メンバー表のJ1通算出場数の欄には、ひとケタの数字がずらりと並ぶ。 18歳のアタッカーをはじめ、19歳のCB、ふたりの大卒ルーキー、今季がJ1初参戦の中堅と、その実績だけ見れば、あまりにも心もとない陣容である。今季2ゴール目を決めた横…

 メンバー表のJ1通算出場数の欄には、ひとケタの数字がずらりと並ぶ。

 18歳のアタッカーをはじめ、19歳のCB、ふたりの大卒ルーキー、今季がJ1初参戦の中堅と、その実績だけ見れば、あまりにも心もとない陣容である。



今季2ゴール目を決めた横浜FCの一美和成

 サンフレッチェ広島と対戦した2月のルヴァンカップでも、同じ想いを抱いた。

 組織性に優れる一方で、特筆すべき部分に欠け、J1における経験不足も否めない。「守って、カウンター」というスタイルではなかったので、降格こそしないと感じたが(実際に今季の降格はレギュレーション上なくなった)、苦しいシーズンになるのではないか……。それが、13年ぶりにJ1に復帰した横浜FCに対する開幕前の印象だった。

 ところが、7月12日にニッパツ三ツ沢球技場で見た彼らのイメージは、大きく異なった。ベガルタ仙台を相手に、多くの時間帯でボールを保持し、意図的に局面を進めてゴールに迫っていった。

 前節に柏レイソルを下して初勝利を挙げたことも、気持ちを楽にさせていたのだろう。相手のプレッシャーにも動じず、最終ラインから落ち着いてボールをつないでいく姿に、「J1でもやれる」という確かな自信が感じられた。

「選手たちが引き上げてきた表情は、勝ち点3を取れなかった悔しさのほうが強かった。J1のチーム相手に勝てたんじゃないか、というゲームができたのはポジティブに捉えたい」

 試合は先制しながらも追いつかれ、1−1の引き分けに終わった。しかし、下平隆宏監督が指摘したように、内容的には横浜FCが勝ち点3を手にしたとしても、おかしくない試合だった。

 とりわけ、2月の試合と大きく異なったのは、つなぐ意識の高さだ。システムを4−2−3−1から3−1−4−2に変えたことで、ビルドアップの質が向上。なかでも、アンカーを務めた佐藤謙介が秀逸なパフォーマンスを見せた。

 常にボールを受けられる位置に顔を出し、最終ラインからボールを引き出すと、巧みにターンして前を向き、サイドや前線へと質の高いパスを供給。一瞬の隙を見逃さず一美(いちみ)和成の先制ゴールをお膳立てしたFKの質も高く、このプレーメーカーが横浜FCのポゼッションスタイルのカギを握っていることは間違いないだろう。

「(リーグ再開後から)3バックにしてやっていますけど、選手たちがパワーを出してくれているので、そこは非常にポジティブに捉えています。自信を持ってやれてきているので、そういう意味ではもっともっとよくなっていく感じはします」

 指揮官も新たなシステムへの確かな手ごたえを感じているようだった。

 スタイルだけではない。タレント力にも大きな可能性が感じられた。なかでも22歳の一美と18歳の斉藤光毅の2トップが、横浜FCの攻撃に勢いをもたらす要因となっていた。

 身体の強さを生かしたポストプレーと、巧みなフィニッシュワークを備える前者と、鋭いドリブルを駆使し、バイタルエリアで違いを生み出す後者。異なる特長を備えた若きコンビは、この試合でも阿吽の呼吸を見せ、何度もチャンスを作り出していた。

「2トップなので、ふたりの関係で点は獲れると思う。(斉藤)光毅のスタイルを理解してプレーしているつもり。まだミスはあると思うけど、動き出しだったり、裏に抜け出す部分だったり、毎試合よくなっていると思う」(一美)

 見事な胸トラップから力強い一撃を叩き込んだ一美は、これが今季2得点目。斉藤も前節にJ1初ゴールを決めている。底知れぬポテンシャルを秘めたこの2トップは、今後リーグを代表するような名コンビになる期待感を抱かせる。

 もちろん勝てなかった以上、手放しで称賛できる試合ではなかっただろう。たとえば、つなぐ意識の高さは、一方で相手にとっての狙いどころとなる。実際にビルドアップのミスからピンチを招くシーンは何度か見られたし、うまくボールを回せない状況下で、相手に押し込まれる時間帯もあった。

 あるいはボール保持の長さと比べて、シュートの数が比例しないという事実もある。この日はわずかに4本で、3−1と快勝を収めた柏戦でも4本だった(効率がいいとも言えるが)。つまり今はまだ、ボールを持っているだけという見方もできる。

 それでも下平監督は、積み上げてきたこのスタイルを貫く覚悟だ。

「(押し込まれた時間帯は)ビルドアップにこだわってやっているので、仙台が前からハメに来て、なかなかそこをかいくぐれなかった。ただ、絶対に蹴るなと指示を出した。それで苦しくなったところもあるが、やり続けることが成長につながると思っている」

 苦しいシーズンとなると思われたが、横浜FCは今、ポジティブな空気に包まれている。強い信念を持つ指揮官と、成長過程にある若きタレントたち。発展途上にある分、経験を積み重ねるなかで、彼らが驚きの進化を遂げたとしても不思議はないだろう。