「One Rugbyの絆」連載第3回、2019年ビーチラグビー日本一主将・高村真介さんが語る魅力 日本ラグビー界に新たな…

「One Rugbyの絆」連載第3回、2019年ビーチラグビー日本一主将・高村真介さんが語る魅力

 日本ラグビー界に新たなうねりを起こすべく立ち上がった「NPO法人One Rugby」。元日本代表主将の廣瀬俊朗氏が代表理事を務める団体では、15人制や7人制(セブンズ)、車いすラグビーといった一般になじみのあるものから、10人制ラグビー、デフラグビー、ブラインドラグビー、タッチラグビー、タグフットボール、ビーチラグビーまで、「ラグビー」に分類されるあらゆる競技が協力し、競技の持つ魅力を広く社会に伝えていくことを目的とする。

「One for all, all for one」の精神で1つのボールを全員でゴールまで運び、試合終了の笛が鳴れば、敵味方関係なく互いの健闘を称え合う。ダイバーシティ=多様性のスポーツと言われるラグビーが、現代社会に提供できる価値は多い。「THE ANSWER」では、「One Rugby」を通じてラグビー界、そして社会が一つになれることを願い、それぞれのラグビーが持つ魅力を伝える連載「One Rugbyの絆」をお届けしている。

 第3回は、1990年に日本で産声を上げたビーチラグビーだ。大学時代からプレー歴20年を誇り、昨年ビーチラグビージャパンツアーで日本一になった「風人」主将、高村真介さんに話を聞いた。

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 ビーチラグビーが日本発祥のスポーツと聞いて、少し意外な気がする人もいるだろう。1990年、明治大学ラグビー部OBの若狭平和さんがビーチラグビーの前身となるビーチタッチフットボールを考案。学生時代にチームメートと海へ出掛けた時、砂浜でタッチフットをして遊んだ経験が基礎になっているという。1991年には日本ビーチタッチ・フットボール協会を設立。名称変更を経て、現在は日本ビーチラグビー協会となり、若狭さんが会長を務める。

 試合は5人対5人で行われ、試合時間は前後半がそれぞれ7分ずつで1分のハーフタイムをはさむ。タックルはなく、相手に両手でタッチすればタックル成立と見なされ、その場所から攻撃を再開。タッチを5回されると攻守交代となる。15人制ラグビーとの大きな違いは、5回の攻撃権のうち一度だけ前にパスを投げることができることだ。セットプレーはスクラムではなく、スナッパーと呼ばれる選手が両脚の間からボールを後ろに投げるなど、ラグビーにアメリカンフットボールの要素がミックスされたスポーツでもある。

 高村さんがビーチラグビーに出会ったのは、今から約20年前、関東学院大学ラグビー部で楕円球を追っていた頃だった。試験を終えて夏合宿が始まるまで3週間ほどあったオフに、チームメートと一緒に海へ出掛け、遊び感覚で始めたのがきっかけ。以来、卒業後にキヤノンで15人制をプレーした時も、毎年夏になるとボールを持ってビーチへ向かうのが恒例となった。

「学年を問わずにみんなで海に行っていました。当時、関東学院大学ラグビー部には部員が140~150人いて、多い時には50人くらいはビーチにいましたね。僕たちの他にも、早稲田や明治、慶応の選手も来ていましたし、社会人のチームもいました。晴れた日に砂浜で走れたら、それだけで楽しいんですよ」

ラグビーなのに前へのパスも可能「コートをより立体的に考えないといけない」

 日本各地で競技人口を増やしたビーチラグビーは、1996年には第1回全国大会が開催され、1999年にはジャパンシリーズが始まった。高村さんによれば「2000年頃には全国で延べ1000チームくらいが大会に参加していました」。その大会の模様は、深夜枠ではあったが地上波でテレビ放送されたこともあったという。だが、15人制の人気低迷に合わせるかのように競技人口が減少。「高校、大学、社会人も含め、何かしらラグビーをやっている方が、夏のイベントという形として参加しているんだと思います」と分析するが、今では参加チームは約半数に減ってしまった。

 ビーチラグビーが持つ魅力を、特に若い世代に伝えていきたい。そう考えている時に「One Rugby」発足の声を掛けてくれたのが、代表理事を務める廣瀬俊朗さんだった。いろいろな形のラグビーが繋がり、広くラグビー界として盛り上げようという趣旨に賛同。日本ビーチラグビー協会に働きかけ、参加する運びとなった。

