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福島良一「MLBコアサイド」

 1973年の初渡米から47年にわたってメジャーリーグの造詣を深めてきた福島良一氏に、さまざまな魅力を伝えてもらう「MLBコアサイド」。今回は日本人投手が誰も手にしていない最多勝のタイトルについて語ってもらいます。



開幕に向けてキャンプ地で調整するダルビッシュ有

 新型コロナウイルス感染拡大の影響によって開幕が遅れていたメジャーリーグも、ようやく7月23日(日本時間24日)から始まります。

 本来の開幕から4カ月近くも遅れたため、今季のレギュラーシーズンは例年の162試合に比べて極端に少ない60試合。それでも20世紀以降、前例のない変則シーズンにもいろいろな楽しみがあります。

 レギュラーシーズンが60試合しか行なわれないため、序盤で勢いに乗ったチームがそのまま地区優勝する可能性も十分にあるでしょう。また、予想外の展開になりそうなのは、個人タイトルの行方も同様です。投打の主要3部門のタイトル争いは大混戦となるのではないでしょうか。

 なかでも個人的には、投手の最多勝争いに注目しています。なぜなら、これまで野茂英雄氏など奪三振王に輝いた日本人投手はいましたが、最多勝のタイトルを獲ったケースはひとりもいないからです。

 ニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手やミネソタ・ツインズの前田健太投手など、今年も先発を任される日本人投手は何人もいます。ただ今年、最多勝のタイトルに最も近い選手は、シカゴ・カブスのダルビッシュ有投手ではないでしょうか。

 一番の理由は、特例となった今年の試合日程に恵まれているからです。広大な北米大陸の長距離移動による感染リスクを避けるため、今シーズンの対戦相手は同地区のみ。また、交流戦も同地区に限定して行なわれます。

 カブスの所属はナ・リーグ中地区。つまり、昨年初の世界一に輝いた東地区のワシントン・ナショナルズや、リーグ最多の106勝を記録した西地区のロサンゼルス・ドジャースといった強豪チームと、カブスは今年レギュラーシーズンで対戦しません。

 ア・リーグとの交流戦でも、同じ恩恵を受けます。2年連続100勝以上を挙げている東地区のヤンキースや、メジャー最多107勝をマークした西地区のヒューストン・アストロズといった優勝候補とも戦わないのです。

 近年の中地区は、両リーグとも東・西地区に比べてレベルが低い傾向にあります。これは、カブスにとって大きなアドバンテージでしょう。

 カブスの試合日程を見てみると、それは明らか。昨年93敗のピッツバーグ・パイレーツ、103敗のカンザスシティ・ロイヤルズ、114敗のデトロイト・タイガースと、60試合のうち17試合も組まれています。

 また、中地区は北米五大湖地方周辺にチームが集まっているので、遠征のための移動距離が短く、肉体的にも精神的にも負担が軽くなるメリットもあります。

 中地区のなかでもカブスはとくに短く、移動距離はメジャーで2番目に短い4071マイル(約6550キロ)。メジャーで最も長いテキサス・レンジャーズの14706マイル(約23662キロ)と比べると、その差は歴然です。コロナ禍において、移動による安全面の不安が多少なりとも軽減するのは大きいでしょう。

 昨年、ダルビッシュ投手のシーズン最初の2カ月間は防御率5.02、と、決していい成績ではありませんでした。しかし8月・9月の2カ月は防御率2.97。さらに調子のバロメーターのひとつである奪三振と与四球の数字も、73奪三振→88奪三振、41与四球→5与四球と、見違えるようによくなりました。

 なぜ、急激に成績が上がったのか。それは、ダルビッシュ投手の専任捕手となったビクター・カラティニの存在が大きいと思います。

 カブスにはウィルソン・コントレラスという、2年連続オールスターに先発出場したリーグを代表する正捕手がいます。しかし、ダルビッシュ投手がコントレラスとバッテリーを組むと、昨年8試合で防御率6.00、通算でも16試合で防御率5.47とよくありません。

 そのコントレラスが昨年7月、右足の張りなどで2度の負傷者リスト入り。延べ1カ月以上も欠場しました。その時、ダルビッシュ投手とバッテリーを組んだのが控え捕手のカラティニだったのです。

 カラティニはプエルトリコ出身の26歳で、2017年にカブスでメジャーデビュー。それ以来、ずっとコントレラスの陰に隠れた存在ですが、昨年までチームを率いたジョー・マドン監督(現ロサンゼルス・エンゼルス)はカラティニを高く評価していました。

 ある試合での出来事。先発投手がゲーム終盤まで好投を続けていました。しかし、カラティニは「少し様子がおかしい」と感じ、すぐにマウンドへ駆け寄ったのです。その細やかなプレーを見て、マドン監督は絶賛しました。

「あれはスコアブックに載らない過小評価されたプレー。捕手であることに対する自信の表れだ。何が起こっているかを正確に把握できている。まるでベテランキャッチャーのようだ」

 そのカラティニとバッテリーを組み始めてから、ダルビッシュ投手の成績は見違えるようによくなり、コントレラスが復帰してもふたりの関係は続きました。結果、昨年はカラティニと19試合バッテリーを組んで防御率3.29をマーク。まさに「ダルビッシュ復活の陰にカラティニあり」といった感じです。

 地元紙によると、ダルビッシュ投手は相性抜群なカラティニとの関係について「俺たちは仲がいい。まるで兄弟みたいだ。お互いに相手の考えていることがわかる」と語っていました。

 ダルビッシュ投手が先発登板する試合前は一緒にランニングし、ほかの投手が先発する試合でカラティニがスタメンに名を連ねる時もブルペンでの投球練習に付き合うなど、ふたりは強い絆で結ばれているようです。

 昨年、ダルビッシュ投手は味方の援護に恵まれず、5月から6月にかけて10試合連続勝敗なしという球団新記録を作りました。しかし、今年は変則シーズンによるナ・リーグ初のDH制導入により、ピッチャーは代打で替えられる状況にならないため、勝利投手の権利を得やすくなる可能性も高くなるでしょう。

 思えば、ダルビッシュ投手ほどの大投手が日本ハム時代から一度も最多勝のタイトルを手にしていないことにビックリです。日本人初のメジャー最多勝タイトル獲得、大いに期待しています。