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センバツ甲子園の代替大会となる「2020年甲子園高校野球交流試合」にも出場する健大高崎、桐生第一、2013年夏に全国制覇を達成した前橋育英の”私学3強”が席巻する群馬の高校野球界。
そこにこの夏、”最後の真っ向勝負”を挑む右腕が公立校にいる。しかも肩書きには「元侍ジャパン」がつく。
2017年11月に静岡県伊豆市にある志太スタジアムで行なわれた第9回BFA U−15アジア選手権。そこで侍ジャパンU−15代表(軟式)は、4大会ぶり2回目の優勝を遂げる。そしてこの時、伊藤将啓監督が「彼がいたからこその優勝でした」と称えたのが清水惇(じゅん)だ。

最速142キロを誇る安中総合のエース・清水惇
登板は開幕投手を務めた香港戦だけ。だが、山場となる台湾戦と韓国戦では「危ない場面があったら、すぐ彼に代えるつもりでした」(伊藤監督)と、常にブルペン待機。荻原吟哉、寺西成騎(ともに現・星稜)、根本悠楓(はるか/現・苫小牧中央)の好投で出番はなかったが、その安定感は「陰のエース」といってもいい存在だった。
そんな清水のもとに多くの強豪校からの誘いがあったが、群馬県立安中総合学園高校(以下、安中総合)への進学を決めた。身長170センチと投手としては小柄な部類に入るが、目標とする山岡泰輔(オリックス)のような全身を使ったフォームからキレのあるストレート、スライダー、カットボールなどを駆使した投球は、強豪校にとっては脅威になるはずだ。
清水が安中総合を選んだのは、「強い私学を倒したい」「2学年上に兄がいるから」というのもあったが、それだけが理由ではない。進路を決めるうえで重要視したのが「そこで野球が楽しめるか」「本当にそこで成長できるのか」ということだった。
清水は4人兄妹の末っ子。一番上の兄は強豪校に進んだが、帰宅すると話もしないほど疲弊していた。一方、安中総合に進学した2番目の兄は練習から帰ると楽しく野球の会話をする。清水が惹かれたのは後者だった。
「いいものを持っているのに、強豪校に行って補欠になってしまうのは3年間を棒に振るようなもので、本当にもったいない。そうなるなら、ほかのところに行って自分の実力を上げていったほうが、その先につながるのではないかと思いました」
清水はそうキッパリと言い切った。甲子園出場の可能性が低くなることも厭わなかったと、力を込めて続ける。
「みんな甲子園は特別な場所だと言いますが、僕にとってはひとつの球場であって、とくに意識はしていないです。甲子園に出て活躍できればいいと思いますが、甲子園に出場したことを誇るだけの人生にはしたくないですし、思い出づくりのために高校野球をしているわけでもありません。高校野球はプロへの通り道だと思っています」
安中総合の環境も、清水の成長をあと押しした。
チームを率いる吉田省吾監督は就任7年目の36歳。県下有数の進学校である高崎高から北海道大に進んでプレーした。吉田監督が指導するうえでとくに大事にしていることは、選手が「やりたいからやる」という気持ちにさせることだという。吉田監督は「脳の健康状態がいいように」という言葉で表現する。
そして投手の指導については「僕はおもに外野手でしたし、上等な素材に調味料をぶちまけても仕方ない」と、トレーナーの吉田稔彦氏(ウゴケル高崎所属)に一任した。
中学時代から清水を見てきた吉田氏は、情報を収集する力、自らを認識する力は当時から際立っていたと話す。
「(清水)惇は自分の体をよくチェックしていますし、情報収集もよくしているので、自分を客観視できるんです。3年間ケガをせず、平均球速も上がりました。これから体も締まっていくと思うので伸びしろは十分です」
安中総合を選んだ際には、「そこに行ったら大学進学はできないよ」など、さまざまな雑音も聞こえてきた。それでも投手育成に定評がある関東の大学への進学を決めるなど、清水は着実に成長したことを証明してみせた。
「人の言うことに耳は傾けますけど『本当にそうか?』と疑問を抱いた時は、自分の気持ちを信じてやったほうがいいなと思いました。『本当にここに行きたい』という気持ちがあるのなら、自分の行きたいところに行くべきです」
また身長170センチと「投手としては小さい」という懸念に対しても、「身長が低いからピッチャーができないというわけではないということを広めていきたいです」と言い切る。
中学時代は、侍ジャパンでの登録身長を「172センチに盛りました(笑)」とサバを読んだこともあったが、今はまったく気にしていない。「身長が低くても活躍している楽天の則本(昂大)投手やロッテの美馬(学)選手を目指したいです」と語る。
こうして偏見や固定観念を払拭してきた清水だが、最後にどうしても打ち破りたいものがある。それが「強豪私学」の壁だ。
昨年秋は桐生第一と対戦したが、1対8とコールド負け。その悔しさを糧にストレートを磨き、11月には昨年夏の甲子園に出場した霞ケ浦(茨城)を完封した。
「まずは一戦必勝」を掲げるも、全国クラスの強豪校との対戦からさまざまなものを吸収したいと考えている。この夏、安中総合は19日の試合(嬬恋戦)に勝てば、次戦は健大高崎との対戦になる。
「健大高崎とやれることになったら、今まで積んできた練習の成果を出し切って、それでも敵わなかったら、自分の実力がまだまだ足りなかったということ。失敗を積み重ねていったほうが、自分の成長にもつながって自信にもなる。本当に野球を楽しみながらぶつかり合うだけです」
清水は高校3年間で培ったすべてをぶつけるつもりだ。