先週、神宮での阪神戦の試合前、ヤクルトの山崎晃大朗の打撃練習を見ていて、以前、解説者の真中満氏に話を聞いた時の言葉を思…
先週、神宮での阪神戦の試合前、ヤクルトの山崎晃大朗の打撃練習を見ていて、以前、解説者の真中満氏に話を聞いた時の言葉を思い出した。
「僕もそうでしたが、誰もが一軍と二軍を行ったり来たりしながら、プロ野球選手として"一人前"になっていくものなんです」
打撃ケージの中では、山崎が逆方向を中心に、打球を広角に打ち分けていた。がむしゃらにバットを振っていた昨年までと比べると、一つひとつの動きに落ち着きがあり、「もう若手選手ではないのだな......」という雰囲気が漂っている。

開幕から好調を続けているヤクルト・山崎晃大朗
山崎は日大時代、俊足好打の外野手として2015年のドラフトでヤクルトから5位指名を受けて入団した。ちなみに、当時の監督は真中氏だった。
2016年のプロ1年目の春季キャンプ、いきなり一軍キャンプに抜擢された山崎は、杉村繁チーフ打撃コーチの練習内容の説明に「はい」と返事すること64回。新人らしさにあふれ、初めてのプロのキャンプについてこんな感想を述べていた。
「全体練習があって、そこから個別練習があり、とにかく内容の濃さに驚いています。体は第2クールから結構重くなっていくと思いますが、まだまだくたばるような年齢じゃないので、若さで持ちこたえたいです」
そう話すと「久しぶりにマメができました」と、手のひらを見せたのだった。
開幕後は二軍生活が続き、7月には一軍の試合前練習を見学する機会に恵まれ、目標とする川端慎吾に質問することもできた。
「川端さんの、追い込まれてからファウルにする技術はプロ入り前から興味があって、それについて聞くことができました。二軍の試合で試したんですけど、できませんでした(苦笑)。でも、待ち方や考え方を聞けたことはよかったです。
正直、ここまで一軍は忘れていたのですが、練習を見学させていただいたことで『もっとやらなければダメだ』という意識が強くなりました。打撃練習でミスショットがあるようでは一軍には上がれない......」
この年の7月31日の巨人戦で一軍デビューを果たし、8月5日の阪神戦で藤浪晋太郎からプロ初安打を記録した。
2年目は4月12日に一軍登録されるも、23日には二軍降格。ファームに落ちた当初は落ち込んで何も考えることができなかったというが、徐々に自信を取り戻し、打率、盗塁でイースタンリーグ1位の結果を残し、7月25日に再昇格を果たした。
「二軍にいたこの3カ月、自分が今までやってきたことはなんだったんだろうと......。そのなかでコーチたちと話し合い、自分のスタイルを確立できそうな手応えを感じることができました。粘り強さ、スピードやつなぎの意識、フライを上げずに強く低い打球をセンターから逆方向へ......そこを目指して取り組んできました」
一軍昇格後の早出練習では、飯原誉士(現BCリーグ/栃木ゴールデンブレーブス)と外野のポール間をランニングしてからの杉村コーチとのティーバッティングが日課となった。
「飯原さんからは『自分の考えをしっかり持ち、しっかり準備をして打席に入ることが大切だよ』と教えてもらいました」
この年、山崎は59試合の出場を果たしたが、シーズン96敗というチーム事情がもたらした出場機会であった。当時の監督は真中氏で、退任を発表したあと、山崎をはじめ、奥村展征や藤井亮太といった若手について、こんな話をしている。
「正直、僕のなかで、彼らが来年レギュラーを獲るイメージはまったくありません。現状のヤクルトだから試合に出られただけですからね。本人たちもそこはわかっていると思いますし、自分の力でレギュラーをつかみ取るんだという気持ちでやってほしい」
2018年、ヤクルトは前年からの再起を目指し、小川淳司監督、宮本慎也ヘッドコーチ、石井琢朗打撃コーチ(現・巨人野手総合コーチ)らの新首脳陣で始動。さらに、メジャーから復帰した青木宣親も話題となった。
その年の春季キャンプで、山崎に青木について聞くと、「なんと言うんですかね......」とポツリポツリ話し始めた。
「青木さんの入団の記事が出たのは1月30日の朝でした。ちょっと落ち込んだというか、突然、目の前に大きな壁が現れたというか......。去年は59試合に出させてもらい、なんとかレギュラー争いに食い込みたいと思っていた矢先のことで。でも、現実を受け止め、このキャンプでは青木さんの練習を見ることができるので、今はマイナスとは考えてないです」
