「高橋大輔には優しさと強さがある」の記事はこちら 7月21日、大阪・関空アイスアリーナで公開されたフィギュアスケートの全日本シニア強化合宿。次世代エースコンビの鍵山優真と佐藤駿にとって、初めてのシニア合宿参加で、「最初は緊張していた」と…

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 7月21日、大阪・関空アイスアリーナで公開されたフィギュアスケートの全日本シニア強化合宿。次世代エースコンビの鍵山優真と佐藤駿にとって、初めてのシニア合宿参加で、「最初は緊張していた」と口をそろえる。コロナ禍の外出自粛期間中はたまに連絡を取り合い、「元気?」などと近況を報告し合っていたという。同日の練習では、互いにライバルとして意識し合うような雰囲気を見せていた。



7月21日、フィギュアの全日本シニア合宿で練習する鍵山優真



鍵山と同じグループで練習する佐藤駿

 鍵山は体を慣らした後に、昨季は跳んでいなかった3回転ルッツ+3回転ループを2度きれいに決めた。フリー後半に組み込めば得点源になる連続ジャンプだ。対して佐藤は、3回転フリップからの3連続ジャンプや、3回転フリップ+3回転トーループ、トリプルアクセルなどを中心に練習した。

 曲をかけた鍵山が、3回転フリップとトリプルアクセル+1オイラー+3回転サルコウをつなぐと、佐藤は対抗するように4回転トーループ+2回転トーループに挑戦し、2度目で成功。その後、4回転サルコウを立て続けに2本決めた。

 今度は鍵山が、キレのあるステップシークエンスを滑る。4回転サルコウ+2回転トーループ、3回転ルッツ+3回転ループ、コレオシークエンスをつないだ後、トリプルアクセルを跳ぶと、最後はコンビネーションスピンで締めた。

 佐藤も曲をかけ、最初の4回転トーループ+3回転トーループをしっかりと成功。ルッツやアクセルにミスはあったが、苦笑いを浮かべて間を取った後に、スピード感のあるステップシークエンスを滑り切り、最後はチェンジフットコンビネーションスピンと、ショートプログラム(SP)の曲を通した。

 切磋琢磨する2人の、見ていて微笑ましくなる練習だった。

「今回の合宿では、新しいプログラムのレベルチェックをしてもらい、もっといいものに近づけられれば」と話す鍵山。外出自粛期間中は約1カ月半、氷上に上がれなかったが、陸上トレーニングでジャンプに重要な腹筋などの体幹や脚の筋力を強化し、瞬発力を高める縄跳びにも取り組んだという。オンラインで取材に応じた鍵山は、当時から現在までをこう振り返る。

「モチベーションを維持するために昨シーズンの動画を見て、『ここはこうできる』などと改善点を考えていました。(緊急事態宣言解除後に)氷上に上がって、ほぼ元どおりに練習できるようになり、だんだん調子はよくなってきています」

 鍵山のシニア初シーズンのプログラムは、SP、フリー共にこれまでと同じ佐藤操(みさお)氏の振り付け。SPの曲は『テイク・ファイブ』で、フリーは映画『もののけ姫』のサウンドトラックだ。鍵山は意気込む。

「テイク・ファイブは少し大人っぽい曲なので、佐藤先生からは『もうちょっと大人になってからでいいんじゃない?』と言われましたが、やりたかったんです。フリーはずっと使いたいと思っていた、好きな久石譲さんの曲。力強さがある曲なので、そういう表情や表現をうまく使いたいです」

 昨季、4回転はトーループのみだったが、今季は練習でも成功させていた4回転サルコウも武器にする方針だ。SPは4回転サルコウ+3回転トーループの後で4回転トーループ、最後にトリプルアクセル。またフリーでは、4回転サルコウ2本と4回転トーループ1本を入れる予定という。

 練習の流れを見ていると、フリー前半は単発の4回転2本の後に3回転フリップとトリプルアクセルからの3連続ジャンプ。基礎点が1.1倍になる後半3本は、4回転サルコウ+2回転トーループに3回転ルッツ+3回転ループ、最後にトリプルアクセルになりそうだ。

「シニア移行は、昨年の全日本選手権の頃から大体は決めていましたが、四大陸選手権の後に確定しました。シニアには北京五輪を狙う選手もたくさんいて、自分自身はまだまだだと思いますが、恐れずにどんどん挑戦したい。先輩たちに負けないために、練習をしていきたいです」

 そう話す鍵山はシニア初シーズンから、意欲的な構成で挑む。

 一方、「(6月初めの練習再開直後は)久しぶりで調子が悪かったが、今は上り調子。とてもいい感じになっています」と話す佐藤も、外出自粛期間中は陸上トレーニングの量や質を高めた。また、これまであまりやっていなかったという腹筋や背筋の強化、ダンスなどのトレーニングも積んだ。

 新プログラムの振り付けは、自身初となる海外の振付師ブノワ・リショー氏によるもの。SPは『パイレーツ・オブ・カリビアン』で、フリーは『バトル・オブ・ザ・キングス』を選曲した。

「パイレーツ・オブ・カリビアンは有名な曲ですが、初めて聞いた時はとても難しそうな印象で、『自分では滑らないな』と思っていたような曲。でも、うまく表現していきたいと思っています」

 昨シーズンは、ルッツとトーループ2種類の4回転ジャンプを入れ、ジュニアグランプリファイナル王者となった佐藤。新ジャンプに関しては、外出自粛期間の練習のストップがやや影響しているという。

「普段の年なら今頃は新しいジャンプに取り組んでいるはずですが、今年はそれができていません。これから少しずつ4回転フリップなど新しいジャンプに挑戦するとともに、すでに跳べているジャンプの確率を上げられるように練習していきたいです」

 今季のSPは、4回転トーループ+3回転トーループと4回転ルッツ、トリプルアクセルの構成。一気にレベルを上げて高得点を狙えるものにしている。さらにフリーは4回転ルッツ、4回転サルコウに加えて4回転トーループ2本の予定で、シニアのトップ選手レベルの構成だ。「4回転フリップはまだ怖さもあってやれずにいますが、できれば年内に跳べるようにしたいと思っています」と、4回転の種類を増やすことに積極的だ。

「(状態が)練習でよかったり悪かったりで、国内シニアの選手の中でどのくらいの位置に自分がいるかという実感はない。これから頑張りたいです。(コロナ禍の影響で)これからどうなるかわかりませんが、いつ試合になってもいいようにしっかり準備して、シニアで戦える技術と表現に挑戦していきたいです」

 新世代の鍵山と佐藤は共に、シニアで戦うには4回転の必要性・重要性が高いと考えている。2人の意欲的な挑戦が2022年の北京五輪へ向け、日本、世界のフィギュアスケート男子の勢力図を変えていくのは間違いなさそうだ。