フロリダ州で3月に開幕する予定だったインディカー・シリーズは、その直前、新型コロナウイルスの感染拡大によりアメリカ政府が国家緊急事態を宣言し、レースウィークエンドに入ったところでキャンセルを余儀なくされた。 一時はメジャースポーツがす…

 フロリダ州で3月に開幕する予定だったインディカー・シリーズは、その直前、新型コロナウイルスの感染拡大によりアメリカ政府が国家緊急事態を宣言し、レースウィークエンドに入ったところでキャンセルを余儀なくされた。

 一時はメジャースポーツがすべてストップしたが、5月半ばにストックカーレースがシリーズを再開したのに続き、インディカーも6月初旬にテキサス・モーター・スピードウェイでの開幕に踏み切った。

 インディカー・シリーズは、フロリダ州セントピーターズバーグでの開幕戦のほか、アラバマ州バーミンガム、カリフォルニア州ロングビーチ、テキサス州の州都オースティンでのレースをキャンセル。さらに感染が広がっているミシガン州デトロイト、バージニア州リッチモンド、カナダのトロントもキャンセルすることになった。

 レース数の減少をカバーするためにインディアナポリスのロードコースでのレースを追加したうえ、3イベントをダブルヘッダー化し、世界最大のレースであるインディ500は日程を5月末から8月23日決勝に移した。そして、フロリダ州セントピーターズバーグのレースは10月下旬に復活開催が決まり、2020年シーズンは14戦が確保される見込みとなった。



シリーズ第2戦から3戦連続でトップ10内をキープしている佐藤琢磨

 インディアナポリス・モータースピードウェイのロードコースで開催された第2戦は、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)が開幕戦に続いてライバル勢を圧倒し、2連勝。シリーズチャンピオンに5回も輝いているニュージーランド出身のベテランと彼のチームは、テストがほとんどなく、レースウィークエンドのプラクティスも短く、マシンのファインチューニングが非常に難しい条件下で、飛び抜けた能力を発揮した。

 続く第3戦、第4戦が行なわれたのはウィスコンシン州最大都市のミルウォーキーの北60マイルほどの距位置にあるロードアメリカ。開催が6月から7月に遅れ、ダブルヘッダーになった。

 そしてロードアメリカは、インディカー・シリーズがサーキットに観客を迎えて行なう今年初めてのレースとなった。

 主催者は入場者数を発表しなかったが、2日とも3万人を越すファンが詰めかけていた。現在アメリカでプロスポーツが行なわれているのはレースとゴルフぐらい。ロードアメリカでのレースを待ち焦がれていた人が多かったということだ。

 レース1。ポールポジションからリードしたのは2014年チャンピオンのウィル・パワー(チーム・ペンスキー/シボレー)だった。しかし、ピットストップでタイムロスし、ディクソンが開幕からの3連勝を達成した。開幕3連勝は伝説のドライバー、AJ・フォイトが1964年に、アル・アンサーが1971年に記録している。シリーズが二分していた2006年には、出場チームに強豪の少なかったチャンプカー・シリーズでセバスチャン・ブルデイが開幕4連勝している。これらのドライバーは全員、そのシーズンにチャンピオンになっている。

 表彰台でディクソンは、「ファンがサーキットに来てくれている。本当に喜ばしく、彼らの前で勝てて最高の気分だ。ウィニングラップでターン5に向かって下っていくと、大勢のファンが歓声を送ってくれた。嬉しくなって、彼らのリクエストしていたスピンターンを何回か披露した」と語った。

 物静かで派手なことが好きではないディクソンだが、無観客のレースで2連勝したあとだけに、ファンと一緒に勝利を祝いたくなったのだろう。

 翌日のレース2では、若手が驚くべきパフォーマンスを見せた。ポールポジションは21歳のメシキコ人ドライバー、パト・オーワード(アロー・マクラーレンSP/シボレー)が初獲得。2位は20歳のカリフォルニア出身、コルトン・ハータ(アンドレッティ・ハーディング・スタインブレナー・オートスポート/ホンダ)。3位は前日に3位フィニッシュしてヒーローとなっていたスペイン出身の23歳、アレックス・パロウ(デイル・コイン・レーシング・ウィズ・チーム・ゴー/ホンダ)だった。

 オーワードはレースでも速さを保っていた。ハータとパロウがタイヤの摩耗に悩まされて後退する中、急浮上してきたのはフェリックス・ローセンクビスト(チップ・ガナッシ・レーシング/ホンダ)だった。

 レースが残り5周を切ってから、オーワードのリードが一気に消えた。彼が最後のピットストップで装着したユーズドのソフトタイヤのグリップがなくなってしまったのだ。対するローゼンクビストは新品のハードタイヤを最後の走行に当てていたので、スピードダウンしなかった。

 残り2周、ローゼンクビストがオーワードにアタック。若い2人はマシン同士を軽くだが何度も接触させながらバトル。ローゼンクビストはオーワードを破り、念願のインディカー初勝利をデビュー2シーズン目で達成した。

「去年から何度も勝てそうなレースがあった。今日、ついに勝つことができてとてもうれしい。開幕からマシンがよかったので、その優位性があるうちに必ず勝たないといけないと考えていた。昨日は集団に埋もれたので、今日はピットタイミングをズラして自分のベストで走れる時間帯を長く取れるようにした。最後のピットで相手がソフトを選んだと聞いて、『チャンスあり』と思った」と、ウィナーは語った。

 4連勝を狙ったディクソンは、セッティングが悪く、タイヤの性能をフルに活かせなかったうえ、最後のピットストップでエンジンをストールさせ、12位だった。3位には、開幕3戦で15位、25位、19位と惨憺たる成績を残してきたアレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)が入った。

 開幕からシボレー勢は4連続でポールポジションを獲得。しかし、レースはホンダがチップ・ガナッシ・レーシングとともに4連勝を挙げている。昨年までチーム・ペンスキーしか勝てるチームのなかったシボレーは、マクラーレンが優勝を狙える第二のチームとなる期待が出てきた。

 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング/ホンダ)は、開幕戦は予選でクラッシュして決勝出場が不可能となったが、インディアナポリス・モータースピードウェイの第2戦では10位フィニッシュ。ロードアメリカでは9位と8位と、3レース続けてトップ10入りしている。

 観客を入れたシリーズの第3、4戦は大盛況だった。翌週はアイオワ州デモイン郊外でのダブルヘッダーとなる。こちらはスタジアム的な観戦スタイルとなるショートオーバルでのレース。観客席数より大幅に少ない数のチケットしか販売しないことで、ソーシャルディスタンスを保つことを実現させようとしている。

 ただし、それ以降については不透明な面も少なくない。それぞれのサーキットがある地域によって、置かれた状況が異なるからだ。ここへきて一部で感染者数が急増、スポーツイベント開催を求める声も大きいが、外出禁止への逆戻りさえ議論されるようになっている。今後、キャンセルされるレースが出てくる可能性も十分に考えられる。