シリーズ「リーガに挑んだ日本人」はこちら>> 7月19日、リーガ・エスパニョーラ最終節。マジョルカの久保建英はオサスナ戦で、58分からの出場になった。リーグ戦再開後、10試合連続で先発出場してきたが、前節に降格が決定したことで、他の先発組と…

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 7月19日、リーガ・エスパニョーラ最終節。マジョルカの久保建英はオサスナ戦で、58分からの出場になった。リーグ戦再開後、10試合連続で先発出場してきたが、前節に降格が決定したことで、他の先発組と一緒にベンチスタートになっている。

 しかし短い出場時間でも、久保は風格を漂わせていた。



リーガ最終節オサスナ戦に後半途中から出場した久保建英(マジョルカ)

 試合を重ねても、久保はプレー水準が落ちない。それは簡単に見えて、難しいことである。ボールを受け、預ける、という単純な技術の質が高く、周りから信用されているし、敵に脅威を与えられる。ワンプレーで周囲をあっと言わせる選手は多いが、彼は連戦をこなしながら、"簡単にボールを失う""シュートが大きく枠を外れる"というケースが極端に少ないのだ。

 精強な技術こそ、リーガで評価を高めている理由だ。

 シーズン途中には、プレミアリーグでダイナミックなプレーで活躍した韓国代表MFキ・ソンヨンがマジョルカに入団した。期待されたものの、ろくに出場機会を得られず、すでにクラブを去った。生き残るだけでも生半可ではない。

 はたして新シーズン、レアル・マドリードが所有権を持つ久保は、どこを新天地に選ぶのだろうか?

 オサスナ戦で久保は、こともなげにゴールチャンスを拵えている。

 右でボールを受けると、ディフェンスと対峙しながら、間合いを制するだけで絶妙なボールを左足で流し込む。アンテ・ブディミルの反応は遅れたが、高水準のプレーだった。左からも、相手を抜けきらずにコースを作り、左足を鋭く振って、GKとDFの間に速いクロスを送っている。これもエリア内の選手が飛び込むだけでゴールになるボールだった。

 サッカーは読み合いのスポーツだが、久保は相手に自分のプレーを読ませない。味方でさえ、時に感じられない瞬間があるのだろう。体幹が強く、ステップが警戒で、モーションも小さく、さらに"右に誘って左を"と裏をかける。オサスナ戦もカットインして左足シュートを放つシーンがあったが、対峙したディフェンスを迷わせ、後手を踏ませ、それをGKのブラインドにして際どいシュートを打っていた。

 何気ないが、"らしさ"が出たのは、61分のプレーだろう。

 センターサークル付近にいた久保は、ボランチのイドリス・ババからのパスをダイレクトで落とし、プレスを回避し、味方の攻撃につなげている。そのパスは至近距離からシュートのような速度だった。しかし久保は最も難しいダイレクトプレーを選択し、適切なコンビネーションを作り、攻撃を活性化させていた。技術、ビジョン、瞬発的判断力が必要で、能力の高さが集約されたプレーだった。

「中盤からすると、タケ(久保)にしかつけられないパスというのがあって、顔が見えるところにいるし、奪われないっていうのがわかるから、ぎりぎりの感じでも出せる。他の選手とは違いますね」

 日本代表MFである橋本拳人(ロストフ)のそんな証言と符合するプレーだ。

 久保は速く強いパスを求める。それはバルサのDNAと言えるかもしれない。ボールを速く走らせることが、相手より優位に立つ術だと心得ているのだ。周りのプレーヤーの力量次第で、彼自身のプレーも今後は輝きを増すだろう。

 新シーズンに向け、その去就が注目される。

 レアル・マドリードでのプレーか、レンタル続行か、完全移籍か。選択肢は三つだが、現状ではレンタル、それもスペイン国内が有力だろう。海外クラブに移籍させた場合、そのまま高額で売り払う事例が多い(今シーズン、ドルトムントにレンタル移籍させていたアクラフ・ハキミは、移籍金48億円でインテルへ移籍した)。レアル・マドリードに戻すにしても、スペイン国内でプレーしていないと、適応にあらためて時間がかかるのだ。

 そこでレンタル先としては、レアル・ソシエダ、ベティス、バジャドリードなど、レアル・マドリードが所有選手を送り込んでいるクラブの名前が挙がっている。攻撃的な戦術を採用するレアル・ソシエダは最適だが、左FWはキャプテンでエースのミケル・オジャルサバル、右FWのポルトゥはタフで得点力に長けた指揮官のお気に入り。ポジションは合致するだろうか。マジョルカはリーグ最低の戦力だっただけに、「1部なら順位やスタイルにこだわらずともよい」との意見にも一理ある。

 一方、レアル・マドリードのジネディーヌ・ジダン監督が久保をプレシーズンに帯同させて見極める可能性もあるだろう。ジダンは、エデン・アザール、ヴィニシウス・ジュニオール、マルコ・アセンシオなど爆発力のあるサイドアタッカーを好む。しかし、ボールを失わず、プレーを作れる久保を、まもなく35歳になるMFルカ・モドリッチのバックアッパーに考えているとも言われる。

 2020-21シーズン、リーガは9月上旬開幕が予定されている。