連載「ニッポン部活考論」―“町のNo.1”が集まる強豪校で才能を伸ばすヒント 日本の部活動の在り方を考える「THE AN…

連載「ニッポン部活考論」―“町のNo.1”が集まる強豪校で才能を伸ばすヒント

 日本の部活動の在り方を考える「THE ANSWER」の連載「ニッポン部活考論」、今回のテーマは「強豪校で才能を伸ばす方法」。登場してくれたのは、サッカー元日本代表GKの川口能活さんとアテネ五輪日本代表DFの那須大亮さんだ。川口さんは清水商(現清水桜が丘)、那須さんは鹿児島実と、ともにサッカー強豪校の部活出身。競争の激しい環境で勝ち抜き、キャリアの礎を作った2人に「強豪校で伸びる人と伸びない人の差」について聞いた。

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 強豪校で伸びる人と伸びない人の差。

 両者を分ける要素はどこにあるのか。ともに、サッカー界で名の知れた強豪校で育った川口氏と那須氏。まずは風間八宏、名波浩、小野伸二ら、数々の日本を代表する選手を輩出した静岡の名門・清水商で3年間を過ごした川口氏の考えは、こうだ。

「中学から高校に上がる時、中学3年生というカテゴリーで自分たちが一番上手かった立場から、高校1年生で下の部類になる。そこで、レベル差を感じる。その時、心が折れてしまう人と、チャレンジできる人の差。カテゴリーが上がるにつれ、どうしても壁に当たる。レベル差という課題にどうアクションを起こすか。それは伸びる、伸びないの分岐点になると思う」

 口にしたのは、レベルが一変した環境での適応。

 強豪校とえば、市や町でNo.1だった選手が集まり、1つのチームを形成する。清水商は、その典型だ。「中学時代は静岡県選抜から、静岡市、清水市、浜松市の選抜、県選抜の候補も含め、そういう優秀な選手たちが集まっていた。清水商自体が“静岡県選抜”のようなチームだった」と川口氏は振り返る。

 入学当時の部員は70人、しかも7~8人いたGKで1年生は自分だけ。レベルの差を感じながら、心が折れなかった理由とは――。

「自分には武器というか、『これなら負けない』と思うものがあった。勝てないところは、他のところで勝負しようと割り切っていた。運もある。運を掴めるか、掴めないかも選手の強さ。やっとチャンスが回った時に緊張してしまったら、レギュラーは取れない。その上で、レベル差を感じた時に自分の武器はなんだろうと考え、把握していたことは大きかった」

 自分という人間を知り、自分の強さを見つけること。これは、那須氏も共鳴する部分だった。鹿児島実は、前園真聖、城彰二、松井大輔らを輩出した、こちらも名門である。

「才能だけでプロに行ける人はごく稀にいる」と前置きし、那須氏は「強豪校で生き残るには、まず他人と比べてはいけない。高校生レベルでは人それぞれに成長のスピードがあるから。レギュラーになれるのはタイミングも絡んでくる」と言う。

 その上で「一番持ち続けないといけないと思っているのは、誠実さ、謙虚さ、聞く耳」と強調した。

「『自分が上手いから一番だから』と、いつまでも自己中心的な考えでいたら、絶対にどこかで壁にぶつかってしまう。そういう生き方を否定しているわけじゃなく、誠実さ、謙虚さ、聞く耳という人として大切な要素を持っていたら、周りが助けてくれる。強豪校で壁にぶつかる時は絶対にあるから」

 いつまでも「No.1のプライド」を持ち続けていては、それがいつか成長の邪魔をする時が来る。

「行動」で2人に共通していた習慣「居残り練習にパートナー」

 那須氏自身、中学時代は県選抜に入った経験はなく、目立った実績があったわけではない。レギュラー争いに勝ち、主力に成長できたのは、川口氏と同じように自分の武器を見つけ、「長所を伸ばす」を徹底したことだった。

「周りは有名な選手に囲まれて、どうやって試合に出られるようになるか、ずっと考えていた。それが、自分にとっては長所を伸ばし、武器を磨くことだった」

 レベル差に直面し、無力感に苛まれ、安易に自分を否定するのではなく、冷静に自分のストロングポイントを探し、戦える武器を見つけ出すこと。2人の言葉は、強豪校で過ごす意識の持ち方として、大きなヒントになる。

