「あまりに目まぐるしいっちゃない」そんな風に私が溜息をついていたのは木曜日、久々にマドリッド勢の試合が途切れた夜のことでした。いやあ、セビージャとベティスのアンダルシアダービーからリーガが再開して早2週間、すでに4節消化ともなると、新型コロ…
「あまりに目まぐるしいっちゃない」そんな風に私が溜息をついていたのは木曜日、久々にマドリッド勢の試合が途切れた夜のことでした。いやあ、セビージャとベティスのアンダルシアダービーからリーガが再開して早2週間、すでに4節消化ともなると、新型コロナウィルス流行によるparon(パロン/リーガの中断期間)で3カ月余り氷ついていた順位表も結構、様変わりしているんですけどね。一番は3月には宿敵バルサに勝ち点差2をつけられ、2位の座に甘んじていたレアル・マドリーがポイント数は同じながら、堂々の首位に返り咲いたことですが、その下のCL、EL出場圏順位にも結構、動きが生じることに。
その最たる例はアウェイでの不成績が祟り、弟分のヘタフェの1つ下、6位の座に甘んじていたアトレティコで、5月初旬から始まったミニプレシーズンにはクラブ幹部から相当、ハッパをかけられていたんでしょうね。CLとELでは収入が1憶ユーロ(約121億円)程、上下するため、給料カットや放出の脅しまであったかどうかは知りませんが、たったの4試合でセビージャまで抜いて、ちゃっちゃと順位をここ近年の定位置、3位まで戻しているとなれば、同じ5位で足踏みしている後輩とはやっぱりどこか覚悟が違う?
え、だからって別にアトレティコが上位2チームに追いついて、優勝戦線に復帰なんてことはありえないんだろうって?まあ、それはその通りで中断前の首位との差は勝ち点13、再開4試合後もやっぱり13のままと、あちらは天上の彼方、otra liga(オトラ・リーガ/別のリーガ)にいますからね。彼らが残り7試合全勝したとて、お隣さんだけでなく、バルサも一緒に5試合も負けるなんてこと、とても考えられないため、そんな高望みをしているアトレティコファンはいないんですが、むしろ最近の懸念は再開後、まだ1勝も挙げられず、リズムに乗れない弟分たちの方でしょうか。
実際、前節は火曜の午後7時半から揃ってアウェイ戦に挑んだアトレティコとヘタフェだったんですが、結果は明暗を分けることに。ちなみにマドリー同様、レバンテもコロナ禍最盛期にCSD(スポーツ上級委員会)やラ・リーガに今季いっぱいは無観客試合と通告されたため、シュタット・デ・バレンシアの大型改装工事を開始。残りのホームゲームをバレンシア(スペイン南部のビーチリゾート都市)から100キロ離れたラ・ヌシアにある2部Bチームのスタジアムで開催することに。そこで前日から乗り込んで、初めて経験するピッチに備えたアトレティコだったんですが、この日は第2FWとして入ったマルコス・ジョレンテが序盤から大活躍してくれます。
ええ、2度もエリア内右奥まで切り込み、GKアイトール・フェルナンデスの手を煩わせていたんですが、その猛攻が実って、15分に入った先制点でも彼は決定的な役割を果たしたんですよ。コケが短いFKを出して始まったプレーでは、トマスのエリア外シュートは敵の壁に弾かれたものの、アリアスからのスルーパスをジョレンテがコントロール。今度はGKをかわして横にボールを送り、ゴール前にいたジエゴ・コスタだか、その前で守っていたブルーノだかの足に当たってゴールになってくれるんですから、この急造アタッカーの有能なことと言ったら、もう!