この年、山崎は開幕一軍を果たすが、直後に二軍降格。それでも二軍でたしかな実績を残して、7月1日に再昇格を果たした。
「一軍では考えすぎて、崩れてしまった部分がありました。そのなかで、二軍ではまずは『しっかりと打つこと』を課題として取り組んでやってきました」
その言葉と表情からは、たくましさが伝わってきた。だが試合前の練習で、石井コーチとのティー打撃が始まると、予想外の展開が待っていた。
「ファームでは何をやってきた? 見逃し三振は減った?」
「はい。減りました」
久しぶりの再会に会話が弾むと思いきや、重い空気が流れ始めた。石井コーチはトスを上げる手を休め、山崎に聞かせるようにゆっくり話しはじめた。
「ファームで結果を出すことはもちろん大事だけど、ファームの投手に対して、三振を怖がって初球から打ちにいっての結果はどうかと思う。極端に言えば、ファームでは自分から追い込まれた状況をつくって、そこで結果を出せば自信になるんじゃないかな。そうでなければ、一軍ではまた簡単に2ストライクに追い込まれる。それが課題だったわけだろ。下で、ただ結果を出しただけなのであれば、一軍では打てずに、また二軍に落ちるよ」
結局、このシーズンは23試合の出場にとどまり、打率も.184と低調に終わる。しかし、スイングは目に見えて速くなり、打球も強さを増し、飛距離の伸びも一目瞭然だった。
シーズン終了後の松山(愛媛)での秋季キャンプで、山崎は来季に向けて覚悟の言葉を口にした。
「今年一軍で戦力になれなかったことを考えれば、練習がしんどいとか言っていられません。オフも休んでいる暇はないですし、野球から離れる時間はないと思っています」
特打では、逆方向の打球がスタンドに飛び込むなど、さらなるパンチ力を身につけていった。
4年目、山崎は80試合に出場し、キャリアハイとなる打率.274を残す。シーズン限りで退団が決まっていた宮本コーチは、自身のヘッドコーチとしての時間を総括するなかで、山崎の名前を挙げた。
「この前、宮出(隆自)コーチとも話をしたんですけど、この2年間だったら山崎がいちばん伸びたというか、一軍でそれなりに必要な選手になっているんじゃないかと。奥村も守備が上達しました。山崎にしても奥村にしても、吸収したいという気持ちが強い選手でした」
そして迎えたプロ5年目の今シーズン。高津臣吾監督は山崎の打順をこれまでの1、2番や下位に据えるのではなく、5番を多く任せるなど大胆な起用を見せている。
先日、山崎は今シーズンのここまでの結果について、こんなことを話している。
「今年はいろいろな打順を打つことがありますが、たとえば5番なら、それまでの打者の出塁率が高いので、得点圏ではランナーを還さなければいけないですし、ノーアウトで4番の村上(宗隆)が出塁したら送る。バントは苦手ですが、(成功すれば)あとの誰かが還してくれます。打順こそ5番ですが、出塁することやランナーを進めることが自分の仕事だと思っています」
8月2日現在、打率.324でリーグ9位。チャンスにも強く、得点圏打率は.355をマークし、打点14はすでにキャリアハイとなっている。
「(技術面の向上については)わかんないです(笑)。自分は基本的に不器用なので、同じ練習を続けてきました。それがやっと形になってきたのかなと。チームには青木さんや川端さんがいますので、いろいろと話を聞いています」
青木からは、左の腰を使って、もう少しポイントを前にしたほうが飛距離は伸びるんじゃないかというアドバイスをもらったという。
「『毎日トレーニングして、自分の体を知ることが大事だぞ』という言葉が印象的でした。自分自身、腰で打つということがいまひとつわかっていないのですが、これからしっかり理解していければと思っています」
神宮球場では、午後1時を過ぎれば若手選手たちの早出バッティング練習が始まる。今年はそのグループのなかにはいないが、外野のポール間を黙々と走ったり、メディシンボールを使って強化トレーニングをする山崎の姿を見ることができる。課題を克服するために練習に取り組んでいるのだろう。
「後輩が相談にきたら答えないといけない年齢ですし、そのためにも自分はまだ一軍に定着したシーズンがないので、まずは自分の立場を確立したいです」
ここまで山崎は、2ナッシングと追い込まれてからの打率は.364。フルカウントでは打率こそ高くないが8個の四球を選ぶなど、粘り強さを発揮している。「それなりに必要な選手」から「チームに欠かせない存在」へ。自他ともに認める本当の"一人前"までもう少しだ。