FC東京・高萩洋次郎インタビュー ようやく、止まっていた時計の針が動き出した。 2020シーズンの開幕直後にJリーグが中…

FC東京・高萩洋次郎インタビュー

 ようやく、止まっていた時計の針が動き出した。

 2020シーズンの開幕直後にJリーグが中断してから、実に4カ月ぶりの再開。サッカーのある日常を誰よりも待ち望んでいたのはほかでもない、選手たちだろう。



FC東京で4年目のシーズンを迎えている高萩洋次郎

 5月25日に緊急事態宣言が解除され、約2カ月ぶりにグラウンドでボールを蹴った感触を聞けば、FC東京の高萩洋次郎は率直だった。

「やはり、すごい開放感がありました。身体はきついけれど、頭がスッキリするというか。家にいて何もせず、サッカーをしていない時は、どこかスッキリしない毎日だったから。

 けれど、グラウンドに行ってサッカーをすると、スッキリして家に帰ってこられる。自分はサッカーでストレス発散していたんだな……ということがわかりました」

 ここでドラマティックな言葉を選んだりしないのが、いかにも高萩らしい。

 常に自然体で、マイペース。それはピッチ上でも変わらない。視野が広く、プレーは常に冷静で、時折放つ独創的なパスは観客の心を鷲づかみにする。

 そんな高萩は、優勝にあと一歩届かなかった昨シーズンについても、彼らしい言葉で表現する。

「試合を終えた瞬間は清々しい気持ちでした。悔しさというより、ここまで戦えてよかった、これが自分たちの実力なんだなって感じで。あぁ、今シーズンが終わった、やり切ったっていう、スッキリした気分でした」

 もちろん、2位で終わったことに満足しているわけではない。それは、こんな発言からもうかがい知ることができる。

「僕が1点でも多く獲っていれば……と思ったというか。自分が点を獲りたい、ではなく、獲らなきゃいけないな、と感じましたし、自分が点を獲らないと優勝できないなとも思いました。

 僕は昨シーズン、ダブルボランチのひとりとして試合に出ていて、年間2得点でした。でも、あと2、3点多く獲れていたら、横浜F・マリノスとの最終戦で得失点差を気にせず戦えたな……と思っていて。

 そういうところの1点や2点の重みを、もっと年間通して考えてプレーしなければいけないと、あらためて思いました。また、チームとしてもその1点にこだわってやらなければと。得点も、失点も」

 得失点差で大きく運命を左右された結末に、ゴールの重要性を思い知らされた。そして、高萩は自分自身が決めることの意義を感じていた。

 一方で、FC東京としては過去最高の2位になり、クラブの歴史的には一歩、前に進むことができた。そうした意味でも、昨シーズンは決して悪くはなかったと話す。

「我慢強く戦って、勝ち点をあそこまで積み上げてこられたことには達成感があったし、自信につながったとも思います。あとはやはり、最後まで優勝争いを経験できたことが大きい。(こうして毎年)優勝争いを続けていくと、ポロッと優勝できるんじゃないかなって思うんです」

 高萩自身は、ここまでリーグ優勝を3度経験している。サンフレッチェ広島時代にリーグ2連覇を達成したのと、FCソウル在籍中にKリーグを1度制覇している。そんな高萩には、優勝に対しての持論がある。

「僕は優勝って『おまけ』みたいな感じだと思っているんです。1年間がんばってきた、積み上げてきたものの『おまけ』で、最後、優勝が転がって来るようなイメージ。リーグ戦はやはり積み重ねだから。最後の試合が大事というよりは、それまでが大事だと考えていないといけない」

 一方で、運を引き寄せる「力」も重要だと話す。高萩が続ける。

「そんなシュートが入っちゃうんだ、とか、完全に負けている試合なのに引き分けに持っていけるんだ、とか、そういう試合の数が多いチームが優勝する。僕のなかではそんなイメージがありますね。

 広島で優勝した時は、最後に周りが共倒れしてくれたから優勝できた。ソウルにいる時は、首位との勝ち点差が追いつけないくらいの差だったのに、相手が不祥事で勝ち点を9ポイントも剥奪されたおかげで最後に逆転優勝することができた。

