ファーストキャップ。国代表としてのテストマッチ(国際間の真剣勝負)デビューを意味する。梶川喬介は11月5日、それを手にする。 試合のメンバーが発表された3日、テレビカメラと大勢の報道陣の前に立った。意気込みを問われる。「今回、ファーストキ…

 ファーストキャップ。国代表としてのテストマッチ(国際間の真剣勝負)デビューを意味する。梶川喬介は11月5日、それを手にする。

 試合のメンバーが発表された3日、テレビカメラと大勢の報道陣の前に立った。意気込みを問われる。

「今回、ファーストキャップということですが、そんなに気負わずに、自分のプレーをやりたいと思います」

 ひとつ、間が空いた。輪のなかにいた人に「緊張、していますか」と問われ、ようやく相好を崩した。

「…結構、してます」

 ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ率いるラグビー日本代表は5日、アルゼンチン代表とテストマッチをおこなう。登録された23人中、昨秋のワールドカップイングランド大会で3勝を挙げた際の面子はわずか9名。かたやテストマッチ未経験の13名のうちの1人が、LOに入った梶川だ。口数の少ない仕事人が、決意を込めた。

「ずっと日本代表になりたいな、とは思っていましたけど、なかなか具体的にその目標を描けることはなかった。今回、こうして試合に出る機会を得られる…」

 東芝に入社7年目の29歳だ。全国的には無名とされる地元の福岡工大の出身。さらに身長188センチ、体重105キロと、身長200センチ台も多い国際舞台のロックにあっては明らかに小柄だ。それでもハードタックルと献身ぶりで、信頼をつかんでいる。

「トップリーグでのパフォーマンスを観て選んでもらったと思っています。そのパフォーマンスを、日本代表の試合でも出したいです」

 前年度は副将として、国内最高峰のトップリーグの準優勝を経験。日本代表最多の98キャップ(テストマッチ出場数)を誇る大野均、新人王となった小瀧尚弘(日本代表7キャップ)との激しい定位置争いにおいて、常に先手を取る。かねて代表待望論の対象でもあったが、当の本人は「たらればの話は…」と応じてこなかった。

「一番は、自分のプレーにフォーカスを置くことです」

 マティアス・アレマノは身長199センチ、体重117キロ、ギド・ぺティパガディサバルは身長194センチ、体重108キロ。当日のアルゼンチン代表のLOは、自身よりも大きい。そんななか梶川は、ひとつのプレーが終わったら「すぐに起き上がる」。まずは仕事量で魅せたいという。もちろん主戦場となる空中戦のラインアウトでも、果敢に競り合う。

「LOの仕事であるラインアウトでしっかりとプレッシャーをかけたり、クリーンオーバー(ランナーへのサポート)でいいボールを出したり…。そういったところを頑張りたいと思っています」

 東芝の大野と小瀧は、怪我のため今回の代表参加を断念。大野から「楽しんでこい」と、小瀧から「頑張ってきてください」とメッセージを受け取った梶川は、「アルゼンチン代表は身体が大きくて、ゴリゴリとくる印象がある。そこ(ぶつかり合い)で負けないようにしたいです」。当日14時40分のキックオフを、静かに待つ。
(文:向 風見也)