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 西武・鈴木将平が静岡高の3年だった5月、ある雑誌の企画でインタビューを行なった。学校の教室を借りて話を聞いていると、窓の外から野球部員がアップする様子が見えてきた。その時点ですでに鈴木の心はグラウンドに向かっていたが、バッティング練習が始まってしまったらもうダメだ。

「あの……もういいですか、グラウンドに行っても。自分、バッティング練習しなきゃいけないんで!」

 そう言い放つと、こちらが返事をする前に、あっという間に教室を飛び出していった。



現在、西武の1番としてブレイク中の鈴木将平

 もともとインタビューされること自体あまり得意ではなさそうな感じで、質問に対しても淡々と語るだけだったが、ひとつだけ強烈に印象に残った話がある。

「ここに野球をしに来ているヤツはたくさんいますけど、本気でここから直でプロに行こうと決めているのは自分だけだと思います。静高(しずこう)は県内で1、2の進学校ですけど、そのなかで自分は、間違いなくただひとりの”就職希望者”だと思います」

 口数は少なかったが、発せられる言葉の一つひとつが決然としていた。こちらの話に合わせたり、愛想笑いしたりすることもない。いい意味で高校生離れしていた。

「野球の虫」「野球小僧」……鈴木を評する言葉はいろいろあったが、誰もが口を揃えるのは「アイツほど野球のことを考えているヤツはいない」ということだ。

 そんな鈴木のプレーを初めて見た時の衝撃は、今でもはっきりと覚えている。入学間もない5月。1学年上の堀内謙伍(現・楽天)や安本竜二(現・JX−ENEOS)が見たくて春の県大会に行ったのだが、誰よりも目立っていたのが1番を打つ左打者の鈴木だった。メンバー表を見ると入ったばかりの1年生だと知り、なおさら驚いた。

 右のサイドハンド投手のファーストストライクを迷いなくフルスイングすると、一塁手も二塁手も一歩も動けないほどの強烈な打球がライトへ前に弾き返された。スイングスピードの速さはもちろんだが、トップからインパクトへと移行するときの瞬発力はモノが違っていた。鈴木のあとを打つ堀内や安本のスイングのほうが遅く見えたほどだ。

 1年生にありがちな遠慮やひるみがまったくない。当たり前のように打席に入り、あっさりヒットを放つと、すかさず盗塁を決めてチャンスメイク。

 レフトの守備でも、左打者が放ったハーフライナーの打球を地面スレスレでダイビングキャッチ。走攻守すべてにおいて圧倒的なパフォーマンスを見せつけた。

 当時の高校球界の外野手といえば、横浜高の3年生・淺間大基(現・日本ハム)が頭ひとつ抜けた存在だったが、それに次ぐのは間違いなく1年生の鈴木だった。それほどプレーの完成度が高く、堂々とした立ち居振る舞いも1年生とは思えなかった。

「静高に入学した時、”将来の希望”のようなものを書かされたんですけど、みんな”東大受験”や”早慶に行く”とか書いていたんですけど、自分は”プロ野球一本”と書きました。だから、入学した時からずっとプロに行くことだけを考えていました。1年生の時も、『高校野球ぐらいでビビっていられない』っていう思いはありましたね」

 その言葉を聞いて、鈴木の1年春に見たプレーが妙にスッと胸に落ちた。

 3年になると、高校球界屈指の外野手となり、誰もが認めるドラフト候補となった。追い込まれるまでは思いきりボールを呼び込んで長打狙いのフルスイング。2ストライクからは両サイドの選球眼が一段と高精度となり、四球をもぎ取ったり、スイング軌道を変えて内野安打にしたり……”1番打者”として強烈な個性を放っていた。

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 その後、2016年のドラフトで西武から4位指名を受け、晴れてプロ野球選手となったわけだが、西武という球団に入ることに嫌な予感がしたことを覚えている。

 当時の西武の外野手は、秋山翔吾(現・レッズ)、栗山巧、金子侑司、外崎修汰、木村文紀……とリーグ屈指の強力布陣だった。鈴木は3、4年後を見据えての指名だったはずだが、当時、数年後にポジションが空くとは思えなかった。

 そんな心配をよそに、鈴木は1年目からファーム(二軍)で100試合以上に出場して3割近いアベレージを残し、2年目にはイースタン・リーグの盗塁王を獲得。見込んだどおりの”実戦力”を発揮して、ファームの不動のレギュラーとなった。

 しかし、何度か見に行ったファームの試合で、ネクストバッターズサークルで集中できず、打ち損じたことに苛立ち、感情的になるシーンを見た。

 そんな鈴木の姿に、ある選手が重なった。

 仙台育英時代に飛び抜けた身体能力を発揮し、2008年にドラフト4位で巨人に進んだ橋本到だ。

 高卒1年目からファームとはいえ3割近い成績を残し、その後も毎年コンストラントに結果を残してきた。それでも一軍の戦力状況とタイミングが合わず、持てる才能を発揮できないまま2018年オフに楽天にトレードとなり、昨年限りでユニフォームを脱いだ。

 結局、一軍で試合に出るためには実力はもちろんだが、運も必要になる。いくら二軍で活躍しても、一軍に空きがなければ上がれない。だから鈴木も、橋本の二の舞にならなければ……と思っていたら、昨年あたりから西武外野陣に動きが出てきた。

 栗山がほぼ”DH専属”となり、外崎も内野での出場が増え、極めつけは秋山のメジャー移籍だ。その代わりとしてコーリー・スパンジェンバーグを新戦力として獲得したが、7月に入ると昨季盗塁王の金子がケガにより戦線離脱。ようやく鈴木にスタメン出場のチャンスが回ってきた。

 すると、持ち前の技術を生かしたバッティングで結果を残し、7月10日からは”不動の1番”として活躍。7月27日現在、打率.307と奮闘している。

 正直、鈴木の登場はギリギリだったのではないかと思う。彼のような”天才肌”は、自分に結論を出すのが早い。圧倒的にプロの壁にぶち当たったならまだしも、1年目から結果を残し、順調に実績を積んでも一軍からお呼びがかからない。「自分に足りないものはなにか……」を考えても浮かばず、やがて自分のプレースタイルを失う選手を何人も見てきた。

 だからこそ、鈴木には待ちに待った舞台で大暴れしてほしいと願う。

 プロで10年「1番を打てる選手」──高校時代の鈴木について、そう記事で書いたことがあったが、その見立ては今も変わっていない。鈴木の才能がようやく大きく花開こうとしている。