 だから、優勝できる時ってそういう運が寄ってくるような流れもあるのかな、と思っています」

 ただ、その運を手繰り寄せるには、「堅実に勝ち点を積み上げて行くからこそ」だと、自身に向けるように念を押した。

 タイトル獲得への持論を聞いていると、ふと気になることがあった。彼はこうした経験を、後輩たちに話すことはあるのだろうか。

 聞けば、高萩は気まずそうに「話したことはないと思います」と言って笑った。

「僕が何かを言ったところで、あまり変わらない気がする……というか。それを経験しているからって、同じようになるわけではないですし、優勝する時は毎回、全然違う。チームも違うし、勝ち方も違うし、運もある。だから、あまり積極的に話すことはないですね」

 マイペースな高萩らしい返答に、思わずこちらも笑ってしまった。ただ、もっともだと、うなずきもした。

 過去の栄光は過去の栄光であるように、FC東京はタイトルを掴むために自らの方法を見つけ出さなければならないし、方程式を導き出さなければならない。高萩にはそのことがわかっているのだ。

 この飄々とした振る舞いこそが、彼の魅力であり、強みでもあるのだろう。キャリアを重ねても、経験値が高くなっても、変わらないし、飾らない。常に自然体で居続けられるその姿には、どこか頼もしさすら感じた。

 プロ生活18年目、高萩も今年で34歳になる。FC東京に加入して4年目を迎えているが、今やチームでは上から数えて2番目の年長者だ。

 過去3シーズンは主力としてコンスタントに出場してきた。だが、過密日程が予想される再開後は、さすがにローテーションを余儀なくされることだろう。それをぶつけると、先ほどまでの飄々としていた彼とは異なる力強い言葉が返ってきた。

「いや、むしろ全部の試合に出られるようにがんばりますよ。サブだろうが、先発で出ようが、全部の試合に絡めるようにしっかりと準備していきたいし、そのためにはケガをしないようにしたいと思っています」

 意外だった。話し方こそ穏やかだが、言葉に込められた熱量はまるで若手の選手のようだ。

「なんか……歳を重ねるにつれて、試合に出たい気持ちが強くなっているんですよね。だから、できるならば全部出たいし、休みたくない。

 連戦って、やっていればできるけれど、やらなくなると身体が対応できなくなる。プレーの波は多少あったりもしますが、それでも出続けているほうが調子もいいので。

 今シーズンはさすがに、全試合フルタイムで出るのは難しいかもしれません。でも、試合に出た時には、たとえ短い時間でも何ができるか、プレースタイルも含めてやり方を変える意識も必要かと思っています」

 今まであまり感情を表に出すタイプではないだけに、試合への強い思いを口にする高萩を見て、思わずパソコンモニター上に映る本人を凝視してしまった(オンラインミーティングツール「zoom」で取材)。しかし、その欲こそが、長く一戦で活躍できる所以なのかと納得もした。

 この過密日程は逆にチャンスだと、高萩は言い切る。

「日程変更によって、レギュレーションも今シーズンは変わってくる。東京はACLに出るからルヴァンカップは決勝トーナメントからになったし、天皇杯もリーグ戦の上位2チームだけが準決勝から出場することになった。だからもし、そこに食い込んで行けたら、タイトルを獲るチャンス……それこそ3冠とか、しやすくなるんじゃないかと思うのです。

 今シーズンは降格もないからリスクも負えますし。昨シーズンの最後、清々しかったとは言ったけれど、それでも優勝できなかった悔しさはあるので、そこはやはり……跳ね返したいというか、昨シーズンの経験を活かして優勝したいですね」

 最後には、タイトルへの渇望もしっかりと言葉にしてくれた。

 尽きることのない試合への欲と闘志を静かに胸に抱きながら、高萩は今年もまた飄々と頂上を目指すのだろう。そんな彼の手は、シーズンの終わりに幾つの星を掴んでいるのだろうか。今からとても楽しみだ。

【profile】
高萩洋次郎(たかはぎ・ようじろう)
1986年8月2日生まれ、福島県いわき市出身。サンフレッチェ広島ユースの主力として活躍し、2003年に最年少出場記録を更新する16歳8カ月3日でJリーグデビューを果たす。2015年のウェスタン・シドニー移籍を経て、2016年までFCソウルに在籍。2017年1月、FC東京に完全移籍して3年ぶりにJリーグに復帰する。日本代表として3試合に出場。ポジション=MF。183cm、69kg。