いやあ、その劇的な出世ぶりには、「Hay vacile por mi posición, no por quién juegue/アイ・バシレ・ポル・ミ・ポシシオン、ノー・ポル・キエン・フエゲ(ポジションでからかわれることはあるよ。誰がプレーするかじゃなくてね)。だって、守備的ボランチのボクがFWやるんだから」とジョレンテは笑っていましたが、長らく実践しているパレオダイエット(旧石器時代の自然食)だけでなく、最近はHogo社製の特性エネルギー回復ベッド(3万5000ユーロ/約430万円)を購入。3カ月のconfinamiento(コンフィナミエント/外出禁止)期間中も当人は更なるフィジカル能力強化に努めたようなんですけどね。
実際、熱心にトレーニングしていたのは確かで、シメオネ監督も「練習ぶりを評価して、リバプール戦から前線に置くことにした。Al final la gente que trabaja siempre tiene premio/アル・フィナル・ラ・ヘンテ・ケ・トラバハ・シエンプレ・ティエネ・プレミオ(最後は働く者が常に賞金を得る)」と話していましたが、もしやそのジョレンテの資質にもう少し早く気がついていたら、リーガの状況も変わっていた?だってえ、今季のアトレティコが首位戦線から早々に脱落したのは首のヘルニア手術で長期戦線離脱があったコスタにしろ、モラタ、コレア、スター候補として獲得したジョアン・フェリックスまで、なかなかゴールが決まらず、得点力不足にかなり酷いところがあったせいなんですよ。
それを思うとちょっと悔しい気もしますが、後半はトマスのgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)もコスタのオフサイドで認められず、そのコスタのヘッド、コケがフリーで撃ったシュートも枠を外れ、追加点は奪えず。それでもバルディやマジョラルが絶好の好機に同点弾を挙げられなかったため、「Estábamos jugando ante un equipo que eliminó al campéon de Europa/エスタバモス・フガンドー・アンテ・ウン・エキポ・ケ・エリミノ・アル・カンペオン・デ・エウロッパ(ウチはヨーロッパ王者を敗退させたチーム相手に戦ったんだ)」というパコ・ロペス監督の諦めの言葉が示す通り、そのまま0-1でアトレティコの勝利です。
おかげで再開後、ヨーロッパの大会出場権獲得に向けて猛ラッシュをかけてきたビジャレアルと引分けた4位セビージャに勝ち点2差をつけ、シメオネ監督も「世界一のクラブであるリバプールを破った後、tenía claro que el equipo iba a competir como lo está haciendo/テニア・クラーロ・ケ・エル・エキポ・イバ・ア・コンペティル・コモ・ロ・エスタ・アシエンドー(チームは今やっているように競うだろうことを確信していた)」と胸を張れたんですが、木曜の夜にはそのアトレティコがCL16強対決で連勝したチーム、とうとうプレミアリーグ優勝も決めていましましたからね。その横でまたしてもヘタフェが同じ轍を踏んでいるんですから、困ったもんじゃありません。
いや、最近はマドリッドの街もかなり平常状態に近づいてきたんですが、まだバル(スペインの喫茶店兼バー)で2時間、座っているのは怖い気もして、リーガ再開後に契約したインターネット中継を自分のPCで見ている私はウィンドウを2つ開けて、文字通り、両方の試合を並列観戦していたんですけどね。正直、頭がこんがらがるため、あまりお勧めはしませんが、ホセ・ソリージャでバジャドリー戦だった彼らも兄貴分よりはかなり遅れたものの、前半40分にスローインから、カンテラーノ(ヘタフェBの選手)のウーゴ・ドゥーロがゴール前でアルカラスに潰されている間にマタが撃ち込み、先制点をゲット。
ところがロスタイム5分にはハイボールを争った時にジェネがウナルの頭を叩いたと、ペナルティを取られてしまったから、さあ大変!ウナルが自身で蹴ったPKで同点って、うーん、そのプレーを見る限り、「los gritos de los jugadores, sin afición en el campo, son inusuales, y se exagera mucho todo/ロス・グリトス・デ・ロス・フガドーレス、シン・アフィシオン・エン・エル・カンポ、ソン・インウスアレス、イ・セ・エクサヘラ・ムーチョ・トードー(スタジアムにファンがいない中、選手の叫び声が聞こえるのはあまりないことだから、何でも誇張している)」というボルダラス監督の文句も結構、的を得ているような。
ただ、ヘタフェには決勝点を挙げる時間は後半丸々あったにも関わらず、ホルヘ・モリーナ、アンヘルも投入し、30代FWトリオ揃い踏みでもゴールが入らないのではねえ。結局、1-1で終わり、スコアレスドローだったエスパニョール戦以外、グラナダには逆転負け、エイバルにも追いつかれ、4試合3分け1敗でまだ白星が掴めないとなると、やはりレンタル契約が6月末で終わるデイベルソン、ケネディの繰り上げ退団はちょっと早計に過ぎたかも。何せ月曜の次節は、こちらも1分け3敗と再スタートに失敗して、今は7位に落ちてしまったとはいえ、中断前は4位を張っていたレアル・ソシエダをコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎えないといけませんからね。
