【連載】チームを変えるコーチの言葉~大家友和(4)美しすぎるプロ野球選手・加藤優の写真はこちら>> 限られた練習時間を踏…
【連載】チームを変えるコーチの言葉~大家友和(4)
美しすぎるプロ野球選手・加藤優の写真はこちら>>
限られた練習時間を踏まえて準備段階から目標を設定し、自分で考えて行動する。練習も試合もしっかりと振り返って、できたこと、できなかったことを自分で探っていく。この2つが選手のルーティンになり、当たり前に行なえるようにコーチはサポートする──。
DeNAファーム(二軍)投手コーチの大家友和は、あくまでも「選手が自分で考えて」なのであって、「誰かの何かを信じて」ではないのだと強調する。ただ、ファームの若い選手だけに、結果が出る、出ないの違いによるモチベーションの浮き沈みは小さくないだろう。そこは選手とどう向き合っているのか。大家に聞いた。

2018年からベイスターズの二軍投手コーチを務める大家友和
「僕自身、現役時代、モチベーションの上がり下がりで左右されたことがあります。だから、なるべくそうなってほしくはないですし、モチベーションが下がった時にどういった声かけをしたほうがいいのか、多少は僕自身の経験から言えることはあると思います。ただ、それでも言うのは難しいですね」
当然ながら、ただ声をかければいいというものではなく、逆に声をかけないほうがいい場合もあるだろう。コーチとしての接し方に難しさがありそうだ。
「声をかけたところで、全然、その選手が聞いてくれないこともあるでしょうね。その点、なぜ聞いてくれないのか、わかるときもあれば、わからないときもある。そもそも、モチベーションが下がった理由が何なのか、知る必要があります。
その点、自分でコントロールできないことにおいて頭を抱えてしまうような選手がいるのは事実ですし、じつは自分自身に問題がある選手もいます。それらを知らずに僕らコーチがアプローチを間違えると、選手自身が信じてきた方法を信じられなくなったり、目標を見失ったりしてしまいかねないので、そこは慎重に考えています」
自分自身に問題がある選手は、それこそ振り返りによって自分で気づける場合もあるだろう。振り返って、結果が出なかった原因がわかれば、下がったものを上げることもできるはず。一方で、自分でコントロールできないことに関しては、どういった内容になるのだろうか。
「たとえば、一軍なのか、ファームなのかというのがあります。キャンプが始まる前だったら、まさに一軍・ファームの振り分けがありますから『何で自分がファームスタートなんだ?』と疑問に思うことも、ひとつモチベーションが下がる要因のひとつになり得るでしょう。
そこで僕が選手に言うのは、『絶対、チャンスがあるよ』っていうこと。間違いなくチャンスがあるから、何に取り組んでいこうかと。ファームスタートだからって、誰も『おまえはダメだ』なんて言っていないのに、もう契約のことは忘れているんです。本当に必要とされていない選手なら契約してないって話なので。まずそこから始めなきゃいけない選手もいるかもしれません」
一軍・ファームの振り分けは監督とコーチが決めることで、選手にはどうすることもできない。だから疑問に思っても仕方がない。
それよりも、球団と新たな契約を結んだ事実を思い出すこと。こう助言されたら「チャンス」という言葉の意味合いも変わってきそうだ。
「チャンスという意味では、試合に出られないときに『何でチャンスをくれないんだ』となって、モチベーションが下がる選手もいると思います。その場合、こちらからの説明の仕方によっては納得するし、納得しないこともある。また、時間が解決するときもある。そういう面で、モチベーションというのは非常にデリケートなところがあります。
ただ、いちばん困るのは、自分でコントロールできない部分において悩み続けることで、それは非常に苦しいんです。僕自身、やはり現役時代にそれで苦しんだときがあったのですが、『コントロールできるのは自分自身なんだ』ということをよく理解してもらうしかないですね」
自分でコントロールできないことが原因でモチベーションが下がり、悩みそうになったときは、自分自身をコントロールすることが大事になる。一方では、まったく反対に、自分でコントロールできないことだからこそ、モチベーションを上げる選手もいるという。
「ファームスタートで悔しい……だから、どの時期にどういう状態になろうと目標を立てられる選手もいるんです。それはもう、放っておいてもできると言ったら語弊がありますけど、自分で野球のルーティンが決まっている選手です。もちろん、そこまでの選手じゃなくても、契約した以上は絶対にチャンスがある、ということだけは間違いありません」
ファームの選手にとって心強く思える言葉が発せられてきたが、そんな大家のコーチングの原点をたどれば、アメリカで受けた指導に行き着くのではないか。
言い換えれば、かつての日本プロ野球で主流だった、コーチ自身の経験を元にした指導、上から頭ごなしに命令する指導、それらを反面教師にしているところもあるのではなかろうか。
「たしかに、経験則で語られることが多くて、そこに則らないと評価してもらえないということはあったかなと思います。彼らの信じていること、やってきたこと、つまり経験ですけど、それ以外のことを持ち出してもらうときがなかったですね、アメリカに行く前は。
ただ今の僕には、そういう昔のことを掘り起こしていく、その行為自体が必要ないですし、それだけの時間もありません。別にそこと闘っているわけじゃないので、そんなことはどうでもいいんです。今、やらなきゃいけないことがたくさんありますから」
現役時代にコーチから受けたような指導はやりたくない、自分がコーチにされた嫌なことだけはやらない、と思って選手をサポートするコーチは今の球界に増えつつある。だが大家の場合、もともと反面教師など必要としていないのだった。
「たしかに、昔の指導法と今の指導法を対比するとわかりやすくなると思います。でも、あまりそこを気にするとやっていられないでしょうし、昔の指導法と闘うとネガティブなほうに向かうことになると思う。そもそも、経験則だけでものを言うという指導に対して、それを正すのが僕の仕事ではないですから」
大家がそのように強く主張するのも、今でも”昔の指導法”に直面する時があり「まだ残っているのか……」と実感するからだ。まして、プロのみならず、アマチュアの世界に色濃く残っていると知って、やり切れない気持ちになることもあるという。だが大家自身、後ろ向きなものと闘うつもりはない。
「選手が伸びていく、成長していく、力を発揮していくということが僕らの仕事でなければいけない。だから常に前向きにやりたいし、やっているつもりではあります。そうして結果を出せる選手が数多く出てきて、チームも成長したらいいなと。ただそれだけを思っています」
つづく
(=敬称略)