J1第8節を終え、1勝5敗2分けの勝ち点5で16位。2020年シーズンの清水エスパルスは、開幕戦から5連敗と、スタートで大きく出遅れたと言わざるを得ない。 とはいえ、最近3試合は1勝2分けと負けなし。数字の上からは、少しずつだが、状況が改…

 J1第8節を終え、1勝5敗2分けの勝ち点5で16位。2020年シーズンの清水エスパルスは、開幕戦から5連敗と、スタートで大きく出遅れたと言わざるを得ない。

 とはいえ、最近3試合は1勝2分けと負けなし。数字の上からは、少しずつだが、状況が改善されている様子はうかがえる。

 今季の清水は、新たなスタイルのサッカーに取り組んでいる。簡単に説明すれば、徹底してボールを保持し、相手を押し込むサッカー。もっとわかりやすく言うなら、横浜F・マリノスがJ1を制したサッカーだ。

 そもそも、昨季まで横浜FMでヘッドコーチを務めていたピーター・クラモフスキー監督が、今季から新たに清水の指揮を執っているのである。横浜FMのサッカーを参考にするとか、真似するとかいうより、そのものを移植するという表現のほうが適当なのかもしれない。



新たなスタイルのサッカーに挑戦している清水エスパルス

 清水が新たなスタイルに取り組んでいることは、今季最初の公式戦(ルヴァンカップのグループリーグ第1節)からはっきりと見て取れた。

 同様のスタイルを、すでに先んじて物にしている川崎フロンターレを相手にしても、臆することなくパスをつなぎ、ときに川崎のお株を奪うようなパスワークで攻め入った。結果的に1−5と大敗を喫したが、”所信表明”としては悪くない試合だった。

 その後も、すでに冒頭にも記したとおり、結果にこそ直結はしていないが、目指すサッカーに向かって迷うことなく進んでいる印象は強い。

 1−1で引き分けた第8節の浦和レッズ戦後、キャプテンのMF竹内涼はこんなことを話している。

「(長期中断が開け、J1が)再開する前から、みんなポジティブに自分たちのサッカーをし続けたいと思って、練習からやってきた。最初、結果が出ない状況が続いたが、投げ出さないで続けていることが少しずつ結果につながっている。やっていることは間違っていない。必ず勝ちにつながるという思いは全員が持っていると思う」

 新たな取り組みはまだ始まったばかりだ。清水は目指すサッカーを実現するための、攻守両面での最適なバランスをまだ見つけられていない。

 すなわち、選手それぞれがピッチ上のどこに立ってパスを回せば、効果的にボールを動かせるのか。あるいは、ボールを失ったとしてもすぐに奪い返せるのか、における最適なバランスである。

「なるべく相手の陣地でプレーしたい。ペナルティーエリアに入る回数を増やしたい。決定的なチャンスを増やしたい。僕たちがやりたいのは、相手がずっとゴールを守らないといけない状況にすること」

 竹内は理想のサッカーをそう言葉にするが、そのためには、どんなに流麗な攻撃ができたとしても、単発では意味がない。相手が対応に苦労する攻撃を何度も続け、ボールを失ってもすぐに奪い返しに移る。そのための立ち位置を、チーム全員がバランスよく取らなければならないのだ。

 もちろん、それを理解し、ピッチ上で実践するのは容易いことではない。清水が進む道の先駆者、横浜FMにしても、一昨季は相当に苦しんだ(J1リーグ12位)。

 目指すサッカーがハマり、鮮やかに勝利する試合がある一方で、カウンターを次々に浴び、大敗を喫する試合もあった。理想と現実の狭間で苦しむ声を、選手たちの口から聞くことも少なくなかった。

 では、そこで何がその後の成否を分けたかと言えば、自分たちが進む道を信じることができたか否か、である。

 それは、風間八宏監督時代、どんなに成績が悪くとも現在につながるスタイルをブレることなく貫き、それが鬼木達監督に引き継がれ、J1連覇という大輪を咲かせるに至った川崎にも通じるものだ。

 クラモフスキー監督は「選手全員が信念を持ってやり続けている」と話すが、清水の選手たちには、横浜FMの成功が自信を与えている部分はあるだろう。

 すでに成功例があるから、というだけではない。何と言っても、実際にそれを成し遂げた人物がチームを率いているのだ。

「いいときも悪いときもある。こういうことは、山を登るときには当然あることだ」

 そんな指揮官の言葉も、選手たちにはストンと腑に落ちるはずである。

 しかも今季は、特例としてJ2降格がない。つまりは、他チームとの勝ち点比較に怯える必要はなく、自分たちが取り組むサッカーの進捗状況のみを絶対評価によって判断できるメリットもある。そうした点においては、清水は横浜FMより早いペースで変革の道を進む条件を備えていると言えるのかもしれない。

 加えて言えば、直近の浦和戦での先発メンバー11人のうち、日本人選手は6人。そのうち、実に5人をホームグロウン選手が占めているというのも、清水が持つ魅力のひとつだ。

 自前で育てた選手たちが新たなスタイルに挑む様は、サポーターにとって少々のドキドキはありつつも、それ以上に大きなワクワクを持って見守れる冒険譚ではないだろうか。

 現在は大きく負けが先行し、辛うじてJ2自動降格”相当”圏から逃れる16位。だが、清水を取り巻く空気は悪くない。