その後の木曜にもバルデベバス(バラハス空港の近く)のエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノに兄貴分のマドリーを訪ねなければならないため、現在勝ち点4差となったCL出場圏入りをヘタフェが再び狙うのはかなり難しくなったと言えなくもありませんが、大丈夫。たった4節でこれだけ変わるってことは、次の4節でも同じ可能性があるってことですから、まだまだ諦める必要はありませんって。
一方、アトレティコの次節は土曜午後10時(日本時間翌午前5時)から、ワンダ・メトロポリターノでのアラベス戦。水曜にはリーガ再開後、初めてディオフをもらった彼らの翌日の練習ではちょっと、不思議なテーブルサッカーなんかも見られたんですが、ようやくフェリペもケガが治って合流。オサスナに0-5のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を見舞ったのも何かの夢だったか、再び1-0勝利の定番に戻ったチームには、これって朗報ですよね。
そして同じ火曜にバルサがアスレティックをラキティッチのゴールで1-0と下した後、水曜にマジョルカ戦を迎えたマドリーはどうだったかというと。いやあ、毎回、彼らが徒歩でスタジアム入りする映像を見ると、本当に職住接近で羨ましくなるんですが、この日のジダン監督はアザールとビニシウスをスタメンで一緒に使うため、いつもの4-3-3のシステムを4-2-3-1に変更。ベンゼマがトップ、右サイドにはベイル、アザールをトップ下に起用していましたが、お気に入りの左サイドで見事に期待に応えたのが、来月には20才になるブラジル人FWでした。
ええ、前半18分にはモドリッチが周りの喧騒に関わらず、エリア内左でゆったり短く出した、ベテランならではのスルーパスをvaselina(バセリーナ/ループシュート)。GKレイナの頭の上を越えて先制点を決めたとなれば、もう誰も彼の決定力不足を笑ったりはしない?23分にも今度はベンゼマからボールをもらって、同じようにフィニッシュしていましたが、残念ながら、こちらはゴールバーを直撃。でもねえ、実は今回もマドリーの得点にはイチャモンがついていて、それにはモドリッチがボールを受ける前、センターライン近くでドリブルするダニ・ロドリゲスから、カルバハルがボールを奪ったプレーがファールだった疑いがあったから。
うーん、結局、その点に関してはVAR(ビデオ審判)でもスルーされてしまったため、またしてもカタルーニャメディアがマドリーびいきのジャッジだと、声高に批判することになったんですけどね。それでも後半12分、直接FKをセルヒオ・ラモスが見事に決め、最後は2-0の勝利ですからね。となれば、ピッチインタビューでラモスが、「マドリーがあれこれ言われるのは普通のこと。Se genera porque estamos líderes, antes no se hablaba tanto/セ・ヘネラ・ポルケ・エスタモス・リデレス、アンテス・ノー・セ・アブラバ・タント(そういうのが起きるのはウチが首位だから。その前はそんなに言われなかったよ)」と余裕を見せていたのも当然だったかと。
何せ、試合前にはジダン監督も「Mejor si se queda en casa/メホール・シー・セ・ケダ・エン・カサ(家にいてくれた方がいい)」と警戒していたマドリーからレンタル中の19才、久保建英選手の好プレーはあったものの、マジョルカはエースのブドミルが決められず、一番注目を浴びていたのが、15才219日のリーガ最年少デビュー記録を作ったルカ・ロメロでしたからね。木曜にはエスパニョールもベティスに1-0で負けたため、結局、もう1つの弟分レガネスを含む降格圏3チームは皆黒星で足並みを揃えたんですが…いや、問題は16位に上がったセルタ、17位の残留ラインのエイバルが勝って、マジョルカとは勝ち点6、レガネスとは7も開いてしまったことの方ですよね。
そして今週末、来季の続投はないとの報道があったアギーレ監督がそれは事実無根と完全否定したものの、月曜のグラナダ戦でカリージョとオスカルが負傷。FWがゲレーロとアサレだけになり、ますます暗雲が立ち込めるレガネスは土曜にオサスナとアウェイで対戦し、マドリーは日曜午後10時にエスパニョール戦と再び、降格圏のライバル相手に援護射撃ということになるんですが、今度は出場停止だったカセミロも戻りますからね。1週間前にハムストリングのケガで全治3週間と言われたイスコも超特急回復して、マジョルカ戦に途中出場していますし、再開後から4連勝している彼らの快進撃は今しばらく続くんじゃないでしょうか。
【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。