追憶の欧州スタジアム紀行(14)ワルシャワ国立競技場(ワルシャワ) ユーロ2012。ウクライナとポーランドで共催されたこ…
追憶の欧州スタジアム紀行(14)
ワルシャワ国立競技場(ワルシャワ)
ユーロ2012。ウクライナとポーランドで共催されたこの大会は、両国各4、計8つのスタジアムすべてが、新築か改築された新しい建造物だった。
ウクライナ側で最大規模を誇ったスタジアムは、決勝戦(スペイン対イタリア)など計4試合を開催したキエフのオリンピスキ。ポーランド側では、開幕戦(ポーランド対ギリシャ)や準決勝(イタリア対ドイツ)など計5試合を開催したワルシャワ国立競技場になる。

ユーロ2012の開幕戦の舞台となったワルシャワ国立競技場
いずれもUEFA認定のカテゴリーは4。最上位スタジアムだ。
オリンピスキは2017-18シーズン、レアル・マドリードとリバプールが戦ったチャンピオンズリーグ(CL)決勝を開催。いっそう箔を付けているが、ワルシャワ国立競技場にはいまのところCL決勝を開催する予定はない。ヨーロッパリーグ(EL)決勝の舞台の選定では、ユーロ2012でポーランド側の会場となったグダニスクのスタジアム(スタディオン・エネルガ・グダニスク)に、どういうわけか先を越されている。
キエフやグダニスクのスタジアムは、確かにモダンで上等な最新式スタジアムである。だが、筆者の印象では、ユーロ2012のナンバーワンスタジアムは断然、ワルシャワ国立競技場だった。
何と言っても特筆すべきは、観客席の急な傾斜角だ。正確な度数は定かではないが、急傾斜か否かの分岐点になる35度は楽々クリアしている。
この原稿を書くにあたり、当時、撮影した写真を眺めてみた。イタリアがドイツに2-1で競り勝ったユーロ2012準決勝の試合直後、2階席の記者席からピッチ上の様子を撮ったものだ。
どのスタジアムを訪れても、ほぼ毎回、筆者はその眺めをカメラに収めている。他と比較しやすい立場にあると自認しているので、言わせてもらえば、その俯瞰の画像には、急傾斜のほどが鋭く描き出されていた。「ピッチを見下ろすこの急傾斜を、写真に収めておかなくては」と、シャッターを切ったことも思い出された。
さらに連想したのは、カンプノウの記者席だ。その正面スタンドの最上階に設置されたゴンドラの中からピッチを見下ろす急角度の眺めである。サッカーの各種の概念が覆されたそのカンプノウの眺めに、ワルシャワは勝るとも劣らなかった。
収容人員5万8000人あまりのサッカー専用スタジアムだ。東京の(新)国立競技場と異なるのは、それだけではない。天井の屋根が開閉する全天候型スタジアムであることだ。
正確には多目的スタジアム。数々のアーチストがこれまでライブやコンサートを行なっている。
特徴的なのは、その屋根の開け閉め方法だ。屋根は膜状になっていて、普段は格納された状態にある。では、どこに格納されているのか。
得点や時間を表示する電光掲示板は、たとえばバスケットボールでは、コート中央の上部に、天井から吊るされるように設置されている。ワルシャワ国立競技場もこのスタイルで、電光掲示板は、センターサークルの真上付近に浮いている。
覆われている屋根の縁から伸びている何本ものワイヤーによって、それは支えられているのだが、天井に蓋をする屋根が格納されているのは、電光掲示板の上部。宙に浮いているように見える、円盤型の器の中に収まっている。そこから、約20分掛けて天井を完全に覆う。多目的スタジアムの生命線として機能している。
多目的スタジアムにとって不可欠なアクセスも申し分ない。ワルシャワ中央駅からS2という電車に乗って2駅目。町の中心を流れるビスワ川を超えるとワルシャワ・スタジアム駅に到着する。地下鉄もトラムもバスも利用できる。
ワルシャワ中央駅を新宿とすれば、スタジアム駅はさしずめ千駄ヶ谷か。ワルシャワの人口は約170万人。東京とは都市の規模に差があるとはいえ、サッカー専用で急傾斜の、屋根も開閉するスタジアムが、眩しく映る。
見栄えもいい。ポーランドのナショナルカラーである赤と白がまだらにあしらわれた外観のデザインが秀逸だ。
そしてその姿は、ワルシャワ観光の名所である王宮前広場から大きく視界に捉えることができる。東京で言えば、皇居から国立競技場を望むことができるようなものだ。国を代表するシンボリックなものとして、存在感を高める結果になっている。
赤と白のまだら模様は、スタジアムの座席にも鮮やかに塗り分けられている。赤と白といえば、日本のナショナルカラーも同じである。しかし、その2色を国立競技場の外観のみならず、座席シートにまで反映させようとする発想はない。デザイン性の高いお洒落なカラーリングには見えないからだろう。
実際、隈研吾さんが設計デザインした国立競技場にもその発想はゼロだ。「わび」と「さび」を表現したかったのだろうか。座席はモスグリーンをフィーチャーするように塗り分けられている。赤と白はない。そして、そのことに違和感を覚える人は少ない様子だ。サッカー界で言えば、代表のユニフォームが赤ではなく青であることに抵抗感を抱く人は少ないのと同様だ。
だが、赤は白とうまく組み合わせれば活路は見出せる。ワルシャワ国立競技場を見ていると、つくづくそう思う。悪くないのである。周辺の緑とも調和している。むしろ健康的でポップなカラーリングに見えてくる。高揚感を抱かせるスタジアムだ。もう一度、ここで試合を観戦する日が訪れることを願いたい。