全選手が年俸の一部を返納、札幌の主将が再開への思いを語る サッカーJリーグは先週末、J2が再開、J3が開幕、そしていよいよ7月4日にJ1が再開する。サポーターにとっては待ちに待った瞬間を目前に、複数のメディアによって構成される「DAZN J…

全選手が年俸の一部を返納、札幌の主将が再開への思いを語る

 サッカーJリーグは先週末、J2が再開、J3が開幕、そしていよいよ7月4日にJ1が再開する。サポーターにとっては待ちに待った瞬間を目前に、複数のメディアによって構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」はJリーグ全56クラブの主力選手、クラブ幹部、スタッフをインタビュー。「THIS IS MY CLUB – FOR RESTART WITH LOVE -」と題した企画で、開幕、再開を熱く盛り上げる。

 THE ANSWERではJ1北海道コンサドーレ札幌、MF宮澤裕樹を直撃。クラブへの年俸の一部返納という異例の決断で話題を呼んだチームをまとめるキャプテンは何を思い、行動に移したのか。札幌一筋13年目の男に今季にかける思いを聞いた。

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「札幌の選手は、日頃からサポーターの皆さんやパートナー企業さんと様々な形でコミュニケーションをとる中で、自分たちがどれだけ皆さんに支えられているかを理解しています。お互いがどう貢献し合っているかがわかっているからこそ、苦しいときにお互い、助け合える」(北海道コンサドーレ札幌・宮澤裕樹)

 世界を襲った未曽有のコロナ禍。スポーツ界でも多くの選手、チーム、関係者が自分たちのフィールドを超えて、メッセージの発信や社会貢献活動を行っていた。北海道コンサドーレ札幌も、その一つ。『BEYOND THE LIMITS 乗り越えろ』と掲げたスローガンの元、様々な取り組みをスタートした。

 サポーターや地域に住む人々に対し、SNSや地元メディアから積極的に情報を発信。マスクの寄贈や苦境に立つ協賛企業へのクラウドファンディング。次から次へとアップデートされる彼らの動向を追うだけで、札幌というチームがいかに地域とともに在るかが伝わってくる。

「『厳しいなかでも試合を楽しみにしている』『チームのために戦う姿が見たい』。ファンやサポーターから寄せられる言葉が、いちばん励みになっていました。

 自分たちは以前から、愛情を持ってサポートしてくれるファンやサポーター、企業、そしてチームスタッフがいてこそサッカーがプレーできるんだと思ってはいた。でもこの中断で本当にサッカーがプレーできなくなり、改めて支えてくれる人たちの大きさを感じました。たからこそ、自分たちがチームに対して何か貢献できないかを何度も話合ったし、自然とそこ(社会貢献などの活動)につながっていった。中断期間、応援してくれる方の温かさを感じたし、苦しい中で応援し合える関係性は、本当に素晴らしいと感じました」

 そんななか、札幌のニュースが全国的に衆目を集める。4月6日、コロナ禍で財政的な苦境に立たされるクラブに対し、所属する全28選手が、年俸の一部を返納することを申し出たためだった。

「返納は選手たちから提案させてもらい、チームが気持ちを受け取ってくれた、という形です。“コロナ禍の影響でチームが経営的にも厳しい状況になる”。その情報が選手にも入ってきたことから、自分たちがチームに何かできることを探し、ミーティングを重ね、給料の返納はチームのサポートになるのではないか? と話が固まっていきました」

 この申し出の実現には、選手だけでなく、その家族も同じ気持ちであることが大切だった。そう考えると、美談の一言では片づけられない重みがある。

「(大きな決断だったか?) そうですね、選手個々に給料形態も違うし、家族もいる。だから本当に簡単なことではなかった。自分たちの生活に影響がないか、ということを、選手間で何度も話し合いました」

ペトロヴィッチ体制3年目は「より攻撃的なサッカーができる」

 その後も選手やチームは社会的な活動を継続しつつ、オンラインでのグループチャットやトレーニングを通じて現状を報告し合い、来たる再開に向けて黙々と準備を進めた。リーグ再開の通達があったときは正直、「やっと決まったか!」という思いだった、と宮澤は振り返る。