 加えて「意識」と同じか、それ以上に大切なのは「行動」だ。具体的に日々の練習では、どう差をつけていたのか。

 ともに練習は週6日で朝練があり、授業後に全体練習。強豪校なら、居残り練習も当たり前のようにする。長く練習をするという“量”だけで、差はつけられない。共通していた習慣は「居残り練習にパートナーを持つ」だった。

 川口氏にとっては、1学年下にいた石野智顕(現・仙台GKコーチ)だ。

「全体練習後、石野と2人でよく練習していた。今でこそ映像を見て学ぶことは当たり前だけど、当時からトップ選手のセーブ、ヒスティングの技術、ディフレクションの対応を映像で覚えておいて、『こういうの、一緒にやってみようよ』と声をかけて。『考えてやれ』は指導者として今、言っていることだけど、自然と与えられた練習メニューにはないアイデアを出してやっていた」

 石野の代もインターハイと全日本ユースの2冠を達成し、その努力は2人にとって財産になったという。「あの時代、2人でトレーニングしたことは、その後のキャリアに生きたかな」と川口氏は振り返る。

 那須氏は1学年下の上本大海(元大分)を居残り練習で誘った。

 1対1にロングキック、ヘディングなど「センターバックとして強みを伸ばすトレーニングをひたすらやっていた」と回顧。その時、心の真ん中に置いていたのは「負けることを恐れないこと」だ。

「DFはミスすること、負けることがよくある。1対1の練習も大海が相手なら、DFの選手なのでドリブルがそこまで上手くない。ドリブルが上手いFWを捕まえて相手をしてもらい、勝てなくても受け入れて立ち向かっていた。負けるイメージをつけたくない人もいたけど、上手い人と勝負することから逃げない。『これは当たり前のこと』『上手くなるためだから』と言い聞かせて」

 チームメートは、レギュラーを争うライバルと見れば強敵だが、自分の能力を伸ばしてくれるパートナーと考えれば、強豪校がこんなに優れていることはない。

 2人は図らずも、この点で習慣が共通。練習の“質”を上げて、レギュラーを掴み、のちにプロで活躍する土台を作った。

コロナ禍も「考えの引き出し」次第で成長の差に

 そんな2人が高校時代のエピソードを明かす、印象的な機会があった。

「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開する「オンラインエール授業」。インターハイが中止となった全国の高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。5月27日に行われた授業で、川口氏と那須氏が全国のサッカー部120人と語り合った。

「インターハイ中止は前代未聞のこと。もし自分だったら、絶望的になったと思う。僕らも大人になっているので、いろんな可能性を知れるけど、高校生は不安しかないと思ったから」と参加の理由を明かした川口氏は、1時間の授業でこんな話をした。

「入学した時、まずは自分ができることやろうと、4つの目標を立てた。『チームでレギュラー』『県選抜に選ばれる』『アンダー代表に選ばれる』『冬の選手権に優勝する』と。紙に書いて部屋の壁に貼る。それをいつも見て、練習に行っていた」

「凄く強い学校だったので、難しかったけど……」と笑いながら、レベルの高い環境で意欲と才能を潰さず、成長につながった目標設定について披露。高校生たちに、まっすぐな思いを届けた。

 今回のインタビューを実施したのは、その授業後のこと。

 未曾有の感染症により、高校生は目標にしていた夏のインターハイが中止になり、誰もが味わったことのない経験をした。当然、先が見えない不安はあっただろう。しかし、練習も試合もできない状況は、また誰もが同じ。だからこそ、意識と行動次第で他の選手と差がつき、成長するチャンスは生まれる。

 那須氏は「もちろん、切り替えるのは難しいのは分かっている」と断った上で、言う。

「大きな悩みだったり、悲しみだったり、たくさんのものを抱えたと思う。でも、人間は思いが大きければ大きいほど、それを何かに変換した時に大きな力を生む。考えようによっては(本来は)感じられることがないことを感じた、だから感じられることがある、と思うこともできる。

 この出来事だから感じられたことを行動、考えに移し、新しいものを発見する原動力にしてほしい。今の大きな思いを力に変えた子たちがいれば、今年のインターハイができなかった世代から凄い選手が生まれると思っている。だからこそ、考えの引き出しをより多く持ってくれたら」

 “強豪校で伸びた”2人の言葉には、今、高校生が才能を伸ばすヒントが詰まっている。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)