「マジョルカは2部のチームに」 マジョルカの地元紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』の見出しは、簡潔なだけに、そこはかとない切なさが伝わってくる。 7月16日、リーガ・エスパニョーラ第37節。19位のマジョルカは、本拠地ソン・モイスで10位のグ…

「マジョルカは2部のチームに」

 マジョルカの地元紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』の見出しは、簡潔なだけに、そこはかとない切なさが伝わってくる。

 7月16日、リーガ・エスパニョーラ第37節。19位のマジョルカは、本拠地ソン・モイスで10位のグラナダを迎え撃っている。クチョ・エルナンデスのゴールで先制したものの、決定機を逃し、2点を返されて逆転負けした。これで、最終節を残しての2部降格が決まった。

 昨シーズン、マジョルカは2部から昇格プレーオフを勝ち抜いて、歓喜の1部復帰を果たしている。しかし、たった1年での悲しい逆戻りになった。地元ではその経済的ダメージも大きい。ひとつの夢の終わりと言えるだろう。

「ビセンテ・モレーノ監督は来季、マジョルカを去る。エスパニョールの次期監督が有力だろう」

 そんなニュースがグラナダ戦前に流れたことは、結束や士気を弱めたと言えるかもしれない。

 しかしそもそもマジョルカは、2年前まで2部B(実質3部)に所属していた。ビセンテ・モレーノ監督が率い、限られた戦力を結集させ、どうにか1部で戦うまでになったが、経営難で満足な補強もできず、当初から限界はあった。予算的にも1部最下位だけに、降格は驚くに値しない。



1-2で敗れたグラナダ戦にフル出場した久保建英(マジョルカ)

 その非力なチームの中、シーズンをとおして久保建英の存在感は光っていた。
 
 グラナダ戦でも、久保はそのセンスの違いを随所に示している。

 ボールを呼び込んで、シュートを枠内に打てる。単純だが、その点で抜きん出ている。息を吸って吐くようにやってのけられる。

 前半13分、左から展開されたボールを、久保は右で受ける。ディフェンスと対峙しながら、小刻みに動いてコースを見つける。そして抜き切る前に左足でニアに打ち込んだが、これはGKにキャッチされた。

 28分、右CKの崩れ。ゴールほぼ正面でボールを拾うと、完璧にコントロールした。左足で合間を縫うようなシュートを狙うが、GKの正面だった。

 42分には左サイドからのクロスに反応。久保はインサイドに入り、ボックス内のバックラインの前にボールを呼び込む。左足を振ったが、ディフェンスにブロックされた。

 51分にもコンビネーションからシュート機会を作った。クチョとのワンツーでゴール正面へ。左足を鋭く振ったが、相手にブロックされた。

 64分、中に入ってサイドバックを上がらせ、ボールを展開させる。そしてゴールやや右で強いパスを受け、左足に”弾を込める”。相手をガードし、左足でファーに”発射”したが、わずかに左へ逸れた。

 久保の土台は、精度の高いボールコントロールとキックにある。それによって、常に相手をリード。彼はそれを自らのシュートだけでなく、プレーメイクにも使える。

「Mira Take!」(タケを見ろ!)

 後半、ベンチから大きな声が飛んでいる。久保への信頼の証左だろう。彼を経由することで、ボールが収まり、攻撃の道筋をつけられる。彼がボールを触るたび、チームメイトのシュートにつながっている印象なのだ。

 62分だった。左からのサイドチェンジ、久保は左足で完璧にトラップし、滑らかに前を向いた。一流選手は難しいことを簡単にやってのける。そこで右サイドで優位なサイドバックにボールを入れ、そのクロスが決定機につながった。

 しかし、マジョルカはチャンスを作り出しても、決められない。

 チーム最多得点のアンテ・ブディミルも、他の1部のチームならFWの二番手扱いだろう。中盤も、サルバ・セビージャは老練な駆け引きを見せたが、ボールを握り、プレー全体をコントロールできる選手が見当たらなかった。

 守備も奮闘したが、強固とは言えない。ゾーンの守り方ひとつとっても、個人の守備力の低さで容易に間に入られ、フリーでシュートを打たれていた。シーズンを通じてGKマノーロ・レイナは好セーブを見せてきたが、守備の負担が大きかった。特に左サイドバックは弱点になっていた。

 33試合出場、4得点5アシスト。

 1試合を残し、久保は数字でも結果を示している。10代ルーキーとしては満点に近い。来季は、より高いレベルのスペイン1部のチームでのプレーが有力視される。

 同じ日、所有権を持つレアル・マドリードはリーガ優勝を果たした。さらなる戦力増強も予定されている。久保を呼び戻す見込みは少ないが、プレシーズンをともに過ごさせ、見極める可能性はあるだろう。

 最終節、久保はオサスナ戦に挑む。どうシーズンを締めくくるのか--。飛躍につながるプレーが注目される。