「サッカー選手として、やっとしっかり準備ができる、早く試合がしたい、という気持ちでした。勿論、コロナ禍における難しい状況はこれからも続きます。でも、これからはプレーをすることで皆を勇気づけていきたい。リーグ再開が本当に楽しみです」

 札幌は今季、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督体制で3年目を迎える。過去2シーズン、年間を通しての戦績には安定感を欠いたものの、2018年はリーグ4位、そして2019年は川崎フロンターレと記憶に残る激戦を繰り広げた末、ルヴァン杯準優勝という一定の結果を残した。

「(ペトロヴィッチ監督就任)1年目は、選手たちが今までと違うサッカーを楽しんでプレーできたことが、リーグ戦のいい成績につながったと思います。2年目のリーグ戦については、順位は落ちたものの(10位)、内容はそこまで悪くなかった。

 1年目にカップ戦で結果を出せなかったのは、メンバーが入れ替わるなかで、安定したパフォーマンスを出し切れなかった点が大きい。そして2年目は、自分たちが相手に対策をされたとき、跳ね返していく能力がなかったかなと感じている。

 でもルヴァンカップで決勝まで行ったことで、チームとしての力の底上げができた。力がついてきた証拠だと思います」

 準優勝という目に見える結果を残したことで、勝つためのメンタリティも身に付いてきた。今年は年間を通して、安定した戦いで結果を出すことにフォーカス。今、チーム全体のモチベーションは高い、と話す。

「監督のサッカーは特殊なので、吸収するまでには時間がかかった。でも、根気強く僕らを指導してくれたし、僕らも監督を信じてプレーを続けてきた。

 今のサッカーはやればやるほどコンビネーションがよくなるし、チームとしても、個々の選手をみても、レベルアップしていることを感じている。今シーズンは、よりアグレッシブな攻撃的サッカーができるかなと思います」

札幌一筋13年目の自覚「タイトルへ向けて、自分が引っ張っていきたい」

 札幌はリーグ優勝を照準に置いている。3年目にして見えてきたネクストステージに向けて、チームに必要なものとは何か。

「今シーズンは、短い期間で数多くの試合をしていくことになる。連戦になれば、ふだん出場している選手だけでなく、チーム全体の力が試される。つまり、何ていうか……本当に、一人ひとりが力を出し切らないとタイトルは獲れない厳しいシーズンだと思っています。

 でも、ここまで選手の入れ替わりがない年は、札幌としては本当に珍しい。それは、チームが選手を信頼してくれた証だと思うし、本当に皆が一つになって戦っていければと思う」

 サッカー人として、この中断期間に得たポジティブな点をあげるとすれば何か? 宮澤はサッカーへの愛情を確認できたことだ、と間髪入れずに答えた。

「チームとして戦い、ボールをつないでいく楽しさ。勝利だったり悲しさだったりが一瞬一秒で変わり、それを分かちあえる仲間がいる。

 自分がどれだけサッカーが好きなのか、試合がしたいのか。そしてサッカーがどれだけ素晴らしいスポーツか。それらを改めて感じられてよかったと思う。

 しばらくはリモート観戦(や入場者数の制限がかかる)ですが、いつかまた満員の会場で観てもらう日がくる。それまではリモートで応援してくれるファンやサポーターに、自分たちのサッカーやサッカーの素晴らしさ、そして画面越しでもサッカーの持つ熱を伝えていきたい。このモチベーションを持ったまま、試合に臨みたいですね」

 08年の加入以降、2度のJ2降格を経験した宮澤にとって、今J1でプレーしていることは当たり前ではない。その思いが、サッカーに対する情熱的な言葉ににじみ出ている気がした。

「高校を卒業してから一つのチームで13年目。J2の苦しい時代からプレーしてきただけに、チームに対する思いも強い。今はJ1でもタイトル争いに食い込むまでのチームになった。タイトルを獲る、というチームの目標に向かって、何とか自分が引っ張っていきたい」

 三級浪高うして魚龍と化すか――。経験と自信、そして苦境を乗り越えたことよってより強く結ばれた信頼を装備し、札幌は初のJ1タイトルを目指す。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。