 タックルなどのコンタクトプレーがないビーチラグビーは、年齢や性別を問わずに楽しめる。大会はハイレベルな勝負が展開される「B1」クラスのほか、楽しさを優先させた「B2」クラス、女子向けの「レディース」があり、年齢別のトーナメントも開催されている。「B1」に参加するチームの中には、上は50代から下は中学生が所属し、さらには男女混成チームもあるという。高村さんは「体育会ラグビー部やトップリーグの選手が来たら勝てるかといったら、そんなことは全然ない。ラグビーをやったことがない細くて速い人が勝つこともあるんですよ」と、その醍醐味を語る。

「夏」「海」という大きなセールスポイントを持つ競技だが、実際にプレーしてみると「チェスのような面白さ」も持ち合わせているという。そこには、5回の攻撃権のうち1回はボールを前にパスしてもいい、というビーチラグビー特有のルールも関係しているようだ。15人制のようなパスワークで敵陣に攻め込みながら、決定的瞬間でボールを前に投げて大胆にゴールを狙うため、ダイナミックな試合展開となる。

「人を動かしながら理詰めで戦う側面もあるのが面白いですね。15人制だと体が大きくて強いのが圧倒的に有利ですけど、ビーチラグビーは大きいだけでもダメだし、速いだけでもダメだし、上手いだけでもダメ。考える力がないと、なかなか勝てません。前にボールを投げられるので、コートをより立体的に考えないといけない。少しバスケに近い部分もあって、あくまでコートにいる選手は5人なんですが入れ替わりは自由。選手の使い方も含めて、15人制とは違った意味で頭を使わないといけないと思います」

世界各地で独自ルールを採用「何らかの形で統一ルールを作った方がいい」

 海外でも親しまれているビーチラグビーだが、実は世界共通のルールはなく、オーストラリアなどタックルが採用されている国もある。1つの競技として広く普及させるためには「何らかの形で統一ルールを作った方がいい」と高村さん。世界に数あるビーチラグビーのルールの中でも、コンタクトがない日本のルールが「一番面白いんじゃないかと思います」という。

「誰もが楽しめますし、コンタクトがない分、スピード感が出るのがいいと思います。昨今のラグビーブームも含めて、話題になる要素はあるはずです。ただ、日本で15人制ラグビーが話題になったのは、世界で勝てるようになったから。例えば、ビーチサッカーはワールドカップがあって、勝ち進むとメディアで取り上げられて注目を集める。統一ルールを決めることを含め、ビーチラグビーも世界と繋がることが必要だと思いますね」

 今回、同じく「One Rugby」に参加するタッチラグビーにもワールドカップが存在し、協会は日本代表を組織し、強化を進める。その形が「羨ましい気がする」と高村さんは話すが、「One Rugby」で生まれた繋がりの中で各競技からいろいろなアイディアを得ることを楽しみにしているという。

 残念ながら、今年は新型コロナウイルスの影響により全国で開催される「ジャパンツアー」が中止となってしまった。ビーチラグビーのイベント会場で、他のラグビーのデモンストレーションを行う計画もあったが、仕切り直しとなった。高村さん自身「ビーチラグビーの大会に出ない夏は初めて」と苦笑いするが、この期間を利用してメディアやSNSなどを活用しながら若い世代にビーチラグビーの楽しさを伝えていくつもりだ。

「世代交代は必要です。40歳くらいのオジサンたちが日本一になるのは、あまり健全じゃないと思うんですよ(笑)。本当は若い人たちが出てきて、新しいことをどんどんやって、僕らは『敵わないな』と思えるのがいい。新しくラグビーに興味を持った人が、プレーし始める入口になりやすい競技だと思います。競技する人の裾野が広がって、また1000チームを超える盛り上がりになるといいなと思います」

【高村さんが見る「タッチラグビー」のここがスゴイ!】

 僕も大会に出たことがあるんですけど、試合中はずっと走りっぱなしでマラソンみたいな感じで、相当しんどいなっていう印象があります。あと、タッチをしたかしないか自己申告なんですよね。15人制をしていた僕は、レフェリーが決めて、それに異を唱えないことが美徳だと思っていたので、衝撃を受けました(笑)。以前、ベトナムに住んでいたのですが、その時、オーストラリア、スコットランド、アイルランドなど多種多様な人がいる中で、タッチラグビーをしようとなると、みんな同じルールで動けるんです。それは面白いなと思いましたし、これだけ世界に浸透しているんだと感じました。

(次回は車いすラグビーの三阪洋行さんが登場)(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)