライン中央のスクラムから出たボールをFB丹治辰碩が豪快なスワーブでインゴールに持ち込んで先制トライ。27分のふたつ目のトライは、カウンター攻撃を止めたブレイクダウンから流れが生まれた。こぼれ球に身を挺して飛び込んだのはPR角田匠輝。そのボールをSH中鉢敦が持ち出して、FL松村凜太郎のトライを呼んだ。
 36分にはSO古田京の50㍍DGも決まり、さらに勢いを増した慶大は、前半39分にもトライを挙げる(コンバージョンも決まり22-0)。FWが前に割って出てボールを奪い、FB丹治、SO古田のコンビでフィニッシュ。いい形で前半を終えた。

 紫紺のジャージーに勢いが出たのは後半も、終盤になってからだった。11分にラインアウト→モールで7点を返したものの(トライ+コンバージョン)、18分にはまたも慶大にトライを奪われて7-29とされたから勢いを出すのに時間を要す。27分にラインアウトからの攻撃で連続してボールを支配し、CTB尾又寛汰がゴールポスト下にトライを決めたが、まだ15点のビハインドだったから慶大の背中は遠かった。そんな中で後半35分に敵陣深く、ピッチ中央でPK機を得た。このときの判断が、最終的には逆転劇を呼んだ。

 ゲームキャプテンを任されていたSH兵藤水軍がこのとき入れ替えでピッチを離れていたため、ピッチの中の判断を任されていたのはCTB梶村祐介。梶村は周囲の声を集めてPGを選択し、3点を刻むことにした。インジャリータイムを含めて5分強で14-29。外から見れば難しく思う状況も、SH兵藤は言った。
「前半、ブレイクダウンでプレッシャーを受けてしまい点差が開いてしまったが、全員がひっくり返せると思っていました。そういうところに、自分も含めたチームの成長を感じました」
 後半39分、自陣でのターンオーバーから左に展開してWTB山村知也が快足を飛ばして左中間にトライ。コンバージョンも決まって5点差に迫った。そして、場内時計が40分を過ぎてから始まった攻防で、明大はミスをすることなく攻め続けた。後半42分過ぎに一度は慶大にボールを奪われるも、高い集中力でボールを取り返し15人一体となった攻撃を継続し続ける。そしてゴール前に攻め込み、ラストシーンを迎えた。
「自分のチームの選手に感動していたらいけないと思いますが、未来に語り継がれる試合になったと思います」
 明大の丹羽政彦監督は、そう言って選手たちを愛でた。当然、スタジアム全体が熱気に包まれる幕切れだった。

 この試合に続けておこなわれた帝京大×早大は、昨年同様(92-15)一方的なスコアとなった。11トライを奪った真紅のジャージーが、アカクロを75-3と一蹴した。
 PK時にも何度もスクラムを選択するなど、自分たちの強みから勝機をつかもうとした早大だったが、そこで上回っても、その先につなげられなかった。
 山下大悟監督は「開始20分までの4トライがすべて。そこで受けてしまい、取り返せなかった。選手たちが相手の力を大きく受け止めてしまった。うまく試合に入らせることができなかった私の責任。相手のやってくることは想定内だったものの、圧力といい、執念といい、本気の帝京は凄かった。その点の見通しは甘かったかもしれない」と言い、LO桑野詠真主将も「受けてしまった。僕たちの強みであるスクラムに立ち返ろうと思ったが、うまくプレッシャーをかけられないこともあった」と振り返った。
 大勝の帝京大の岩出雅之監督は、スクラムについてこう話した。
「スクラムは武器にもなるし、仇にもなるということではないでしょうか。(早大は)最後は足が動いていなかった。あれでは守れない」
 そして自軍の選手たちを、「引き締まったゲームをやり切った」と評価した。